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日本発デカコーン企業創出、本田圭佑ファンドの投資戦略に迫る。 X&KSK 山本航平

更新日:2024.9.5 公開日:2024.08.29
撮影場所:Wework神谷町トラストタワー 共用エリア

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは当社執行役員の月岡克博が務めます。

今回のゲストは、X&KSK Managing Partnerの山本航平さんです。

2024年2月に設立された、日本のスタートアップ企業へ投資する新ファンド「X&KSK」。サッカー選手で投資家、実業家でもある本田圭佑氏とともに、山本さんは中心メンバーとしてファンドの立ち上げに参画しています。同ファンドが目指すのは、日本での「デカコーン企業(評価額100億ドル=1兆円の企業)の創出」です。

米GE社から楽天、そしてX&KSKへジョインした山本さん。そのキャリアの変遷をたどりつつ、山本さんたちがファンドを通じて作り出したい世界について伺いました。
(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:月岡克博)

未上場でも成長できる環境を作り、デカコーン企業創出へ

月岡:
実は、ファンドの“中の人”にインタビューをするのは初めてです。まずは、山本さんたちファンドの人々が、どのような仕事や役割を担っているのかを教えてください。

山本:
多くの方々が想像するファンドの仕事は、企業にお金を投資することだと思います。そして、もうひとつ重要な仕事が、投資するための資金を機関投資家などから集めることです。

私たちVC (ベンチャーキャピタル)は、年金基金や国内外の政府系ファンド、事業会社などからお金を預かり、未上場企業に投資を実施しています。VCの場合は、通常10年間の期間でファンドを運用することが多いですが、投資利益を上げて、機関投資家に分配するまでが仕事です。

こうしたVC投資は、成長資金のニーズが高い企業を対象に行っています。一時的に赤字を出しつつも、その後に急成長する「Jカーブ」の成長曲線を描けるような企業を支援して、株式上場(IPO)や企業売却(M&A)を目指すわけです。

山本さま

月岡:
X&KSKはVCということですが、PEファンドなどの投資会社とはどのような違いがあるのでしょうか?

山本:
VCも広義のPEファンドの一部です。株式への投資は、大きく上場株式 (Public Equity)と未上場株式 (Private Equity = PE)への投資の2つで区切ることが多いですが、いわいるハゲタカファンドと言われるようなバイアウトファンドもVCも未上場企業への投資という意味では”PEファンド”です。

バイアウトなどのPEファンドとVCを分ける場合は、前者はビジネスモデルが確立された成熟企業へ投資し、議決権の過半数を保有して積極的に経営支援を行い、比較的短い期間で持分を売却するケースが多い。一方、VCはまだまだこれから急成長の可能性がある企業を対象に、少数株主としてマイノリティ投資を行う部分が違いになります。

月岡:
似ている部分もあれば異なる部分もあると。X&KSKは日本のスタートアップへの投資を行っているとのことですが、山本さんはこの国のスタートアップ市場をどのように見ていますか?

山本:
日本のマーケットは、「スモール上場」が中心だという特徴があります。

私は直近アメリカにしばらく住んでいましたが、向こうでは上場のハードルが高いので、約10年程の時間がかかります。それゆえに、約70%のスタートアップがM&Aでイグジット(創業者・出資者が株式の売却、株式公開などで利益を得ること)します。IPOは時間はかかるものの、やはり達成した場合のリターンは非常に大きいです。

日本はというと、良くも悪くも小規模の上場が投資家や起業家などすべてのステークホルダーのインセンティブとなっている現状は否定できず、アメリカとは逆に約70%がIPOでイグジットします。

上場後は、よりガバナンスが厳しくなるため、大胆なチャレンジがしにくくなります。実際に、上場後に増資をした会社の割合が驚く程少ないというデータもあります。本田ともよく議論するのですが、これは「まだ体ができていない学生のサッカー選手がいきなりJリーグデビューするようなもの」です。私たちが目指すのは、アメリカのように未上場のうちに会社が大きく成長できる環境を整えることです。

そこで重要となるのは、海外の機関投資家の資金を日本に引き込むこと。その呼び水としての役割を、私たちが果たせればと考えています。日本政府は「スタートアップ5か年計画」を打ち立てるなど、本気でスタートアップの育成に乗り出していますので、政府のサポートも引き続き大切であると感じます。

山本さま

月岡:
X&KSKはデカコーン創出を重要なミッションと据えているわけですが、どのような領域の企業に注目していますか?

山本:
デカコーン創出をミッションに掲げている以上、投資対象企業が将来的に複数の国にまたがって事業を展開しうるというのが前提になります。あとは、すでに1回2回とイグジットを経験している連続起業家で、グローバルでのさらなる大きな挑戦のために海外ネットワークにアクセスしたいと考えている起業家の方とも、私たちは相性が良いと感じています。

見ている業界は非常に幅広いです。コンシューマーテクノロジーからフィンテックはもちろん、宇宙や核融合など、ディープテック企業もスコープであるため、必死に勉強する毎日を過ごしています(笑)。

福岡から東京、そしてシリコンバレーへ

月岡:
そもそも、山本さんはなぜ現在のキャリアへ進もうと思ったのでしょうか? 確か、大学卒業後はGE社に入社しているのですよね。

山本:
私は生まれも育ちも福岡なんですが、すごく田舎で育ったこともあり、若い頃から「この狭い世界を出たい!」という想いがずっとありました。思えば、それがグローバルなキャリアに進もうという原動力になり続けていると思います。

とにかく地元から離れたいと思った私は、大学で上京したのですが、田舎者の世界を広げてくれた東京も、徐々に見慣れた景色となっていきました。そして「次は海外かな」とまた新しい世界に惹かれていったんです。

この頃、テクノロジー黎明期からシリコンバレー在住である梅田望夫氏の『ウェブ進化論』という本を読みました。テクノロジーがもたらす、新しい時代の訪れについて語られた本書に、衝撃を受けたのを覚えています。

月岡:
ああ、私も読みましたね!当時とてもワクワクしたことを覚えています。

山本:
学生時代は、インドで開発系インターンシップをしたり、所属していたNPOのロシア支部で働いたり、色々なことをやっていたのですがスタンフォード大学に短期留学して当時のシリコンバレーで様々な起業家の方と会えたことも、今につながる経験であったと思います。

新卒でGEに入社し、Financial Managemenet Program (FMP)というファイナンスのリーダーを育てる2年間のリーダーシッププログラムに参加しました。半年毎に様々な事業部をローテーションし、最初は金融部門で、次はヘルスケア部門、エネルギー部門、コーポレート部門と2年かけてさまざまな経験ができました。

ただ、グローバル企業といっても日本支社です。次は日本からグローバルを目指す経験をしたいなと思い始めたころでご縁がつながり、楽天に入社することとなります。

月岡:
そこからシリコンバレーに赴任して、楽天 三木谷浩史さんのもとで新規事業開発などを担当したのですね。

弊社 月岡

山本:
はい。楽天では、東京・シリコンバレーオフィスでプロダクトマネジメント、ビッグデータ開発、買収や投資、新規事業など本当に国を超えて様々なプロジェクトに携わることができました。そして何より、三木谷社長の側で「1兆円企業の経営」を直に学ばせて頂いた経験は、今後の自分のコアであり続けると感じています。

私が楽天のシリコンバレーオフィスに出向した2018年頃、本田は彼のブレーンである中西武士、俳優のウィル・スミスとともに「Dreamers VC」を米国で設立しています。日本人として、海外のインナーサークルで投資活動を行っている投資家はほとんどいなかったので、強く興味を持ちました。そして、共通の知人を介して中西と出会う機会があり、今回のジョインへと至りました。

スポーツとビジネスのトップランナーが持つ「やり切る力」

月岡:
山本さんは三木谷さん・本田さんと、ビジネスとスポーツそれぞれのトップランナーたちと仕事をしてきたわけですよね。この二人について、共通点のようなものはありますか?

山本:
二人を見ていてなによりすごいと思うのは「やり切る力」です。例えば楽天は、M&Aを通じて会社を成長させてきた歴史があります。赤字企業を買収後にターンアラウンドして黒字化まで持っていきマーケットシェアを拡大していく上では、本当に継続力と胆力が求められます。楽天が掲げる「GET THINGS DONE(信念不抜)」というブランドコンセプトには、三木谷社長のそのようなマインドセットが如実に表れていますし、実際に社員の中でも合言葉のように日常的に使われていました。

月岡:
赤字企業に落下傘ではいって立て直し、、、というのは、胆力がないと乗り切れないですね。本田さんについては、どのような姿勢からやり切る力を感じますか?

山本:
本田と仕事をするようになってまず驚かされたのは、支援先の企業に対するハンズオンの姿勢です。実はこのインタビューの前にも彼と打ち合わせをしていたんですが、チームのなかで彼が一番レスポンスが早いんです。

ファンドレイズから投資案件のソーシング、デューデリジェンス、投資後の支援にいたるまで。細かな数字もつぶさにチェックして、誰よりも熱意をもって行動しています。

また、サッカーでトップレベルの世界を渡り歩いてきた本田は、日本からグローバルを目指すうえで必要なマインドセットと実績を備えています。

事業の成長に欠かせないのは、小手先のテクニックではなくグローバルな起業家に負けないだけのマインドセットです。本田が培ってきた経験と思想は、世界を目指す多くの起業家が参考になる点が多くあると思います。

山本さま

個人の影響力を活かすセレブリティファンド急増中

月岡:
先ほど、本田さんがウィル・スミス氏とファンドを設立したという話がありました。こうした事例は、海外ではよく見られる事例なのでしょうか?

山本:
はい。実はアメリカを中心に、アスリートやアーティストなどのセレブリティがファンドを立ち上げるという動きが加速しています。

その背景のひとつとして、顧客獲得単価が上がり続ける中で、セレブリティが持つ「自社のプロダクトやサービスを世の中に爆発的に広めてくれる」影響力を求める起業家が増えていることがあります。アメリカのVCがこぞってポッドキャストなどをしているのはそういった影響力を強めるためですが、やはりセレブリティのもつネットワークや影響力の大きさは凄まじいものがあります。さらに、日本と大きく違う点として、アメリカはセレブリティと投資のプロとの接点が多く、人材の交流が盛んであることも挙げられます。

例えば、世界有数の金融サービス会社であるJPモルガン社とグラミー賞も受賞した世界的アーティストであるスティーブ・アオキ氏が、カンファレンスで対談するというイベントが開催されることもあります。エンターテインメントとビジネスが、さまざまな形でミングリング(混同)しているんです。

スポーツ選手を見ると、テニスの大阪なおみ選手やサッカーのリオネル・メッシ選手もファンドを運用しています。特にメッシ選手のファンド運用には、私の楽天時代の元同僚が携わっていますし、大坂なおみ選手のビジネスマネージャーも投資のプロであるスタッフがいます。

月岡:
トップアスリートやアーティストの多くが、個人の影響力を活かしてファンドを運営しているのですね。

山本:
私たちは、ウィル・スミス氏以外にスティーブ・アオキ氏やケヴィン・ハート氏のファンドも手がけています。これだけのスケールでファンドを運営できているのは私たちだけです。

このアドバンテージを強みにして、将来的にはセレブリティファンドの領域で最も大きなプラットフォームを作りたいと考えています。アジア方面にも進出して、例えば、BTSのようなアーティストのファンド設立などにも携わっていきたいですね。

山本さま

月岡:
日本でも、鈴木おさむさんが「スタートアップファクトリー」を設立して話題になりました。日本のセレブリティファンドの動きがさらに加速していけば、日本独自のエンターテイメントとビジネスのコラボレーションが生まれて、面白いことが起きそうですね。

目標は「スタートアップ業界の”大谷翔平”を生み出すこと」

月岡:
最後に、改めてX&KSKが目指す世界について教えてください。

山本:
短期的に目指していきたいのは、日本でナンバーワンのアーリーステージのファンドになるということ。それと同義ですが1社でも多くのデカコーン企業を創出して、エコシステムの変革に一石を投じたいと思います。

本田ともよく話すんですが、スポーツとビジネスの大きな違いは、成功への道筋がわかりやすいかどうかにあります。サッカーの場合は、メッシ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手のプレイ動画をいつでもどこでも視聴できます。しかしビジネスの場合、三木谷社長が日々どういう行動を取っているのか、外からは一切分かりません。

月岡:
できるかどうかは別として、スポーツは上達や勝利に必要な情報が手に入りやすいのに対して、ビジネスは成功に必要なものが分かりにくいと。

山本:
だからこそ、私たちは「シンプルでわかりやすい成功の事例」を生み出すことも重要なミッションだと思っています。そうした事例を日本の起業家に示すことで、彼ら/彼女らのマインドセットを変える。

そして、スタートアップ業界における”大谷翔平選手”を生み出していきたいです。

月島:
スタートアップ業界の大谷選手ですか。そうしたスタートアップには、具体的にどのような条件が必要だと思いますか?

山本:
最終的には起業家の素養が重要ですが、前提として事業が日本独自のテクノロジーや市場性を生かしているのかも重要だと感じます。IPビジネス、エンタメ、ディープテックなど、どのような分野でも良いと思いますが、日本の独自性が色濃い分野だったり、MOAT(競合優位性や強み)を持ちやすいニッチな分野など。

あるいはよりゼネラルな領域だとしても、アメリカの競合がアジアに進出する前に、日本及びアジアに展開することで面を取っていく動きなども可能性があると思います。グローバルと一言でいっても、色々な展開の仕方があるんじゃないかなと。

そのようなチャレンジをする企業と、グローバルなバックグラウンドを持つ投資家が連携することで、大きなポテンシャルを生み出せるはずです。ちなみに、英語力は必要不可欠だとは考えていません。それよりも重要だと思うのは、強い自己肯定感と自信を持って人々と接する能力です。

大谷選手がWBCの決勝戦の直前、日本の選手たちに「(目の前にいるのはメジャーの有名選手ばかりだけど)今日だけは”憧れ”を捨てよう」と伝えたシーンは話題になりましたよね。そのマインドは、ビジネスにおいても非常に大切だと思います。

月岡:
アジアで先に面をとってしまう、という考えは今までなかったです。ミエルカでも考えてみようかな(笑)ファンドの未来はお聞きできたのですが、山本さん個人として、何か目標はありますか?

山本:
繰り返しですが、世界に羽ばたく日本の起業家を一人でも多く生み出すサポートがしたい。デカコーン創出に向けて、起業家やVCだけでなく、政府や機関投資家、事業会社やエンジェル投資など様々なステークホルダーと「共闘」していくことが重要だと考えています。

これから世界を本気で目指す起業家の皆様は、ぜひ私のXアカウント(@Koheiya)までご連絡ください!

山本さまと弊社月岡

 

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