株式会社GiftXのいいたかゆうたさんがインタビュアーとなり、様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。
今回のゲストは、株式会社Meety代表取締役の中村拓哉さんです。中村さんたちが立ち上げたカジュアル面談プラットフォームのMeetyは、月間ユーザー数7万人以上、利用企業500社以上を誇ります。Meetyを立ち上げた中村さんは、なぜカジュアル面談に注目したのか。起業に至った背景から、採用市場への想い、サービスをグロースさせるための戦略についてお話しいただきました。
(撮影・執筆:サトートモロー 進行・編集:いいたかゆうた)
起業への道と現実とのギャップ
いいたか:
中村さんはいつ頃から、起業したいと思うようになったんですか?
中村:
僕が起業を意識したきっかけは、大学1年生で手に取ったサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋さんの『渋谷ではたらく社長の告白』でした。藤田さんは僕が通っていた青山学院大学の先輩でもあるので、すごく感銘を受けたのを覚えています。
いいたか:
私も読みましたが、多くの方が通る道ですよね。
中村:
インタビューでもよく目にする本ですよね。同世代の多くの方と同様に、僕もまんまと影響を受けました(笑)。その後、「青学ベンチャーラボ」という起業サークルに入り、大学3年生には代表を務めました。そこで、たくさんのIT系の起業家たちとお会いしたんです。
彼らの多くはリクルート出身者でした。彼らは、当時のリクルートが紙からWebに移行する狭間で、会社が一気にグロースする手前に入社していました。そこで、僕も「これから伸びていくベンチャーへ行くしかない!」と思ったんです。
そこで入社したのがSpeeeです。大学3年生の12月には内定をもらい、在学中からインターンで働いていました。そして、ここから僕の暗黒時代が始まります。
いいたか:
え。なにがあったんですか?
中村:
学生時代の僕はいわゆる意識高い系で、「自分はイケてる」と思っていました。インターン時代や入社してしばらくは、営業を担当していましたが…。テレアポや商談といった当時の業務と、自意識とのギャップが大きすぎたんです。
そのギャップに適応できず、自分が活躍できないのを会社や上司のせいにして、まったく成長できませんでした。同僚が活躍するようになってきて、はじめて「もしかして…僕が悪い?」と思うようになったんです。
理想と現実のギャップに苦しみ、インターン時代には体調も崩してしまいました。会社を辞めようとも考えました。けれど「辞める前に、なんとか成果を出そう。このままじゃ逃げになる」と思いとどまったんです。そこからは必死に働きました。今思い返しても、入社1年目が一番忙しく働いたと思います。
いいたか:
学生時代に意識が高いと、実際の業務でギャップを感じやすいかもしれないですね…。Speeeでは、どんなキャリアを重ねていったんですか?
中村:
3年目までは営業を担当して、会社の歴代の売上記録をことごとく塗り替えました。その後は、当時盛り上がっていたアドテクノロジーの、運用代行事業の立ち上げに1年半ほど携わりました。そこから人事、投資案件などを担当し、約7年Speeeに在籍しました。
いいたか:
その間も、学生の頃と変わらず起業したいと思っていたんですか?
中村:
はい。営業で結果を出したタイミングで、辞めることも考えました。
辞めなかったのは、その時に独立しても、営業の代理店しかできないと思ったからです。僕はずっと、世の中を変えるプロダクトを作りたいと思っていました。そのネタが見つからず、起業できなかったんですよね。
カジュアル面談で採用市場をアップデートできる
いいたか:
そこから、どのように起業へと至ったんでしょうか?
中村:
起業前に、Speeeの投資案件で関わった、VRのスタートアップに出向しました。ほぼゼロからスタートアップを立ち上げだったので、これが僕にとっての起業かなとも思ったんですよね。
ですが、役職はCOOで取締役ではありませんでした。ファウンダーでもないので、意思決定には関われません。そんな環境で1年半働き、やはり自分で起業しようと決意しました。自分の得意領域は、Speee時代で培った営業力と人事力です。このふたつを起点に、起業のアイディアを考えました。
いいたか:
そして、カジュアル面談に行き着くわけですね。
中村:
「カジュアル面談」という切り口を選んだのは、今の時代に合わせた体験が提供できると思ったからです。
現在、採用市場は候補者側のパワーバランスが圧倒的に強い状態です。特にエンジニアは、市場価値が年々高まり続けています。にも関わらず、マッチングサービスにおける候補者の転職体験は、この数年間変化がありません。
候補者側の心理を調べるうちに、あることが分かりました。それは、「候補者は人事と会いたくない」ということです。
候補者は、現場の雰囲気やファウンダーの存在など、直接の生の情報を聞きたい。同時に、志望動機などを聞かれない心理的安全性が確保された場所を求めていました。今の時代、選択肢は豊かであるべきじゃないですか。会社に所属したままで、キャリアの種まきができる状態を候補者側は望んでいたわけです。
その実現のためには、「人事を前に出さない」という企業側のオペレーションが必要だと考えました。そこで注目したのが「カジュアル面談」です。当時のカジュアル面談は、結局面接や選考の場であるというきなくさい存在として認知されていました。だからこそ、カジュアル面談のUXを改善できれば、採用市場をアップデートできると思ったんです。
いいたか:
Meetyがグロースすると感じたのは、どのタイミングですか?
中村:
このサービスが成立するためのセンターピンは、現場の人がカジュアル面談を実施してくれるかどうかにありました。Meety内でさまざまな検証を行ったところ、想定より多くの現場の方が、Meetyを活用してくださったんです。そこで、「カジュアル面談はニッチな領域に留まらずグロースできる」と確信しました。
候補者がMeetyに流れれば、企業も追随せざるを得ません。今は、スタートアップ村で流行っているフォーマットとして浸透しつつあります。これを大企業にも広げて、「現場の人間が前に出ないと採用できない時代」という認識を定着できるかが大きな課題です。
「うっすらファン」を取り込むキッカケになる
いいたか:
僕もホットリンク時代、Meetyを活用してキャリア相談室を開いたんです。採用目的ではありませんでしたが、結果として相談に乗ったうちの1人が採用にまで至りました。なので、中村さんの話にはすごく納得感があります。
中村
実際、カジュアル面談から相手に親近感を覚えて、採用につながるケースはどんどん増えています。Meetyを頻繁に活用されているLayerXさんの採用チャネルを分析すると、約3割がMeetyで決まっているそうなんです。
いいたか:
すごい数字ですね。LayerXさんのようにMeetyで採用が成功している企業には、どんな共通点があるんでしょうか?
中村:
第一に、会社に魅力があります。LayerXさんには「うっすらファン」とも呼ぶべきファンがたくさんいましたが、憧れゆえに求人への応募をためらってしまう状況でした。
そんな中、LayerXさんがマンガやスキューバダイビングをテーマとしたカジュアル面談を立ち上げはじめました。それを見た方々に、「気軽に絡んでいいんだ」という雰囲気が生まれたんです。そして、「うっすらファン」が一気にLayerXさんになだれこみ、1ヶ月で数百人が申し込みされたそうです。
いいたか:
数百人!すごい数字ですね(笑)。
中村:
人事だけでこの人数に対応しようとすれば、きっと忙殺されてしまうでしょう。現場の方も参加して、はじめてこの数字が成立したんだと思います。LayerXさんの事例で、Meetyの価値はこうした「うっすらファン」を取り込むキッカケになれることだと感じました。
Meetyで採用が成功している会社のもうひとつの共通項は、現場の方が採用に前向きだということです。
いいたか:
「他のメンバーもやっているし、自分も仕事だけでなくプライベートで好きなことをテーマにカジュアル面談しようかな」という心理が働くわけですね。
この条件は「会社に魅力があるか」という共通項にも関連していそうですね。社内メンバーが会社に魅力を感じていないと、こういう発想にならないでしょうから。
中村:
そうですね。一方で、いいたかさんのキャリア相談のように、個人やカジュアル面談のテーマに魅力があれば、それが訴求になることもあります。
会社のブランド以外でも価値を生み出せるというのは、今までの求人サービスにはないポイントだと思います。
「求職者」のラベルなしにキャリアの種まきができる社会
いいたか:
Meetyは、どんなミッションやビジョンを掲げているんですか?
中村:
実は、Meetyって対外的にミッション、ビジョンを公表していないんですよね。なぜかというと、僕はまだ、MeetyがPMF(※)していないと思っているからです。
※PMF Product Market Fit(プロダクトマーケットフィット)の略。製品が適切な市場に受け入れられている状態を指す。
このあたりは、会社によって考え方は異なるかなと思います。プロダクトを世に送り出す前から、ミッション・ビジョンを作りこむ会社もあるし、PMFしてからプロダクトが描く未来を定義する会社もある。僕たちは後者の考えを持っています。今はミッション・ビジョンによって未来を固定せずに、柔軟に意思決定できるようにしたいと思っているので。
いいたか:
「対外的には」ということですが、社内で掲げているビジョンがあるということでしょうか。
中村:
社内的には、「カジュアル面談をきっかけに人生の選択肢を豊かにする」というビジョンを掲げています。カジュアル面談というフォーマットを選んだ理由は、好奇心のおもむくまま会社の「中の人」と会話できる場所があるべきだと思ったからです。
現在は、自分のキャリアを社外の人と話す時に「求職者」というラベルが必要です。ラベルに縛られず、キャリアの種まきができるようになれば、社会はもっとよくなると思います。その思いを抽象化したのが、このビジョンです。
いいたか:
「今の仕事は好きだけど、いいオファーがあれば転職も考えている」という人は増えていますよね。求職者にならず、話を聞ける状態はすごくいいと思います。
先ほどPMFについての話がありましたが、中村さんはMeetyのPMFをどう定義していますか?
中村:
5つの段階があると考えています。
①バリュープロポジションの確立
競合他社の弱い領域で自社がバリューを発揮できていること。そして、ユーザーがそこに高い価値を感じていること。このふたつは、PMFの大前提だと思っています。この部分が曖昧なまま突き進んで、失敗する企業が多い印象です。
②ユーザーのリテンション
Meetyには会員登録数、マッチング数などさまざまなKPIがあります。その中で、本質的な指標と思うのは「何度もMeetyを使っているか」です。この数値が一定水準まで来ているので、一部のユーザーへの価値提供が成功しつつあるなと感じています。
③オーガニック(≒バイラル)でのグロースモデルの確立
Meetyはバイラルで成長するサービスです。このモデルに将来性が感じられるかは、とても重要だと思います。
④ユーザー体験を損ねない形で企業側の思惑を一定満たせるか
Meetyはツーサイドプラットフォームです。申込者側の期待値を実現して、企業側にも納得して利用いただく。そうやって、企業・候補者双方のユーザー体験をよくする必要があります。
⑤それを広範囲へ広げていける
スタートアップというニッチな領域で終わらせず、より広く浸透させることが⑤です。ここまでがすべてできて、はじめてPMFだと思っています。
いいたか:
現状ではどれくらい達成できたと思いますか?
中村:
うーん…、20点くらいでしょうか。①から③は徐々に満たしつつあると思います。現在、Meetyをリテンションしてくださっているのはマニアックなユーザーです。それがマスに広がっても、耐えられるサービスになっているかと問われると、まだ不安はぬぐえません。
実は、HR系のサービスのマネタイズは、そこまで難しくありません。しかし、マネタイズに走ると小粒なサービスで終わってしまいがちです。それでは、起業した意味がありません。僕は、①から⑤までの課題をある程度クリアしてから、マネタイズしようと考えています。
巨人の肩に乗った戦略から流入チャネルの変革へ
いいたか:
Meetyでは、これまでにどんな施策を行ってきましたか?
中村:
僕たちは、さまざまな切り口での特集企画を実施しています。
会社ページまとめやBtoBデザイナー特集、IVS(日本最大級のピッチコンテスト)特集など。スタートアップ業界の旬なテーマや、業界の有名人を巻き込んだ特集を組むことで、会員数やマッチング数を伸ばしてきました。
noteの「コンテスト応募」に近い「テーマ投稿」という企画も開催しています。こうした企画に加えて、最近効果を発揮しているのはSlackとの連携です。
この機能では、社内バイラルを狙いました。仮にSlack内でMeety用のチャンネルを作り、いいたかさんのキャリア相談に申し込みがあると、通知が来ます。すると、通知を見たメンバーもカジュアル面談に興味を持ち始めます。その結果、さまざまな会社のSlackにMeetyチャンネルが立ち上がるにつれ、会員登録も増えていきました。
いいたか:
ホットリンク時代、Meetyを活用していたのは僕含めて数名だけだったんです。Slack連携が実装されてから、社内でも注目を浴びるようになり、会社として取り組むようになりました。Meetyさんの思惑に、きれいにハマったケースですね(笑)。
中村:
noteにMeetyのリンクを貼った際の、エンベッドカードのデザインにもこだわりました。
noteは企業のオフィシャルサイトと異なり、個人の魅力が伝わりやすく、生の声も届けやすいじゃないですか。そんなnoteからの採用という、受け皿のポジションを狙ったんです。最近では「noteの末尾にMeetyのリンクを添付する」という文化が徐々に浸透しています。その証拠に、Meetyのエンベッドカードが添付されたコンテンツが、1日20〜30件生まれています。
他の外部サイトからの流入も増えています。採用サイトやコーポレートサイト、セミナー資料などにMeetyのリンクを添付し、訪問していただくというのが主な流入経路です。スタートアップの資金調達のニュースに、Meetyのリンクが添付されているのも見るようになりました。外部サイトの流入が増えることで、結果としてMeety自体のドメインも強化されています。
現在はこうしたキッカケとしての役割を、会社としても強化していきたいなと思い、さまざまなメディアさんに声をかけているところです。
いいたか:
一見地味な活動に思えますが、中長期でものすごい効果を発揮しそうな施策ですね。
中村:
そうですね。Meetyは広告を1円も出稿せずに、数万人がご利用いただくサービスに成長しました。僕たちは、このままどこまでPLG(※)的に成長できるかに挑戦しています。Slackのように、自然と有料化したくなるプロダクトに育てていきたいです。
※PLG Product-Led Growth(プロダクトレッドグロース)の略。プロダクトのよさをそのまま販売に結びつける「プロダクトでプロダクトを売る」戦略。
とはいえ、現在のMeetyが「発信力や魅力のある人・企業だけが勝つプラットフォーム」になっていることは否めません。「巨人の肩に乗る」ではないですが、発信力の高い企業・個人にとって、いいキッカケになることでグロースしてきました。
SEOやPRでMeetyブランドを認知してもらい、ダイレクトに訪問していただくといった流入チャネルの変革が、今後の課題になるでしょう。
人と会社がゆるくつながり続ける社会を早く実現したい
いいたか:
Meetyでは現在、IT系スタートアップの利用が多いと思います。将来的に大手企業がカジュアル面談に参入することで、採用マーケットがどう変化するのを期待していますか?
中村:
実は、大手のパイはそこまで大きくないのでは、という説があるんです。中途採用市場を分析すると、1/3はインターネット業界が占めています。大手企業は新卒採用の文化が浸透していて、例えば総合商社は中途採用の求人をほぼ出していません。逆にいうと、人材紹介会社の顧客の半分がインターネット業界なので、ここをいかに取り切れるかが大事だと思います。
いいたか:
確かにそうですね。
中村:
大手企業の若手人材が、スタートアップに転職するときの受け皿になれるかは、大きなポイントになるかもしれません。
ただ、Meetyでは徐々に大企業の事例が増えています。大手企業にもDX文脈のニーズが高まり始めて、IT系の部門が立ち上がるようになりました。この領域での事例を増やし、大手へ訴求していければと考えています。大手企業にもMeetyを使ってもらうための、僕たちにとってのオセロの四隅は、オープンイノベーションに積極的な企業かなと。CVC(Corporate Venture Capital)やDXに対する感度が高い企業がMeetyを使うようになれば、一気にマスへ浸透すると思います。
いいたか:
なるほど。最後に、中村さんはMeetyを通じて、社会にどう貢献したいか教えてください。
中村:
僕は近い将来、人と会社の関係が変わると思っています。
これまでは、会社が個人に給料を払い業務に従事させてきました。「従業員」という言葉にも、それが表されています。しかし今、個人のパワーバランスが強くなってきたことで、人と会社との関係がフラットに近づいています。
そして、個人が会社によって制限されない、ひとりひとりが輝ける時代が来るでしょう。そんな時代において、Meetyは人と会社とが、ゆるくつながり続ける関係を構築する手伝いをしていきたいです。
この流れをもっとも作りやすい方法が、労働市場からのアプローチだと思っています。個人の市場価値が高まることで、会社と人との新しい関係性を「許さざるを得ない」状況を作ると言えばいいでしょうか。そうやって、僕は人と会社がゆるくつながる社会を、もっと早く実現したいと思っているんです。