もはやインサイドセールスは、単なるテレアポ部隊ではありません。商談のトリガーとなり、マーケティングとフィールドセールス部門の橋渡しを行い、顧客の声をフィードバックします。インサイドセールスチームの生産性に大きな影響を与えるのが、そう、「KPI設計」です。
今回は、株式会社Faber Companyのインサイドセールス部門マネージャー宮内氏とフィールドセールス部門を統括するレベニューマネージャー成田氏(元・セールスフォース SDR/BDRマネージャー)のインタビューを軸に、くわしく解説します。
目次
- Q:まずFaber CompanyのISの体制を教えてください。
- Q:IS部門のKPIには何を設定していますか?
- Q:現在の商談フェイズを教えてください。
- Q:FS部門のKPIは何を設定していますか?
- Q:ISと各部門との連携方法について知りたいです。
- Q:ISの運営で陥りがちな落とし穴について教えてください。
- Q:IS運営におけるPDCAのコツは何でしょうか?
- Q:実際のKPI改善例はありますか?
- Q:ISの評価やマネジメントの方法を教えてください。
- Q:ずばりISのKPIの平均値ってどれくらいですか?
- Q:外部のアポ代行会社ってどう思いますか?
- Q:ISはマーケティングやコンテンツにどれくらい関わるべきでしょうか?
1.インサイドセールスとは?
まずインサイドセールスとは何か、を簡単に解説します。すでにご承知の方は「2.7つの代表的なインサイドセールスのKPI」へと飛んでいただいてOKです。
インサイドセールスは見込み顧客への活動を通じ、商談を創出する組織です。フィールドセールスはインサイドセールスからのパスをもとに商談し、受注につなげます。
インサイドセールスはさらに下記の2種類にわけられます。役割を明確にわけていない企業も多いです。後述しますがインサイドセールスの役割は現在、多岐にわたります。
- SDR(Sales Development Representative)
- 資料請求や問い合わせなど、すでに獲得したリードに対して、アプローチをするチーム。インバウンド型と呼ばれる場合もあります。電話、メール、SNS、ウェビナーなどの手法でアプローチします。
- BDR(Business Development Representative)
- 既存リードの有無に限らず、「狙った企業を一本釣りする」チーム。リードが無い顧客に対しての新規開拓も行うためアウトバウンド型と呼ばれることもあります。SDRの手法に加えて、役員や決裁者向けの手紙なども活用します。
①なぜインサイドセールスに注目が集まるのか
インサイドセールスという概念自体は、2000年代初頭にすでに存在しました。もっとも、当時は「アポインター」や「テレアポ部隊」と呼ばれていました。
業務内容は、リストに対して手あたりしだい電話してアポを取るというストロングスタイルが多く、薄いアポが取れることもしばしば。筆者もそのようなチームを、営業責任者としてマネジメントしていた経験があります。
大きな転換期はBtoBにおけるSaaSビジネスの活性化と、2019年の「THE MODEL」の出版ではないでしょうか。セールスフォースドットコムとマルケト(現Adobe)で役員を歴任された福田康隆氏の同書籍は、大きな反響を呼びました。
さらに2020年頃のコロナ渦よりオンライン商談のニーズが急増し、インサイドセールスの職務領域はさらに拡大している印象です。
SFAやMAなどのツールの充実や習熟度の向上も相まって、分業体制による営業活動の生産性向上、データ活用が企業の差別化要素として注視されるようになったのです。
②インサイドセールス導入のメリット
インサイドセールス導入のメリットは大きく下記の2つです。
- 営業活動の効率化
- フィールドセールスが商談準備や商談に注力できるため、営業活動が効率化できます。
- 適材適所による人材活用
- 営業で活躍が難しかった人材もインサイドセールスで花開くケースもあります。またインサイドセールスをステップとして営業の現場で活躍する人もいます。従業員の特性に合わせた人材活用にも一役買うでしょう。
2.インサイドセールスにおける代表的な7つのKPI
インサイドセールスの代表的なKPIは下記の7つが挙げられます。すべてを設定するのではなく、取り扱う商材の性質や組織の状態、醸成したい文化などによってチューニング(調整)するのが一般的です。
- 接続数
- 電話がつながった件数(着電数)です。コンタクト件数という場合もあります。単につながったかではなく、ターゲットとする部門の担当者につながったか、有効な会話ができたかどうかをカウントします。
- 活動数
- 電話をかけた件数、手紙を送付した件数、メール送付件数などの行動(アクション)数です。行動量が成果に直結する商材や電話で売り切る場合などは活動数を設定する場合もあります。まずは「行動する文化」を醸成したい場合などにも有効です。
- 商談件数
- 商談を創出した件数です。商談にレベルを設け、該当する商談のみカウントする場合もあります。基本的に設定されることが多いKPIです。
- 案件化数
- 創出した商談のうち、実際に案件=見込み化した数です。こちらも案件にレベルを設けたり、見込み金額などでフィルタをかけたりする場合もあります。
- 受注数
- 創出した商談のうち受注になった件数です。商談件数と同様に設定されることの多い基本的なKPIです。
- 受注金額
- 創出した商談から受注した金額です。受注金額(あるいは利益)という最終成果をKPIにし、意識させることで局所最適化を抑制できます。
- 受注率
- 創出した商談のうち受注になった割合です。KPIというよりはメンバーの評価や育成、マネジメントに使われることが多い指標でもあります。
インサイドセールスのKPIとしては「商談件数」と「受注数」、「受注金額」などを組み合わせることが一般的です。ただし繰り返しになりますが、どれを採用し重視するかは、営業組織の体制や方針によっても異なります。
たとえば、営業の人員が少ない場合は、やみくもに商談件数を増やしても対応できない場合があります。
その場合の対策として、商談の質を重視するようなKPI(案件化数、受注金額など)もあわせて設定するか、商談の定義をより厳しくする(決裁者以上との面談など)といったチューニングが考えられます。
3.KPI設計や運用のポイント
インサイドセールスに限った話ではないですが、チーム内でのKPIはメンバーの行動に大きな影響を与えます。
KPIを設計し運用する場合には、下記のような点に注意しましょう。
①部分最適(局所最適)にならないこと
インサイドセールスとフィールドセールスの間でKPIが連動していなければなりません。そうすることで、分業をしつつも1つのゴールに向かって一体感を持って活動できます。
たとえば、フィールドセールス側が特定業種へのアプローチを強化する場合、インサイドセールスもKPIを修正しなければなりません。
②KPI定義の明確化と共有
KPIの定義を明確化し、共有することは重要です。たとえば商談数をKPIに設定する場合、どのような商談を「有効商談」とするのかは組織によります。
その際、なるべく主観に寄らない客観的な指標を用いましょう。BANT情報(※)があるかなどが代表的です。
重要なのは、担当者の主観ではなく「顧客の状態」で定義することです。
BANTとは:下記の4つの頭文字を取ったものです。
Budget(予算の有無)
Authority(決裁権の有無)
Needs(ニーズの有無)
Time frame(導入時期が明確か)
※出展:IBM
③他部門との情報共有・連携強化
インサイドセールスが部分最適に陥らないためにも、フィールドセールス部門との連携は必須です。
インサイドセールスとフィールドセールスが文字通りペアになって動くというケースもあるほどです。
さらにマーケティング部門との連携も重要になります。たとえばウェビナー後のコールに対する顧客の反応などをフィードバックすれば、次回のウェビナーの内容改善に活かすことができます。
④一度決めて終わりではない。KPIは常に見直すこと
KPIは常に見直しをかける必要があります。組織は生ものです。
数字だけでなくメンバーのモチベーションや雰囲気なども考慮し、柔軟に対処していくことが求められます。
設定したKPIが思わぬ副作用を生み出すこともあるでしょう。たとえば商談定義を厳しくし過ぎた結果、有効商談の数が激減するなどが挙げられます。
とはいえ主要なKPIを頻繁に変えていると、現場は混乱します。上述した例の場合は、サブKPIとして「○○の業種なら役職問わず」といったエスケープ条件を設けるのも有効な手立てです。
KPIの運用は、現場のモニタリングとマイナーチェンジが肝といえるでしょう。
4.【インタビュー】インサイドセールス最前線! 12個の質問をぶつけてみた
さて ここからは、コンテンツマーケティング・SEOツール「ミエルカ」を運営する弊社・Faber Company(ファベルカンパニー)のセールス最前線に勤める2名が登場。
インサイドセールス(IS)部門マネージャー宮内氏とフィールドセールス(FS)部門を統括するレベニューマネージャー成田氏です。成田氏には、前職のセールスフォース社でISマネージャーを務めた経験も活かして回答いただきました。インサイドセールスのKPI設計や運用について、12個のQ&Aをご覧ください。
Q:まずFaber CompanyのISの体制を教えてください。
SDR12名、BDR3名です。SDRはさらにインバウンドとアウトバウンドに分けています。インバウンドは資料請求、トライアル申込みに対する対応です。アポ率は高いですが、そのぶん製品やサービスの知識が求められます。
反対に、アウトバウンドは営業力が重要になりますね。
Q:IS部門のKPIには何を設定していますか?
インバウンドは、有効問合せのアポ率をKPIに置いています。アウトバウンドは、創出した商談数と商談フェーズ(※後述)、セミナーへの誘致数です。セミナー誘致は、営業活動の効率化が狙いです。従来は営業が担っていた、基本的なコンテンツマーケティングの理解促進をISで担うようにしました。
Q:現在の商談フェーズを教えてください。
AからEまでの5段階で設定しています。定義を明確にして、共通認識を持つようにしています。
Q:FS部門のKPIは何を設定していますか?
受注金額です。
またISからの想定商談件数と、実際の商談件数もウォッチしています。
Q:ISと各部門との連携方法について知りたいです。
IS部門とFS部門、マーケティング部門の責任者で週次の定例会を実施しています。
営業リソースは限られているので、商談数が急激に増えすぎても対応できない場合があります。
また、急激な数値の変化は、現場に何かしらの異常が発生しているケースもあるので注視するようにしています。
異常が生じている場合は現場でくわしい状況を確認します。フタを開けてみればメンバーが入れ替わったことで、薄いアポが大量に取れてしまっていた、ということもありますからね。
Q:ISの運営で陥りがちな落とし穴について教えてください。
KPIの調整には副作用があります。
たとえばBDRに受注金額のKPIを設定したときは、BDR側で勝手に商談規模が大きいと思い込んでしまう「妄想商談」が増加してしまいました。
毎日コールをするISはモチベーションも大きく成果に影響します。
コミュニケーションをしっかり取り、各自が仕事や組織に対して何を求めているかを確認することが重要です。
Q:IS運営におけるPDCAのコツは何でしょうか?
メンバーにいかにセルフマネジメントさせるかではないでしょうか。チームメンバーが増えてくると一つひとつの商談をマネージャーがチェックすることが難しくなります。
相互牽制の仕組みや成績ランキングなどでそれぞれがうまく動けるような、環境づくりをすることが大切です。
僕は現場メンバーの話をよく聞くことを大切にしています。定期的に1on1を実施してメンバーの状況を確認し、KPIも微調整をかけていきます。KPIはチームの動きを変えたいときや、文化を醸成したいときに再設計します。
Q:実際のKPI改善例はありますか?
最初はアポ数のみでしたが、案件化率や受注金額を設定することで商談の質が向上しています。またメンバーがアポだけでなく商談全体を意識してくれるようになりました。
Q:ISの評価やマネジメントの方法を教えてください。
KPIは、なぜそれを設定するのか意図や意義などをきちんと落とし込むようにしています。あとは信賞必罰ですね(笑)。
メンバーにも分かりやすいマネジメントがよいと思います。
Q:ずばりISのKPIの平均値ってどれくらいですか?
SDRのインバウンドは問合せの50%以上のアポ率です。
アウトバウンドは月次で30件以上のアポが平均的です。ただし、マーケ側の施策状況によっても変動します。
Q:外部のアポ代行会社ってどう思いますか?
商材やアポの定義によるかと思います。比較的シンプルな商材ならば、向いているのではないでしょうか。
有効です。ただし費用対効果やアポ定義、業務の切り分け方などを十分吟味する必要があります。たとえば、BtoB企業で役職者の立場じゃないと判断できない商材などは難しいかもしれません。
Q:ISはマーケティングやコンテンツにどれくらい関わるべきでしょうか?
がっつり関わるべきです。リアルなターゲット像や、どのようなリードならアポが取りやすいかなど、ISだからこそ伝えられることがあります。ジョブローテーションなんかもよいですね。
ISは顧客との接点が多いので、顧客ニーズや必要なコンテンツについては可能な限り発信するべきです。ただメインミッションではないので、いい情報共有の方法を日々模索しています!
5.境界があいまいになるインサイドセールス
分業化からスタートしたインサイドセールスですが近年、その境界はあいまいになっています。理由の一つとしては、営業活動そのものがオンライン化していることです。
もう一つの理由として、見込み顧客との継続的な関係構築がより重要視されていることも挙げられます。
インサイドセールスが受注まで担うケースや、コンテンツマーケティングを主導するケースもあります。現在のインサイドセールスはさまざまな掛け合わせのスキルや、キャリアが描ける職種に変貌しつつあるといえるでしょう。
6.適切なKPI設定とこまめな調整で健全なチーム運営を
インサイドセールスのKPI設定は定義の明確化や、こまめな調整が重要です。
KPI設定は営業成績だけでなく、チームの成長やマネジメント方針とも密接にかかわります。現場の状況を踏まえながら、柔軟に対処していきましょう。
インサイドセールスの役割を拡張し、将来的にリードの獲得やリードナーチャリング、あるいはコンテンツマーケティングまで担うなら、本メディア「ミエルカマーケティングジャーナル」や私どものウェビナーなどもぜひお役立てください。IS職として必要な知識も得られるはずです。
☑︎コンテンツマーケティング事例:【BtoB編】成功の秘訣を各担当者にインタビューしてみた
☑︎【BtoB事業者様向け】学習動画:事例で学ぶデジタルマーケティング