様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは当社執行役員の月岡克博が務めます。
今回のゲストは、ハコベル株式会社の経営企画部長、コーポレート本部長の西本慎太郎さんです。
「物流の次を発明する」というミッションのもと、物流業界の効率化を推し進めることで、持続可能な物流の構築を目指すハコベル。約6万台(2024年9月時点)の車両ネットワークを通じて、業界に存在するさまざまな課題解決に挑戦しています。
西本さんはハコベルこそ「物流問題の解決にもっとも近い場所にいる」と語ります。ハコベルの事業内容や西本さんのキャリアとともに、その真意を伺いました。
(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:月岡克博)
伝統と長い歴史を持つ物流業界への参入
月岡:
ハコベルはどのような経緯で誕生したサービスなのでしょうか?
西本:
ハコベルは2015年、ラクスルのいち事業部としてスタートしました。RAKSULグループは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げています。この言葉に則り、ITの力やオペレーションの仕組み化を進め、伝統的な産業の効率化をしていこうと日々活動しています。
私たちは長年、印刷事業で効率化のノウハウを培ってきました。この力を活かせば、多くの課題を抱える産業を飛躍させることができるかもしれない。そんな想いで、物流の効率化を目指すハコベル事業部を立ち上げました。
ハコベルを立ち上げた当初は、地道な草の根営業で事業を拡大していきました。しかし、物流市場は非常に大きく、売上1000億円を超える企業が30社以上もある業界です。そうした企業様が名を連ねる物流業界で私たちといえば、お客様からしてみれば正体のわからないまるで宇宙人のような存在です。業界の入り口に立ったに過ぎず、越えるべき壁はあまりに大きいと感じざるを得ませんでした。
そこで私たちは、物流業界に大きな基盤とネットワークを持つ会社と協力していくことが事業戦略上とても重要だと考えました。そして2022年8月、セイノーホールディングス株式会社様とラクスルのジョイントベンチャーという形で、ハコベルが会社として独立することとなったのです。
物流業界での信頼を得る、競合他社との差別化を図るという点で、この決断はハコベルにとってもっとも大きなターニングポイントだったと思います。
月岡:
保守的な部分が多く、伝統的なイメージもある物流業界でのサービス拡大には、セイノーホールディングスとの連携が必須だったのですね。その中で、西本さんはどのような領域を担当しているのですか?
西本:
ハコベルは主に2つの事業を展開しています。
- マッチングプラットフォームサービス事業
・・・荷主と運送会社をつなぐオンラインプラットフォームを運営 - 物流DX事業
・・・荷主向けの配車業務効率化を支援するソフトウェアを提供
このうち、マッチングプラットフォームサービスは「軽貨物事業部」と「一般貨物事業部」に分かれます。端的に言うと、2トン以上の車両での輸送を行なっているお客様を担当するのが一般貨物事業部。それ未満の軽貨物車両で輸送しているお客様を担当するのが軽貨物事業部です。私はこのうち、主に軽貨物事業部を管掌しています。
3つのポイントで物流業界の課題解決に貢献
月岡:
西本さんは2024年4月にハコベルに参画したとのことですが、これまで約半年間過ごした中で、ハコベルというサービスがお客様にどのような価値を生んでいると感じていますか?
西本:
3つあると考えています。ひとつ目はコストメリットです。一般的にトラックの積載率は約4割であり、トラックの中身が空の状態である空車率も高い状況です。一方、世の中には配送してほしい荷物があふれています。
私たちは仕組み化の力で、空いているトラックに効率的に荷物を載せることで、物流コストを引き下げることに成功しています。実際に、運送手配サービスを通じて「今日中に配送したい」といった緊急性の高い貨物輸送でも大いに役立っています。
月岡:
今日中というと、具体的にどのような依頼が多いのでしょうか。
西本:
例えば「撮影現場に80箱のお弁当を配送してほしい」「工事現場に部材を届けてほしい」といったものが挙げられます。
お弁当などは前日に注文することも多いと思いますが、80箱となるとバイク便などで運ぶのは不可能です。工事現場での配送も、部材がなく工事が滞ってしまえば、大工さんの人件費などがそのままロスになってしまいます。
月岡:
緊急性の高い荷物の多くは、届けられないことによるデメリットが大きいのですね。
西本:
2つ目は物流の2024年問題解決への貢献です。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の規則が見直され、労働時間が短縮されており、それにより輸送能力が不足、荷物が運べなくなる可能性が懸念されています。
月岡:
荷物を届けてほしい人はいるのに、運べなくなってしまうかもしれないと。
西本:
ハコベルはその需給バランスを調整し、人手不足を解消できる存在になれると考えています。
3つ目は、ドライバーの待遇向上です。物流業界は多重下請け構造が多く、四次請け、五次請けとして荷物を輸送している配送業者も少なくありません。ハコベルは荷主と配送業者を直接マッチングできるため、結果としてドライバーに多くの報酬をお支払いできます。
月岡:
ラクスルが印刷業界で実践してきたことを物流業界に転用、発展させることで、多くの価値を生んでいるんですね。お話を聞いてよく理解できました。
「自分で事業をつくりたい」0→1の新たなチャレンジ
月岡:
西本さんは、ハコベル代表取締役社長CEOの狭間さんと、世界有数のコンサルティング会社でもあるベイン・アンド・カンパニーで一緒に働いていたと伺っています。その時の縁がきっかけで、ハコベルに入社されたのですか?
西本:
厳密には、ベイン・アンド・カンパニーを経てエンバーポイント株式会社に転職し、約5年間勤めた後にハコベルに入社しました。入社のきっかけを一言でいうと、狭間が私にとって絶妙なタイミングで声をかけてくれたのが大きいです。
エンバーポイントはデジタルマーケティング分野で長年の実績を持つ企業で、私はCXOとしてさまざまな領域の仕事を担当させてもらいました。ちなみにCMO時代にはミエルカを導入させて頂きました(笑)。そうやって自分の中でも「一通りやりきったな」と思うなか、ひとつだけ挑戦できていない領域があったんです。
月岡:
それはなんだったんでしょう?
西本:
「自分で事業をつくること」です。エンバーポイントはメール配信の領域で非常に強力なプロダクトを持ち、圧倒的なシェアを誇っています。私はそこで100を200にするといった事業成長に携わってきましたが、0を1にし、10にしていくというフェーズには関わってこなかった。
そこでスタートアップ何社かと面談したのですが、私はキャリアとして経営企画の経験が長いため、どうしても経営戦略サイドのポストの話ばかりに。そのタイミングで狭間から声をかけられ、「戦略づくりじゃなく事業づくりに挑戦したい」と話したところ、「ハコベルっていう良い会社があるよ」と(笑)
月岡:
それがきっかけだったんですね。狭間さんとは定期的にお会いしていたのですか?
西本:
そうですね。ベイン・アンド・カンパニーを退職後、年に一度は深夜に電話で話すこともあれば、実際に会って飲みに行くこともありました。狭間はいつも、絶妙なタイミングで声をかけてくるんですよね。超能力者じゃないかと思うくらいです(笑)。
私と狭間は、実はベイン・アンド・カンパニー時代では一緒に働いてはないんです。在籍中はお互いに別々のチームにいたのですが、私のことはものすごくハードに働くチームで頑張っているという点で覚えていたようです。
月岡:
そのハードワーカーなところが、ハコベルにお声がけした理由なのかもしれませんね。狭間さんからの誘いを受けて、すぐハコベルに入社したのでしょうか?
西本:
いえ。幹部である執行役員の方々にも会うなど、社内のメンバーとも交流した後に入社を決めました。執行役員の皆さんと初めて会ったとき、彼らのレベルの高さに驚かされました。特にすごいと思ったのが、スピード感です。
組織が戦略を実行に移すとき、組織のなかで最もスピードの遅い組織やチームに足並みを揃えることになります。組織の一部でもスピードが遅いところがあれば、事業成長は大きく停滞してしまうわけです。
私もある程度スピードには自信があったものの、ハコベルの役員の方々と話していて「果たしてこの人たちについていけるか」と不安さえ覚えました。
月岡:
うまくやっていける自信がなかったと。
西本:
はい。自信を持てないからこそ、逆にチャレンジしがいがあると思い入社を決めました。
火中の栗を拾いに行くのが好き
月岡:
チャレンジだと思ってハコベルに入社したとのことですが、幼少期から色々なものに挑戦するようなタイプだったのですか?
西本:
いや、少年時代はそこまで挑戦的ではなかったと思います。でも、昔から「負けず嫌い」ではありましたね。学生時代は弓道を中高6年間やっていて、全国大会で個人7位になったことがありますが、これが私の人生のハイライトで、おそらく今後もそうです(笑)。
社会人になってからは、徐々に試される環境に身を置くことが好きになりました。なんというか、余裕を持って実力を発揮し続けられる環境は、あまり好きではありません。
火中の栗を拾いにいくのが大好きなんですよ。そこで大きな試練に出くわすと、すごく燃えるというか。私のようなジェネラリストはそうあるべきだと思っています。
月岡:
私の知る優秀なマーケターの皆さんも、うまくいくことが分かっている領域、会社に居続けることはつまらないという方が多い気がします。
そんな西本さんがどんなご両親に育てられたのか気になるのですが、ご両親はどのようなお仕事をしていたのですか?
西本:
父は地元・広島で従業員50名くらいの不動産会社の代表を務めていました。母は専業主婦で、とても教育熱心な人でした。
月岡:
お父様は経営者でいらっしゃるのですね。負けず嫌いや何かに挑戦することに燃えるといった性格は、ご両親の影響が大きいと思われますか?
西本:
それはないかなと。大学で実家を出るまで、無口な父とはほとんど会話がありませんでした。よく父親とは銭湯に行っていたんですが、風呂に入ってからもほとんど無言で(笑)
そんな父に、幼少期からずっと反発していました。「俺は親父とは違う。もっと大きな会社で働くんだ!」と。
そこから社会人になり、コンサルティング会社で経営層の方々と話すようになって、改めて「社長って大変なんだな……」と痛感したのを覚えています。何十年も地元で会社経営を続けていた父に対して、はじめて尊敬の念が芽生えたんです。それ以来、父とは実家に帰ったときに少しだけ話すようになりました。
月岡:
私の父も小さい個人事務所の経営者でしたが、仕事一筋であまり話をする人ではありませんでしたね。私も仕事をするようになってはじめて、父親とちゃんと会話するようになったような気がします。
ハコベルはもっと大きくなります
月岡:
ここからはハコベルと西本さんの未来について伺いたいと思います。まず、西本さんが今後ハコベルで挑戦したいことはどんなことでしょうか。
西本:
いろいろと考えはありますが、何よりも「この会社を大きく成長させたい」と考えています。
物流の2024年問題をはじめ、物流業界は多くの課題を抱えているマーケットです。長い歴史を持つからこそ、新規参入する難易度も非常に高い。しかし、私はこの業界の課題解決にもっとも近い場所にいるのがハコベルだと思っているんです。
私たちが提供するサービスは、業界のみならず社会課題の解決にも寄与するインパクトがあります。加えて、役員をはじめ非常に優秀な人材がそろっていて、全員が物流という領域を通じて社会を良くしたいと考えています。
それなのに、メンバーがまだ120名程度しかいないのは非常にもったいない。取り組んでいる社会課題の大きさに鑑みれば、この会社はもっと成長できると思っています。
月岡:
会社の事業規模は、解決したい課題の大きさに比例すると言いますもんね。そういう意味では、解決しようとする課題が大きいハコベルはまだまだ成長余地のある会社ですね。
西本:
社会課題のなかには、貧富の差や地球温暖化などいまだに解決の糸口が見つかっていないものもあります。一方、物流の問題のひとつには「空車率を下げれば解決する」という非常にシンプルな解決策が見出されています。
私たちはデータの力を持って、この解決策を提供しようとしています。
現在ハコベルは、そのデータをどのように集めて、どのようにシェアを拡大していくかに挑戦しています。物流問題は国土交通省など政府も本腰を入れて取り組んでいるなど、追い風の状況です。非常に面白いフェーズにいる会社だと思います。
月岡:
やるべきことの難易度は高いものの、ある程度道筋が見えていると。今後、どのような人にハコベルにジョインしてほしいですか?
西本:
2つのタイプに当てはまる人だと考えています。ひとつは、物流領域が大好きな人/社会課題を解決したい人。そうした人にとっては、ハコベルは非常に働きがいのある会社だと思います。
もうひとつは、チャレンジに燃える人です。私はどちらかというと のタイプですが、目の前に解決すべき問題が山積していて、成熟した複雑なマーケットの中で新参者のスタートアップ企業が業界を変えていく。こうした困難な状況を楽しめる人を歓迎したいです。
絶賛採用を強化しておりますので、まずはカジュアルにお話させてほしいです。
ぜひ採用サイトからご応募ください。
ハコベル株式会社 採用にご興味がある方はこちらをご覧ください。
月岡:
最後に、西本さん個人としての目標はありますか?
西本:
「自分の経営への関わり方・スタンスを構築すること」を、ひとつのチャレンジと捉えています。例えばCFOからCEOになられた方の話を聞いていると、元CFOとしての特徴・強さをレバレッジした経営・アクションを意図的にされていると感じます。
私でいうと、M&Aアドバイザリー・戦略コンサル・CFO・CMO経験のバックグランドがありますが、それを経営に活かせるようになりたいですね。例えばM&A機会を常に探して動く、中期戦略やデータから非連続を作りに行く、等。CEOである狭間がやりたいことを実行するのではなく、自身の経験・強みを活かしてハコベルで事業を生み出し牽引していく。そんな存在になりたいと思っています。