2026年7月に開催した「Japan SEO Conference 2026」。 本記事では、Special Keynote セッションのレポートをお届けします。テーマは「エージェンティックコマース」。AIエージェントが人に代わって商品を探し、比較し、購入まで進める、新しい買い物のかたちについてです。

AIでの購買を支える標準プロトコルとして、ChatGPTとStripが推進するACP(Agentic Commerce Protocol)や、GoogleとShopifyなどが推進するUCP(Universal Commerce Protocol)などが登場している今、事業者は何をどこまで備えるか。支援会社側とプラットフォーム側、それぞれの現場感をもとに議論が交わされました。

エージェンティックコマースの現状

300Bridge 藤原 義昭 氏、Yuwai 田中 広樹 氏、Shopify 岡村 純一 氏
まずは、登壇者の紹介。
300Bridgeの藤原氏は、ユナイテッドアローズの最高デジタル責任者や、ファンドの支援を経て300Bridgeを設立。現在は企業の事業戦略などを支援しています。
Yuwai の田中氏は、NHKで放送エンジニアを務め、大手インターネット広告代理店、アナグラムを経て2023年にYuwaiを設立しました。現在はECをはじめとした広告の実装部分の支援をしています。
Shopify 岡村氏はシステム会社やマーケティングSaaSでの勤務を経て、2019年にShopify Japanに入社しました。シニアパートナーソリューションエンジニアとして、パートナー向けの技術支援を担当しています。
はじめに、当社・Faber Company月岡から、エージェンティックコマースの現状を整理しました。

現在の技術仕様の例として、代表的な3つが挙げられました。
- UCP(Universal Commerce Protocol)
- Amazon、Meta、Microsoftなどが支持する業界標準の仕様
- AP2(Agent Payments Protocol)
- AIエージェントで決裁を行うための技術仕様
- The Universal Cart(AI駆動のユニバーサル・カート)
- UCPを基盤とした、GeminiなどのGoogleプラットフォーム横断で使用できるECカート
エージェンティックコマースにおけるUCPの役割は、マーチャント(EC事業者)とAIエージェントとの橋渡しです。たとえば、マーチャントがどのような機能を提供しているのか(購入までエージェントで可能なのか等)を、GeminiなどのAIエージェントへ提供します。そして、AIエージェントはその情報に基づき、ユーザーとの取り引きを調整します。
このように、プラットフォーム側で仕様の策定が進んでいます。
しかしECの現場では、まだエージェンティックコマースに対する具体的な動きは見られていないことが明かされました。「エージェンティックコマースの未来が到来するのか?どうか?」という不確実性に対し、企業は組織体制や経営方針を柔軟に設計できる状態を見据えることが本質的のようです。
では、エージェンティックコマースによって、ユーザーの購買体験はどう変わるのでしょうか?
ユーザーの購買体験はどう変わる?
エージェンティックコマースの到来時期について、藤原氏は「消費者が年間1万個の商品を購入すると考えたとき、今年中にそのうちの10個をエージェンティックコマースで購入するだろう」と予測しました。
いっぽうで、エージェンティックコマースによる購買が当たり前になる日は、永久に来ないと話します。あくまで購買チャネルの1つに過ぎないという考え方です。

藤原氏:
「技術実装が進んでも、AIに情報(個人の趣味嗜好や行動データなど)を安全に預けられる環境が整わない限りは、エージェンティックコマースの時代が来るかどうかはわかりません。情報を預けるかどうかというユーザーの判断次第ではないでしょうか」
さらに、ブランドがユーザーとどう信頼関係を築いていくか。データを提供してもらえる環境や「体験」をどう整えていくかが、重要なテーマだと述べました。
田中氏は、「エージェンティックコマースは商品検索行動の拡張に過ぎない」と言います。こだわりがある商品は、店舗に行って見て買いたいというニーズは残る。商品検索という入口の行動は少しわかるかもしれないが、大きくはわからないという考えでした。

岡村氏は、北米での事例をもとに、UCPが実現する購買体験とは「会話の中で自然に生まれてくるもの」と解説しました。
岡村氏:
「明日デートに行くんだけど…、という相談の中でコーディネートの提案がなされる、というのが最初のステップです。AI上で決済まで完了するのはその次の段階だと思います」
岡村氏はエージェンティックコマースの浸透を、サブスク型のコーディネートサービスや食材宅配サービスに例えました。これらのサービスは、「パーソナライズされた良いものを提供してくれる」という信頼で成り立っています。同様に、AIへの信頼が積み重なっていけば、AIに自分の情報を預けて、そこから購買行動が生まれていくという未来が進むのではないかと話します。

情報収集にAIが活用されているのは実態として存在し、AIによってロングテールの商品の売上が上がったというデータもあるようです。
※参考:Q2 2026 Investor Deck(AI経由の購入の75%は、上位100カテゴリ以外のカテゴリから発生)
企業・ブランドはエージェンティックコマースに何を備えるべきか
企業やブランドはエージェンティックコマース時代に向けて、どう備えるべきでしょうか。
藤原氏:
「データを多く取得できる大企業の方が有利だとした上で、『ビジネスを研ぎ澄ましてユーザーに選ばれるブランドになること』『そのうえでテクノロジーを活用していくこと』が大切だと思います」
田中氏:
「商品のデータを整備することは、エージェンティックコマース時代の入場切符になるでしょう。たとえば『もこもこの靴下』という商品があったとして、それがどのような特長がある商品なのかは写真を見ただけでは、まだAIは判断できません。エージェンティックコマースの分野でも機械可読性が重要になりそうです」

岡村氏も同様に、自社のブランドを正しく伝えることが重要だと述べました。
岡村氏:
「たとえば『今までにないクールなバスケットウェア』といった抽象的な言葉ではなく、『1960年代のNYにあった○○チームを想起させる…』といった、AIが理解しやすい具体的な言葉で表現することが大事になります」
岡村氏は「ECのジャイアントキリングは起こり得る」と言います。事実、Shopifyでは小規模ながらもグロースしているブランドがいくつもあるとのことです。ただし、その鍵はAIをハックするということよりも「ブランド構築にどれだけリソースを集中できるか」にあるといいます。
Shopifyではエージェンティックコマース時代を見据え、マーチャントがAIにブランドを正しく伝えるための仕組みを整えているとのことでした。

改めて3名の登壇者から、「企業が取り組むべきこと」を話していただきました。

やることを、短期と中期で分けた方が良いでしょうね。中期視点ではブランドとしっかりと向き合うこと。短期の視点では情報のキャッチアップ。知っていないと、やるかやらないか判断できないですから(藤原 義昭 氏/300Bridge)

会社として取り組むと決めたのであれば、ACの仕組みを知ることです。AI対応したからといって売れる保証はありません。現状を把握したうえで、やるかどうかも含め検討してほしいと思います(田中 広樹 氏/Yuwai)

エージェンティックコマース対応のために予算が必要になると、前に進みづらい。Shopifyは無料で機能がついています。未来の売り上げに向けた(お金のかからない)投資と考えてください。不確実な世の中で大事なのは、柔軟に対応・変化できる組織体制や風土ではないでしょうか(岡村 純一 氏/Shopify Japan)
最後に月岡がまとめました。
月岡:
「まずは新しいテクノロジーについて学び、やるのかやらないのか判断できるようになるべきということですね。中期的には選ばれるブランドになること。AI検索対応と同じです」
短期は技術のキャッチアップ、中期はブランド構築と組織作りを
エージェンティックコマースをめぐっては、技術仕様の策定が各プラットフォームで進んでいます。
一方で、登壇者3名が関わる現場では、「事業者側からこのテーマを相談されることはまだ少ない」という声が共通していました。
購買体験の変化について、藤原氏は「エージェンティックコマースはあくまで購買チャネルの1つ」と位置づけ、田中氏も「商品検索行動の拡張」と捉えます。岡村氏は、北米の事例をもとに、会話の中から自然に購入が生まれる体験を紹介しました。時期や範囲の見立てには幅がありますが、AIに個人の情報を預けられる信頼が育つかどうかが分かれ目になる、という点は重なります。
備えとして繰り返し語られたのは、「短期は技術のキャッチアップ」「中期は選ばれるブランドの構築」です。商品データを整え、自社の価値を具体的な言葉でAIに伝える機械可読性も欠かせません。
月岡が締めくくったとおり、エージェンティックコマースやるべきことはAI検索への対応と共通する点が多いというのが、会場の皆様の声からもあがっていました。
Japan SEO Conference 2026 イベントレポート記事一覧
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