ユーザビリティテストの実践方法完全版。テスト項目や改善手法も解説。 市川莉緒 2021.06.30 2022/11/11 UI/UX UXサイト改善ユーザビリティテスト (Plan)ユーザビリティテストの準備を行う (Do)協力者にテストを実施する (Check)ユーザビリティテストの評価を分析する (Action)優先順位を決めて改善に取りかかかる 今回は、実践編として、ユーザビリティテスト実施前の準備段階から実施後の分析方法まで詳しく解説します。 ユーザビリティテストのメリットとデメリットやコストなどの概要についてはこちらの概要編を読んでみてください。 ユーザビリティテストの実践ステップ(PDCA) ユーザビリティテストは漠然と取り組んでもうまくいきません。Plan(準備)Do(実施)Check(分析)Action(改善)のPDCAサイクルをしっかりと回すことで高い成果が期待できます。 各ステップで取り組むべき内容を見ていきましょう。 (Plan)ユーザビリティテストの準備を行う ユーザビリティテストで満足な評価を得られるかは、この「準備」のステップでほぼ決まると言われています。次の5点をしっかり準備しておきましょう。 今回はECサイトを例にとり、ひとつずつ解説します。 1.テストの目的を明確にする なぜこのテストを行うのかを明確しましょう。 まず、Google Analyticsなどのアクセス解析ツールを用いて現状分析をし、今の課題を明らかにします。それをもとに、テストの目的を決めます。 ユーザビリティテストの目的をしっかりと明確化することで、テスト中に注目するポイントやテスト結果からの改善施策が立てやすくなります。目的が明確でないと改善すべき点が複数見つかった場合、どれから着手すべきか悩んでしまいます。 意義のあるテストを実行するためにも事前に目的を明確にしましょう。 2.ユーザー行動の仮説を立てる ユーザー心理や行動に対する思い込みを解消するために、事前にユーザー行動の仮説を立てます。ユーザーがどんな行動をとりどんな感想を持つか、上述の「目的」をもとに仮説を立てましょう。 今回はECサイトにおいて「迷わずに商品Aの購入まで至っているか」をテストの目的と設定した場合を例にとります。 仮説を立てることで、「仮説が正しいか」「なぜ正しくなかったのか」の検証を行えます。仮説検証では、サービス提供側が無意識に持っている思い込み(バイアス)を明らかにし、改善に繋げられるメリットがあります。 3.テストのシナリオとタスクを作成する 協力者に具体的な行動の指示を出すために、どのような場面(シナリオ)で何をしてほしいか(タスク)を設定します。シナリオとタスクを明確に設定することで目的に沿った行動を観察でき、協力者の行動に統一性を持たせられます。 たとえば今回の例の場合、次のようなシナリオとタスクを用意します。 シナリオ 親友の誕生日プレゼントを探している タスク1 予算5,000円程度で商品を選んで購入する タスク2 クレジットカードで購入する タスクだけでなくシナリオも設定することで、より実際の利用ユーザーに近い行動を観察できます。 タスクを設定するときに気を付けることは行動を抽象化、あるいは具体化させすぎないことです。 たとえば「このECサイトで自由に商品を注文してください」という抽象的すぎる指示では、目的が不明慮なため協力者は漠然とした行動しか取れず、協力者の行動に統一性がなくなってしまいます。 また「トップページではバナーをクリックしてください」というような具体的すぎる指示だと、実際のユーザー行動から遠ざかり課題点が発見しづらくなります。 4.質問と評価項目を用意する ユーザビリティテストの評価は、主にテスト後の協力者からの総合評価と、テスト中の協力者の発言内容によって行います。テスト当日はスムーズに進行できるように、協力者に質問する内容とテスト後の総合評価シートを事前に用意しておきましょう。 ポイント①テスト中の質問内容は「問いかける質問」 テスト中に協力者に質問する内容は「はい」・「いいえ」の2択を避けることがコツです。問いかける質問をすることで、ユーザー行動を深ぼりできます。 質問例 どうしてキャンペーンバナーをクリックしたのですか? 商品Aの詳細ページで追加してほしい情報はなんですか? フォーム入力の途中で手を止めた理由はなんですか? 対面式のユーザビリティテストでは、テスト中の行動を観察し用意した質問以外にも適宜質問しましょう。テスト中に質問できない環境下ではテスト終了後にまとめて質問しても構いません。 ポイント②総合評価を5段階で用意する 協力者にテスト後に記入をしてもらうための総合評価シートを予め作成しましょう。各評価を0~3、または1~4の4段階で評価してもらいます。 以下に評価軸の一例を紹介します。これらをもとに協力者に総合評価してもらうことで、WEBサイト全体の課題を見つけやすくなります。 5.協力者を集める 準備段階の最後のステップは協力者を集めることです。これを一般的に「リクルーティング」と呼びます。 シナリオに当てはまり、サービスのターゲットに近い協力者を集めましょう。協力者を集める方法はいくつかありますが、予算や時間の関係などを考慮し、最適な方法を選びましょう。 協力者を集める方法とそれぞれのメリットやデメリットを紹介します。 ここで注意したいのが、協力者の属性を限定しすぎると人数が集まりづらくなる点です。サービスのターゲット範囲内で年代や性別などの属性は余裕を持たせましょう。 なお協力者の属性を広げれば、新しい行動パターンを発見し観察できる機会に恵まれます。たとえばWEBやシステムにあまり詳しくないユーザー、色彩の識別が難しいユーザーなど幅広い年齢層やマイノリティ視点の評価を得ることで、より幅広いユーザーにとって使いやすいサービスに改善できるでしょう。 (Do)協力者にテストを実施する テスト実施前には必ずテストの環境を整えましょう。 サービスを協力者に評価してもらうことが目的のユーザビリティテストですが、協力者が逆にテストされていると感じてしまうこともあります。 自然な行動を引き出すためにも、ユーザビリティテストに不慣れな協力者がいる場合は特に、リラックスした雰囲気を作るなどの配慮をしましょう。たとえばテストの経緯を説明する際に雑談を混ぜることも一つの方法です。 テスト中は協力者に感じたことを口に出してもらう発話思考法(think aloud)と呼ばれる手法を用います。協力者が操作をする際に意識にあがるすべての感情や考え、理解などを口に出してもらいそれを記録する方法です。 一般的にメモを取ったり、ビデオカメラで協力者の手元を撮影して記録します。 また途中で感嘆詞(「あれ?」、「え?」、「ん?」)などが出たときは注意深く観察し動きが止まった理由を聞きましょう。細かな言動にもサービス改善に繋がる大きなヒントが隠されていることがあります。 協力者から質問が出てもヒントや手順の説明は避ける 操作方法について質問が出ても、回答は避けましょう。 協力者に対してはシナリオとタスクのみを伝えて、あとは自身で行動を判断し進めてもらいましょう。逆に協力者が悩んだり迷ったりした個所は「課題」が隠されています。協力者からの質問に答えてしまうと行動にバイアスがかかりテストの目的や本質からそれてしまうため、有意義なテスト結果を得られなくなってしまいます。 ただし、使い慣れないスマートフォンの操作や機能に対する質問など、テストの本質とは関係のない質問には回答しても構いません。 (Check)ユーザビリティテストの評価を分析する テストが完了したら、協力者からの評価とテスト中に記録した言動の分析を行います。 評価の分析方法は総合評価シートへの回答とテスト中の言動の記録の2つをもとに行います。 改善すべき評価軸を見つける まずは改善が必要な評価軸を分析するため、総合評価シートへの回答をもとにレーダーチャートを作成します。以下の図は今回の例の結果を集計したものです。 今回の場合「見やすさ」の観点から、何らかの改善が必要であることが分かります。 ページごとのタスクの完了度合いを分析 タスクを完了できなかった協力者が多いページから改善を進めます。 まずは、誰がどのページでどのくらいタスクを完了できたかを把握するために、テスト中の言動から各ページでのタスクの完了度合いを3つのレベルに分けます。 レベル1 タスクを完了したが、不安や不満があった レベル2 タスクを完了したが、操作ミスや戸惑いがあった レベル3 自力でタスクを完了できなかった 今回のECサイトの例をあげると、下図のような表にまとめます。 これで協力者のタスクの完了度合いがページごとに一目で分かるようになりました。次に、改善すべきページの優先順位を割り出します。 発生頻度を仕分ける 次に同じレベルに当てはまる人数に応じてそのレベルの発生頻度を「低」「中」「高」の3段階で表します。 今回の協力者は5名なので以下のように発生頻度を定義します。 今回の発生頻度を以下のようにまとめました。 (Action)優先順位を決めて改善に取りかかかる 発生頻度の仕分け表をもとにどのページから改善すべきか優先順位をつけます。 最も優先度が高いのは「レベル3」の発生頻度「高」に該当するページで、このようにレベルが高く発生頻度が多い順に優先度が決まります。 今回の場合「レベル3」の発生頻度「高」が該当するページはないため「レベル3」の発生頻度「中」であるカードページから改善を進めます。 また、カートページ内の改善すべき軸としてはレーダーチャートの結果より「見やすさ」になります。カートページ内で「見やすさ」について改善すべき点がないか協力者の言動をもとに見つけ出しましょう。たとえば、テスト中にカートページ内の入力フォームにて協力者が迷う場面があれば、フォームの改善から進めるといった具合です。 ユーザビリティテストのポイントを理解して改善に活用する このように事前の準備を綿密に行い、協力者の手元をしっかり観察することで、自身では気づけなかった改善点が見つかり、更なるユーザビリティの向上を目指せます。 ユーザー理解をより深めたい方はユーザビリティテストを実施してみてはいかがでしょうか。 編集者情報 市川莉緒 大阪大学卒。新卒でFaber Companyに入社後、 300近くの会社のヒートマップ分析に従事。 現在はミエルカヒートマップのマーケティングを担当。 大学時代1年休学し1人で世界を放浪。 グレートバリアリーフでのダイビングが最高の思い出。 監修者情報 玉飼 真一 この記事をシェアする