当社代表取締役Founder・古澤暢央がさまざまなWebメディアから注目のキーマンをお招きしてメディア運営のコツをお教えいただく「ミエルカ勉強会」。今回はぐるなび「みんなのごはん」編集部から伊東周晃氏と船津亮平氏をお迎えし、話題になるコンテンツの作り方とオウンドメディアの目的に対する捉え方のヒントについて伺いました。
伊東周晃氏プロフィール
株式会社ぐるなびの執行役員であり企画開発本部コミュニケーション部門長を勤めている。2007年の入社以来、「ぐるなび」を中心に関連事業のSEO及ひ゛ウェブ解析、広告等を担当、「みんなのごはん」の立ち上げにも携わった。In-house SEO Meetup運営メンバーでもある。
船津亮平氏プロフィール
株式会社ぐるなび企画開発本部コミュニケーション部門に所属。音楽誌「月刊ラティーナ」の編集者としてキャリアを積み、2014年にぐるなびへ入社して「みんなのごはん」の編集者を務めている。
読者層の興味・関心に添うコンテンツを作る
勉強会は、ぐるなび「みんなのごはん」の独自性の強いコンテンツの中身に関するお話から始まります。
古澤「ぐるなびが運営されているオウンドメディア『みんなのごはん』を拝見させていただきました。ユニークなコンテンツがたくさんあったのですが、その中でも『ぺろり!スタグル旅』は印象に残っています。この企画はどんなコンセプトから始まったのですか」
船津氏「『ぺろり!スタグル旅』はN2(J2がモデル)に所属するサッカーチームのサポーターの女の子が、応援のための遠征がてらグルメを楽しむコンテンツです。もともと、『みんなのごはん』では、有名サッカー関係者へのインタビュー企画を2015年くらいからしていて、読者にサッカー好きな人が増えていたのです。そこで、もう1つサッカーに紐付けたコンテンツを出せないだろうかと考えて、生まれた企画でした」
古澤「そうなんですね。主人公が食べるものも、福岡ならごぼう天うどんなど、なかなかニッチでおもしろいですよね」
船津氏「作者の能田達規さんが実際にその地方に行って、
古澤「そんな特性まで把握されているんですね」
船津氏「はい。それに、どうしても都市部より情報量が少なくなりがちな、地方のグルメ情報の強化も同時にできそうだと思いました」
古澤「たしかに。リアルだからこそ、サポーターの方もコンテンツを読んだ後に追体験をすることができそうですね」
船津氏「はい。『この地方の名物グルメといえばやっぱこれだよね』と共感の声が寄せられることもあれば、『あの名物を紹介しないと!』といったリクエストをいただくこともあります(笑)」
コンテンツは、日頃の悩みから生まれることも
「みんなのごはん」では、おもしろコンテンツの他に、真面目に味を研究する企画もあります。こうした一見難しそうな企画も、企画内容とタイトルを工夫することで、SNSで話題になるコンテンツになります。
古澤「かと思えば、真面目というか少し難しい記事もありますよね。たとえば、『おいしい』以外の言葉でおいしさを表現するために、ミツカンさんにインタビューして味について紐解いた記事とか」
船津氏「これは、私たち編集部の悩みをそのまま活かして企画しました(笑)ライターさんにさまざまなグルメの記事を書いてもらうと、『おいしい』以外のうまい表現が浮かばない方もいらっしゃるんです。けれど、編集部としてどのようにフィードバックをするべきかも迷ってまして」
古澤「確かに、グルメリポーターのような表現をするのって難しいですよね」
船津氏「そこで、こうした企画にすることで、説得力を持たせつつ、
古澤「だから、記事のタイトルに『全ライター必見』という言葉を入れているのですね。ブックマークやシェアの数がとても多いのですが、予想通りライターの方にたくさん見ていただけたということですか?」
船津氏「タイトルに『全ライター必見』を入れたことでライターの方はもちろんたくさん読んでシェアしてくれました。あと、この記事って内容が結構高度で、よく読み込まないと理解しきれないと思うのです。そういった毛色の記事だからこそ、『これは難しいけどためになったよ』とシェアされることが多かったのかなと」
古澤「SNSって『自分はこんなこと知っている』という自己表現の場にもなりますもんね。なるほど」
媒体の多様化、消費者と情報の接点の変化に対応するため生まれた「みんなのごはん」
消費者と情報の接点の変化、『思わずニュースで取り上げたくなる/シェアしたくなる』話題づくりをしないといけない。そうした意識が、「みんなのごはん」誕生の原点でした。
古澤「先に記事について色々お話聞かせていただいたところで、あらためてぐるなびさんが『みんなのごはん』というメディアを立ち上げたきっかけを教えていただけますか?」
伊東氏「2011年くらいからですかね、SNS、ニュースアプリ、キュレーションメディアなどさまざまな媒体が増えて、消費者の情報との接点がすごく多様化してきたように感じてきました。私たちが運営している『ぐるなび』は、飲食店のデータベースでありお店の検索サイトです。『外食しよう』と思ったときに参照してもらえる媒体である一方で、SNSやメディアなどで話題になるきっかけがないなと思ったんです」
古澤「話題になるきっかけとは?」
伊東氏「たとえば、ぐるなびで紹介しているお店のページが、スマートニュースのコンテンツにはならないでしょう。だから、そうしたニュースアプリやSNSで主に情報収集を行う方と接点を持つための、新しいコンテンツフォーマットが必要だなと感じたんです」
古澤「なるほど。ちなみに、消費者と情報の接点の変化は、Twitterなどを見られていて感じたのですか?」
伊東氏「TwitterがGoogleと提携してリアルタイム検索を始めるなど、世間での盛り上がりや注目度・検索の需要によって、Googleの検索結果が大きく変わるようになったことからですね。特定の単語をGoogleで検索したときに、平時はWikipediaが最上位に表示されるのに、関連する事件が起こるとニュースメディアが検索上位に来ることもありますよね。こういった動きを見て、自分たちも取り上げられるような記事づくりをしていかないとと思ったんです」
古澤「そうして『みんなのごはん』はスタートし、途中で船津さんもジョインしたと」
伊東氏「小規模で始めて、もちろん失敗もしたけれどいくつか成功体験も持てたことで、このメディアは続けていく価値があるって思うことができました。そのタイミングで、より編集の視点を持った人に力を借りたいと思い、船津たちにメンバー入りしてもらいました」
記事の広まり方を意識してタイトルを設計
記事は制作して終わりではありません。多くの人に読んでもらい、何かを感じ、願わくば行動してもらうことがゴールになります。「みんなのごはん」では〝記事の広がり方〟を意識したコンテンツ企画を大切にしています。
古澤「コンテンツは、月何本くらい制作されていますか?」
船津氏「月80本くらいですかね。1日2~4記事をリリースしています」
古澤「かなりの本数ですが、記事制作にあたって意識していることは?」
船津氏「ライターさんが、取材対象に対して熱量を持てる記事をつくることです。だから、企画出しから協力してもらうことも多いです。もうひとつは、記事をどう広めるかについて徹底的に考えることです」
古澤「たとえば、この台湾スイーツをテーマにした記事は4000以上のツイートで言及され、500以上のシェアをされています。どんなことを意識して記事を設計されましたか?」
船津氏「まず、この記事を書いていただいたほそいあやさんが、
古澤「一見、読みにくくて何のことを書いているのかわからないようにも見えますが、このタイトルにしたのはどうしてですか?」
船津氏「台湾について知らない人にとっては何のことか分からないけれど、一方で台湾好きな人には一目で『あのことだ!』ってわかって、興味を持ってもらえるんです。だからこそ、知っている人は『私の好きな台湾の、あのスイーツが日本上陸だ!』ってシェアをしてくれます。台湾好きの日本人はとても多いし、距離が近く頻繁に通えることもあってか、台湾好きな方はとても熱量が高い。だから、あえてこうしたタイトルにした方が、シェアが伸びるだろうと思っていました」
古澤「なるほど」
船津氏「このお店は、台湾だけでなく中国・アメリカ・オーストラリアなど世界各国で502店舗展開されています。だから、『台湾じゃない国でこれを食べた』と言葉を添えつつシェアしてくれた海外旅行好きな方もいました」
古澤「ターゲットと拡散導線をあらかじめ想定して記事を制作されるということですね。SNSでどうシェアされるのかをイメージしているのが素晴らしいです」
コンバージョンは1つだけじゃなくていい、「みんなのごはん」の出口戦略
ほとんどの企業にとって、オウンドメディアの最終目的は企業への売上貢献。だからこそ、読者を集客してどうCVさせるかということに力点を置きがちです。しかし、ぐるなびは少し違った見方をしています。
古澤「オウンドメディアを運営する企業には、アクセスやPVがいくら増えてもCVにつながらなければ価値がないと見なす企業もあります。けれど、ぐるなびは100万人読者がいて、CVRがたとえ1%だったとしても、その価値は1万人に減らない、100万人に読んでもらうことの価値は変わらないという考えを持っておられますよね。その出口戦略が素敵だなと思っていて」
伊東氏「『みんなのごはん』の読者すべてがぐるなびで予約してくれるわけではありません。けれど、読者の中にはコンテンツを読んでくれて、シェアしてくれる方がいます。そうしたシェアの輪が重なって、有名な方へコンテンツが届くこともときにはあります。
すべての読者を導くゴールがCV、つまりぐるなびだと『予約してもらうこと』にしないといけないって考えなくてもいいと思うのです。そうじゃなくて、『この人は予約してくれる人』『この人はぐるなびで予約はしないけれど気になったお店は利用する人』『この人は読んでシェアしてくれる人』など、もっとセグメントする必要があると思います」
古澤「そうやって出口を複数作ることができれば、読者の価値をもっと広義に定義できますよね。ちなみに、読者といえば、みんなのごはんはTwitterで3万人以上のフォロワーがいますが、どうやって集めているんですか?」
船津氏「面白そうな方や、コンテンツのターゲットに見合う方、拡散してくれそうな方に対してはこちらからフォローして、フォローを返していただく場合もあります。けれど、理想は、良い記事を出し続けて自然とフォロワーの数が増えていくこと。そして、単にフォロワーの数が増えることよりも、いいねやシェアなどのリアクションをしてくれるフォロワーがたくさんいることの方が遥かに大事だと思います」
古澤「面白そうな方は、どうやって見つけるんですか?」
船津氏「今では、Twitterのハイライトという機能で、面白いことをつぶやいている人をピックアップしてくれるので、見つけやすくなっていますよ。みんなのごはんのコンテンツはクリエイターの方や作品づくりに携わる方と相性が良いとわかっているので、たとえば『デザイナー』や『pixiv 投稿』などといったキーワード検索をして見つけることもあります」
古澤「そういった見つけ方のコツがあるとは。ただ待つだけでなく、こちらから読んでほしい人を見つけに行く姿勢もやはり大事ですね」
今後目指すのは読者とのつながりの強化
記事を届け、読んでもらう。それがオウンドメディアにおける企業と読者の接点ですが、「みんなのごはん」では、さらにもう一歩踏み込んだ関係性づくりを目指しています。
古澤「今後はどういったことにチャレンジしていきたいですか?」
伊東氏「読者とのつながりをより濃くしていきたいと思っています。そのために、小規模からでも読者を集めたリアルなイベントなどをしていきたいです」
船津氏「私もリアルなつながりを作りたいというのは同じです。そうした関係性が生まれることで、さらに食に興味を持っていただけたらと思うので」
伊東氏「あと、考えているのはメールマガジン」
古澤「メールマガジン?どういった内容を発信するんですか?」
伊東氏「みんなのごはんのコンテンツがA面だとすると、B面にあたるような情報を提供していきたいのです。たとえば、『この記事を制作する裏側ではこうしたことが起こっていた』というような裏話とか(笑)」
古澤「それはファンも読みたくなりますね」
伊東氏「社内向けのチャレンジでいうと、3万人以上のフォロワーの方がいるTwitterアカウントをもっと活用していきたいです」
古澤「活用とは?」
伊東氏「ソーシャルアカウントもぐるなびのアセットだと認識してもらいたいのです。たとえば、このTwitterアカウントは記事の拡散経路になるので、当社が記事広告を受注するときの強みにもなるでしょう。そうした認識を広めて、読者は資産だということを伝えていければと思います」
古澤「そうした活用も、出口戦略の1つですね。ためになるお話、ありがとうございました」
編集後記:多様な出口を設けることで、オウンドメディアの資産価値が高まる
今回の勉強会において、印象的だったのは「みんなのごはん」における出口戦略です。オウンドメディアではどうしても「読んでもらう」ことの先にある最終ゴールは「買ってもらう(サービスを利用してもらう)」ことになりがちです。こうしたコンバージョンを意識することは、事業活動である以上もちろん大事であるものの、ここにとらわれるあまりに「コンバージョンが出なければオウンドメディアを運営する価値はない」と思ってしまう企業もあります。
けれど、「みんなのごはん」では読者のゴールを幅広く用意する出口戦略を敷いていました。記事を読んでぐるなびで予約してくれる人もいれば、記事を読んでシェアしてくれる人もいる …。どれが正解・間違いというわけでなく、「ゴールはこれでなくてはいけない」と決めるのでもなく、読者を複数のタイプに分けて、それぞれに合ったゴールの設定とそこに向けたコミュニケーション設計をしていければいいのではと思いました。こうした考え方が広く浸透すれば、「オウンドメディアは企業の資産だ」と広く認識してもらえるようになるのではないでしょうか。
おわり
著者PROFILE
記者、ライターとして活動後、大手英会話教材のWeb担当を経て、株式会社Faber Companyへ。広報としてミエルカ導入企業様の事例取材など発信業務を担当する。趣味は都内の銭湯めぐり。