
令和7(2025)年12月18日に全面施行された「スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法・スマホ新法)」は、モバイルOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンという、スマートフォンに不可欠な4つのソフトウェア分野における公正な競争を促進するための法律です。
アプリストアや課金システムに関する規制はすでに広く知られていますが、見落とされがちなのが第九条です。第九条は、検索エンジンの自己優遇表示を規制する初の条文です。Webサイトの運営に関わるすべての事業者にとって、無視できない内容を含んでいます。
スマホ法の成り立ち、第九条の具体的な内容、そして事業者が取るべきアクションについて、公正取引委員会事務総局 官房参事官(デジタル担当) 鈴木健太氏にうかがいました。聞き手は、株式会社Faber Company(ファベルカンパニー)上席SEOコンサルタント・辻 正浩です。
※本記事の情報は、2026年3月12日に実施した取材をもとに作成しています。
目次
検索エンジンの自社優遇を防ぐ、スマホ法・第九条
辻:
スマホ法は、アプリストアや課金システムに関する規制を中心に、アプリ事業者の間で注目を集めています。一方で、SEOに取り組む事業者にとっても見逃せない内容が含まれています。
今回は、検索エンジンを規制する第九条について伺います。まず、第九条はどのような内容なのか教えていただけますか。

Apple Inc.(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ)
iTunes株式会社(アプリストア)
Google LLC(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン)
※参考記事
・スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法) | 公正取引委員会
・スマホ法の概要(PDF)
鈴木氏:
スマホ法・第九条は、検索エンジンに関する規制を扱っています。内容を端的に言いますと、検索エンジン事業者が検索の結果において自社のサービスを正当な理由なく優遇すること、いわゆる「自社優遇」や「優先表示」を禁じるものです。

規制の対象となるのは、スマートフォン上の検索サービスで、月間アクティブユーザーが年度平均で4,000万人以上の事業者です。
現状、この基準を満たしているのはGoogleのみとなり、規制対象事業者として指定しています。PCやタブレットでの検索は対象外になっています。

なぜ、スマホ法・第九条が作られたのか
辻:
では、スマホ法が生まれた背景について教えてください。
鈴木氏:
スマートフォンが登場して、約20年になります。登場から10年ほど経った2018年頃から、いわゆるGAFAと呼ばれるデジタルプラットフォーム事業者が私たちの生活に大きな影響を持つことに関連して、様々な問題が指摘されるようになってきました。
そこで、公正取引委員会・経済産業省・総務省の三省庁が連携して、新しいルールを検討し始めたのがきっかけです。

辻:
なぜ、スマートフォンが重視されたのでしょうか。
鈴木氏:
スマートフォンは、生活者にとっても、事業者にとっても手放せない基盤になっています。お客さんとの接点も、広告も、スマホなしでは成り立ちません。
そのスマートフォンを動かす重要なソフトウェアが、モバイルOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの4つです。この4分野では、AppleとGoogleの2社による寡占状態が生じており、新規参入などの市場機能による、自発的な是正が困難な状況でした。
公正取引委員会は、公正かつ自由な競争を通じて、企業の活力向上、消費者の効用増大、イノベーションの活性化につながるような環境を整えていくことを目的として様々な取り組みを行っていますが、この分野についても対応が必要と考えました。
そのような背景から、三省庁と内閣官房デジタル市場競争本部での検討、国会審議を経て、2024年6月の法律成立、2025年12月の全面施行につながりました。
スマホ法・第九条が問題視する状態とは?
辻:
スマホ法・第九条は、検索エンジンにおける自社優遇を禁止するものですが、検索結果を見るだけでは、それが自社優遇にあたるかどうかはわかりません。
具体的に、どのような状態が問題とされているのでしょうか。
第九条 指定事業者(検索エンジンに係る指定を受けたものに限る。)は、その指定に係る検索エンジンを用いて提供する検索役務において、スマートフォンの利用者が検索により求める商品又は役務に係る情報を表示する際に、当該指定事業者(その子会社等を含む。)が提供する商品又は役務を、正当な理由がないのに、これと競争関係にある他の商品又は役務よりも優先的に取り扱ってはならない。
☑︎参照元:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律
鈴木氏:
大きく2つあります。1つは、アルゴリズムの操作です。検索エンジン事業者が検索アルゴリズムを自社に都合よく調整することで、自社サービスが上位に表示されるよう誘導するケースです。
辻:
「検索における順位変動で自社が不利になった」というだけでは、スマホ法の対象には当たらないのですね。
鈴木氏:
そうです。検索順位の変動そのものは、対象ではありません。ただ、アルゴリズムの調整が自社優遇を目的として不当に行われている場合は問題となり得ます。
そして、もう1つが「別枠表示」と私たちが呼んでいるものです(下記図のCの部分)。通常の検索結果とは別の枠で、検索エンジン事業者の自社サービスが検索画面に差し込まれるケースについても、自社優遇として問題となる場合があります。

辻:
スマホ法・第九条の対象となる商品・サービスの例として、スマホ法の指針に次のような例が書かれています。
ホテル比較サービス、ショッピング比較サービス、フライト比較サービス、地図情報提供サービスのように検索結果の表示において提供するサービスのほか、比較サービスにおいて表示の対象となるホテル宿泊サービスや航空輸送サービスなども該当する。☑︎参照元:スマホソフトウェア競争促進法に関する指針(68、69ページ)※リンク先PDF
これらの商品・サービスは、Googleの検索結果の多くで別枠として実際に表示されています。この表示自体が問題なのでしょうか?
鈴木氏:
問題になり得るのは、検索エンジン事業者が別枠表示で自社サービスを不当に優遇する状態です。
本来もっと上位に表示されるべき他社サービスがあるにもかかわらず、検索エンジンが自社サービスを強調するために別枠表示を優先しているならば、それは問題となり得ます。
辻:
とても慎重に判断する必要があると感じます。ここでいう別枠表示は、検索エンジンを使う立場からすると、とても便利なものも含まれます。
一方、この別枠表示が強調されてきたことで、事業撤退に追い込まれる日本企業の話も聞きますから、不当な別枠表示を野放しにすることも健全とは思えません。
鈴木氏:
どのような状態が問題かについては、検索クエリとの関連性、サービスの品質・利用実態などの個別具体的な事実に照らして、正当な表示かどうかが判断の材料になります。
検索エンジン事業者のサービスが、本当に関連性が高く、質も高いのであれば自己優遇・優先表示には当たらないでしょう。しかし、本来もっと上位に表示されるべき他社サービスがあるにもかかわらず、自社サービスを優先している状況がある場合は問題となり得ます。
これらは、個別のケースごとに判断する必要があり、画一的に「こういった状態は是正が必要」という基準を示すことは難しいと捉えています。
多くの人に使われる検索エンジンが自社サービスを優遇するようになると、サービス同士の競争が歪められ、消費者がより良いものを選べなくなってしまいます。
Googleのように利用者の多い検索サービスは、そのようなことを仮にやろうとするなら、できてしまう規模感、立場にあるとも考えられるかと思います。スマホ法・第九条は、消費者が適切な選択の機会を失わないようにすることが狙いとなっています。
AI検索もスマホ法・第九条の対象になり得る
辻:
現在、検索においては、AI検索の話題が避けられない状況です。スマホ法・第九条は、生成AIを使った検索にも適用されるのでしょうか。
鈴木氏:
立法を検討し始めた時点では、まだ生成AIがここまで普及していませんでした。当時イメージしていたのは従来型の検索です。
ただ現状では、AI検索と従来の検索が融合しており、AI検索も、従来の検索の延長線上にある行動になり得ると思います。規制の可能性は十分に検討の余地があると考えています。

辻:
AI検索では、具体的にどういった状態が問題にあたると捉えていますか。たとえば海外のGoogleでは、AIモードの回答がGoogleの自社サービスの情報を優先的に表示しているケースが見られます。
鈴木氏:
個別のケースごとに検討が必要ですが、AI検索の結果として表示されるサービス・商品について、他社と比較し、理由なく検索エンジン事業者の自社サービスが優先的に表示されているという構造があれば、検討の対象になり得ます。「どういう表示の形態か」「どういった検索に対するものか」などを、個別に見ていく必要があります。
辻:
では、各社が発信しているコンテンツをAIが要約し、表示するケースについてはいかがでしょうか。
鈴木氏:
生成AIに関連する問題については、スマホ法の文脈だけでなく独占禁止法の観点からも様々な検討をし得るテーマであり、デジタル市場企画調査室で実態調査を進めるなど、公正取引委員会として高い関心を寄せている分野です。
※関連記事:生成AI関連市場における独占禁止法・競争政策に関する事項についての情報提供
問題と感じたら、公正取引委員会へ情報提供を
辻:
ここまでのお話から、現時点で公表できる具体的な違反事例はない一方で、規制対象と見られるケースがあれば、個別に検討・判断をしていく。そのための、スマホ法・第九条であると理解しました。
では、「自分たちのWebサイトが検索エンジンの自社優遇によって影響を受けているかもしれない」と感じた事業者は、どうすればよいのでしょうか。
鈴木氏:
まずは、公正取引委員会のウェブサイトにある情報提供フォームや申告フォームからご連絡いただけるとありがたいです。申告の場合は氏名と連絡先が必要ですが、回答不要であれば匿名での情報提供も可能です。
私たちも、自分たちで検索画面を日々確認してはいますが、実際に事業をされている皆さんの声は、とても貴重です。
辻:
検索エンジンの問題については、すでに多くの相談が寄せられているのですか?
鈴木氏:
具体的な数は公開していませんが、現在はアプリのストア関連の相談が中心で、それと比べますと、検索エンジンに関連した相談は少ない状況です。
辻:
それは驚きました!スマホ法・第九条に関係しそうな検索結果は多くあるように思います。普段、検索結果への不満はよく見聞きしますし、このような機会が活かされないのはもったいないと感じます。
事業者の方には、「そういうものだ」と諦めずに、ぜひ声を届けていただきたいと思います。
健全な検索市場のため、官民一体で取り組みたい
辻:
今後、スマホ法・第九条の運用はどのように進んでいくのでしょうか。
鈴木氏:
スマホ法の全面施行後、指定事業者であるApple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCから、全面施行後の最初の遵守報告書が提出されました。
※関連資料
・遵守報告書 | 公正取引委員会
・スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律Google LLCの遵守報告書(公表用) ※全面施行時点(令和8年2月17日公表)、リンク先PDF
現在は、その内容を事業者の皆さんにご説明しながら、困っていることや問題に感じていることをヒアリングして回っています。法律は作って終わりではありません。個別の事例についての確認や検討を積み重ねながら、何が問題でどう対応できるかを考えていく段階にあります。

辻:
スマホ法・第九条について、あらためて事業者に伝えたいことはありますか。
鈴木氏:
公正取引委員会は、消費者にとってより良いものが適切に自由に選べる環境を作っていきたいと考えています。また、より良いサービスを提供することに尽力する事業者が報われる環境を整えていきたいとも考えています。
スマホ法・第九条は、良いサービスが不当な検索結果によって、不利に扱われないようにするための法律です。検索は事業者と消費者をつなぐ重要な入り口です。事業者の皆さんも、「これはおかしいのではないか」と思うことがあれば、ぜひ情報を寄せていただきたいと思います。
辻:
EU圏では、Googleが同様の問題でデジタル市場法(DMA)の調査対象となっており、検索結果に競合サービスを並べて表示するテストが動き始めているという報道があります。ただ、EUの規制には現実的ではない部分も多くあるように私は感じました。
その点、日本のスマホ法・第九条は、とてもよく検討された、現実的な内容だと感じています。Googleに限らず、検索エンジンを提供する各社の健全な運営を促し、事業者にとって公正で自由なビジネス環境が築かれていくことを期待しています。
支援プロセスや実績は、以下の事例一覧をご覧ください。






