2025年1月16日、Faber Companyグループに辻正浩氏が代表を務める株式会社so.laが参画することを発表した。
辻氏は2003年から現在にいたるまで、最前線で日本のSEOに携わり続けてきた。スタートアップ企業から、月間PV数十億の巨大サイトのSEOまで幅広くカバー。支援サイトの月間検索流入は約5億回にのぼる。これは、日本の検索流入の5%に該当する数字だ。
名実ともに「日本のSEOをリードする実務者」と呼べる実績と経験を積んできた辻氏。辻氏がグループインという選択を取った背景には、日本のインターネットの未来を憂う想いがあった。10年以上の付き合いがある代表の古澤とともに、Faber Companyグループインの真意とその後の未来を伺った。
14年前の出会いとお互いの印象
古澤:
まずは私たちの出会いから振り返りましょうか。確か2011年ころ、SEO業界の関係者を集めた飲み会が最初の出会いだと思います。辻さんのことはもちろん存じ上げていましたが、そこで初めてお会いしたんですよね。
この時点で、辻さんからは日本のSEO業界を支えているという自負を感じました。実務経験者として培ってきた知見の深さがうかがえる会話内容は、それを十分に物語っていました。
それと、私と辻さんはお互い北海道札幌市出身なんです。しかも、学年もひとつ違いで年齢も近い。よく札幌まで足を運び、雪が降りしきる街でお酒を片手に語り合いました。
辻:
あの頃の写真を見ると面白いですね(笑)
同郷で同じ経営者ということで、古澤さんとはその後、年数回は会って話すという関係性が続いています。
古澤:
あの頃は私も若くて、まだまだ前線でSEOをやっていたりもしましたが、当時の私の印象などありますか?
辻:
古澤さんの話は、毎回とても勉強になりました。特にミエルカSEOのサービスが開始する以前、プロダクトの構想を聞かされたときは正直に「いやあ、さすが古澤さんだ」と思ったものです。
ミエルカSEOは2015年から提供開始されたわけですが、それ以前のSEOは人工リンク※が主流で、それが効果的でした。一部の検索語句では、人工リンク以外に検索順位を高める方法がなかったほどです。しかし、Googleの進化もあってその効果が危うくなってきていた。そこで古澤さんはいち早く「脱・人工リンク」の施策に取り組み始めていました。
※人工リンク
自作のサイト同士でリンクを貼る自作自演行為や、金銭で購入したリンクなどの総称。被リンクが多い=良いサイトと認識されていたGoogleのアルゴリズムにおいて、有効なSEO施策として多くの企業が人工リンクを活用していた。現在これらは悪質なリンクと判断され、サイトの評価を下げたりペナルティの対象になったりする。
当時、その取組内容を顧客に説明する資料が、私たち業界関係者にも流れてきました。資料の内容はとても真っ当で、人工リンクの危険性について伝えつつ、それでも成果にコミットしているのがみてとれました。「成果を出すことを前提に、正しい手段を用いてお客様を支援する」という、誠実な姿勢は初めてお会いしてから今も変わりません。
古澤:
懐かしい話ですね、お恥ずかしい(笑)
日本のSEOを支える人材を見出し、育てようと決意
古澤:
では、メインである今回のグループインについてもお話していきたいのですが、どのような背景があったのでしょうか。
辻:
根底にあったのは「日本のSEOを背負う者として責任を果たすのに、今のままでいいのか?」という想いでした。
独立して10数年。私はほぼ一人で働き続けてきたわけですが、この間、日本のSEOにはさまざまな変化が起きました。
2016年頃に某社メディアが大きなコンテンツの品質問題を引き起こしたことを契機に、一切運営に関わっていない私のもとにもSEOに対する多くの怒りの声が集まりました。2019年以降では、病気や災害、戦争とさまざまな深刻な情報がネット検索に求められるようになりました。私が支援している複数の企業もこうした渦中の真っ只中で、社会のために正しい情報を広く伝えて偽情報を抑え込もうと奔走していました。
私の仕事は「ビジネス成果だけを追い求める」だけでは不十分になってきていた。SEOという手段を用いて「正しい情報が届くお手伝い」をする仕事が増えていったのです。
古澤:
社会の変化に伴い、正しい情報を検索で人に届ける施策に取り組むようになったと。
辻:
公衆衛生のリスク増加や災害発生時において、人々はどのような検索行動を取るのか。社会や経済が不安定になったときに、人々はどのように検索で情報収集するのか。どうすれば正しい情報を伝えられるのか。特殊な状況におけるイレギュラーな仕事に、全力で対応していきました。
私が多くを教わった尊敬する方は、常々「業界のトップ15%にいる人間は、その業界に責任を持つべきだ」と言っていました。勝手ながら、検索結果に責任を負う立場として十分な仕事をしてきたのではないかと自負しています。
しかし、2024年に50歳になりましたが、その少し前から「このまま一人で働き続けることが正しいのか」と考えるようになりました。今のように働けるのは、せいぜいあと10年ほど。この間に、日本のSEOを支えられる人材を育てて、仕事を引き継がなければいけないと思い始めたのです。
古澤:
人材探しと育成のために、パートナーとなりうる企業を探していたのですね。
辻:
はい。とはいえ「人材育成できる環境を提供してほしい」という要求ばかりでは虫が良すぎます(笑) 私の得意領域であるコンサルティング業を通じて、相手に価値を提供できること。その上で、人材発掘や人材育成に協力してもらう関係性を築けること。この二つを条件に、候補となる企業を選定していきました。
いくつかお声がけしたのですが、主軸になるのは、やはりSEO系のサービスを提供している会社。でもSEO会社でまともなところは多くありません(笑)まともなSEO会社数社にお声がけする中で、古澤さんと本田卓也さんにも私の考えを伝えたところ「ぜひ仲間になりませんか」と打診をいただきました。
10年以上の付き合いで古澤さんが信頼できることわかっていましたし、Faber Companyのサービスが素晴らしいことも体感していました。私は求められてもSEO会社を紹介することは滅多にないです。信頼出来る会社は多くありませんので。今まで3-4社しか紹介したことがありませんが、その中で一番多く紹介してきたのはFaber Companyでしたし、その後で直接聞いたサービス満足度も非常に高いものでした。
そのような熟慮の末「一緒になるなら、Faber Companyしかない」と思い、グループインを決意したのです。
古澤:
私は十数年にわたり、辻さんがSEO業界の問題を解決しようと孤軍奮闘している様子を見てきました。インターネットと検索行動は、日本社会にとって欠かせない存在です。多くのユーザーを抱え、日々情報が飛び交うニュースサイトやサブスクリプションサービスで誤った情報が流れれば、その悪影響は甚大です。辻さんはまさに、日本の検索における「守り神」として君臨してきたと言えるでしょう。
その仕事の難しさと尊さを十分に理解していたからこそ「あと何年、辻さんは今のように働けるのだろう」と勝手に心配していたのです。「一緒に働ける機会があれば、必ずお声がけしよう」と考えていたので、お話をいただいたときは「ついにその時が来た!」と思いました。
今回のグループインについて、私は「辻さんのDNAを日本に残すプロジェクト」だと捉えています。このプロジェクトは、何が何でも私にやらせてほしいという想いがありました。同時に、辻さんの力を借りることでFaber Companyが大きく成長できると考えています。
例えば、Faber CompanyのSEOコンサルティング実務レベルの向上。辻さんが取り組むハイレベルなSEOプロジェクトに関わることや辻さんの知見を共有してもらうことで、コンサルテーション能力をはじめメンバーの成長に大きく寄与するでしょう。
また、辻さんとの仕事を通じてSEO業界で影響力のある立場を築くことができると考えました。Faber Companyは辻さんとタッグを組むことで、中長期的に日本のSEO業界をリードする存在に進化できるという確信を持っています。
辻:
そう考えていただけてとても嬉しいです。
私が取り組むSEOは特殊で、難しいものも多い。超巨大サイト、テキストがわずかなサイト、動画SEO、UGCサイト、爆発的な成長が必要なスタートアップ企業のサイトなど。これらのSEOをよい方向に持っていくには、ありとあらゆる業務が発生します。いまでも毎週のように未経験の問題が発生しています。それに対応していく事で、通常のSEOで成果を上げる上での有益なノウハウが得られることも多いです。
このような特殊なSEOは「経験」していないと分からない。でもこの経験を持っている人は、日本にそう多くありません。これらで得た経験とそこで培った知見を共有することで、今後のFaber Companyの成長にも大きく貢献できるはずです。
so.laというか、私の拠点もFaber Companyがオフィスを構えている神谷町に移すことになっていますので、色々と密に連係していきたいですね。
古澤:
辻さんと一緒にお仕事ができるのが楽しみですね!
【特別対談】未来を担うスタートアップを育てる。同じ志を抱くベンチャーキャピタルと検索の“職人”が語る、事業成長のためのSEOとは。
今後10年でAIがSEOに取って代わる未来はやってくるのか
古澤:
せっかくの機会ですので、辻さんがこれからのSEO業界に起こる変化をどのように予想しているのかを聞かせてください。
2024年はChatGPTなどの生成AIがあらゆるところで活用され、SEO業務にも大きな変化がありました。Googleでも「AI Overview」がリリースされるなど、SEOだけでなくマーケティングでも「AI」は切っても切り離せません。いま現在、私たちはスマートフォンを中心に、検索ワードをテキスト入力して情報を探していますが、今後の検索行動やSEOにどのような変化が起きると思いますか?
辻:
私の想定では、これから数年のスパンで既存の検索市場に大きな変化が起きるとは考えていません。
ごく近い将来、生成AIなど色々なツールを使いこなして情報収集能力を飛躍的に向上させる人は増えるでしょうが、これは少数派であって多数派の検索行動が変わるにはもっと時間が必要です。複数の検索エンジンを使い分ける人も、やはり少数派です。検索行動の多くを占める指名検索などを踏まえると、検索には従来型の検索エンジンを使い続ける人が多数派という状況がしばらく続くと思います。
ただ、AIによって変化が無いというわけではありません。Google Discover※はかなり前から存在していますが、ユーザーに合わせて情報を自動でレコメンドしてるという点において「AIが自分に合わせた情報を自動で提供」みたいな世界観はすでに実現されているのです。
※Google Discover
Googleが提供する、Webとアプリのアクティビティに基づいて、ユーザーの興味に合わせたコンテンツを自動的に表示してくれる機能。
そして、Google Discoverは既に大きな存在です。私の関わるサイトへの検索流入は月間5億超ありますが、直近ではGoogle Discover流入は月間2億超あります。すでに検索よりもGoogle Discoverからのトラフィックのほうが多いサイトも多数あります。
しかし、これは「検索行動がAIレコメンドに置き換わった」わけではありません。関与先の従来型の検索流入は増えていて、それにGoogle Discover・AIによるレコメンドがアドオンされているのです。AIの進化に伴って色々な新しいチャンスが生まれる事は確実です。これから数年程度のスパンでは従来型の検索が置き換わるということはなく、これまでと同様、検索エンジンの重要性が大きく揺らぐことはないと考えています。
古澤:
そうなると、消費者・生活者とタッチポイントを求めている企業のSEO施策も、大きな変化はないと見てよいでしょうか?
辻:
「Google Discoverに選ばれるように●●しましょう」のようなテクニックレベルで細かな変化は必然あるでしょう。とはいえ、大枠の戦略は変わらないと思います。
ここ数年で検索エンジンもAIの発達もあり、情報をより正確に扱えるようになっています。それ故に「単なるコンテンツの大量生産ではなく、人間がちゃんと評価するコンテンツを作る」ことが常識となりました。この流れは5年後も10年後も続くでしょう。
求む!インターネットや検索への好奇心にあふれる人
古澤:
今回のグループインには「辻さんの後継者を育成する」という大きな目的があります。辻さんが考えるご自身の後継者となりうる人材像について教えてください。
辻:
「SEO業界を背負ってほしい」という想いがあるため、インターネットの検索行動すべて、この業界にまつわるすべてをカバーするという覚悟を持つ人が望ましいです。加えて、その覚悟の根底には「インターネットや検索への好奇心とSEOを楽しめるマインド」が必要だと思います。
SEOは本当に難しい仕事で、日々刻々と変化する状況に対応し続けなければなりません。SEOが好きで変化を面白がるマインドがなければ、大成することは難しいでしょう。
古澤:
インターネットが好きであり、これからの日本のSEOを担っていきたいという気概を持つ人を全国から探し出し、辻さんのもとに集め、育成する。この環境を作ることが、私の役割だと思っています。この記事を見て「面白そうだ」と感じた人は、ぜひ声を上げてほしいです。
もう少しどのような素養が必要かお聞きしておきたいのですが、これまでのSEOの経験などは必要でしょうか?また辻さんのことを知っている人ほど、辻さんがハードワーカーだと認知していると思います。ついていくのは大変では、、、と思う人もいるかもしれません。
辻:
インターネットと検索が好きであるという条件に当てはまれば、これまでの職歴は重視しません。集まってくれた人には、イレギュラーで高難易度のSEOに私と一緒に取り組んでもらうことになります。業界の定石が通用しないプロジェクトに関わることで、自らで最適なSEO施策を提案・実践できるようになることが、育成のゴールになるでしょう。
私はハードワーカーだというのは自覚していますが、同じことをメンバーに求めることは絶対にありません!(笑) 一人で私の全てを担う必要もないと思っています。一緒に仕事をしつつ、時間をかけてノウハウを伝えていくことで、私の取り組んできた仕事に対応できるレベルに必ず到達できると考えています。
広くあまねく日本のインターネットを支えたい
古澤:
最後に、辻さんが描くグループイン後の未来とFaber Companyのこれからについてお話しましょう。
辻:
Faber Companyと協力することで、今までよりさらに広い範囲で日本のインターネットや検索を支えられるようになると考えています。
古澤さんがおっしゃるとおり、日本社会においてインターネットと検索は欠かせない存在です。公共性の高い情報に限らず、エンターテインメントやスモールビジネスなども、ひとつひとつが社会になくてはならないものです。
これまで、私一人では特殊な事情を抱える十数社のお客様しかカバーできませんでした。より多くのお客様と良好な関係を築いているFaber Companyと協力することで、もっとたくさんの企業を直接的、間接的にも支援できます。
10年後、満足してSEO業界を去れるように後進も育てるところにも頭を使いつつ、これまで以上に社会へ自分の価値を提供できるように尽力したいです。
古澤:
先ほどもお伝えした通り、辻さんをグループに迎えることで、私たちは日本のSEO業界、もっと言うとインターネット業界をリードしていく企業に成長していく必要があります。まだ未熟すぎてその境地には程遠いですが、辻さんと二人三脚で頑張りたいですね。
また、ひたむきに仕事に取り組む辻さんの姿は、育成対象の人材だけでなく、当社のメンバーにとっても大きな刺激になるはずです。これから、Faber Companyグループ全体で、辻さんが掲げる「日本のインターネットを守る」を実現していきましょう。