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自称SEO業界最高のエゴイスト。サイバーエージェント木村賢が20年以上SEOを続ける理由

更新日:2024.2.2 公開日:2024.01.24

木村さまと本田

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは、当社本田卓也が務めます。

今回のゲストは、サイバーエージェントSEOラボ研究室長の木村賢さんです。大規模サイトSEOの第一人者である木村さんは、大学との共同研究や積極的な海外カンファレンスへの参加など、国内でも稀有な活動を続けています。

今回は、木村さんと15年以上交流を重ねてきた本田が、生い立ちやSEOとの出会い、SEOに向いている人の特性などを聞きました。

(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:本田卓也)

ラーメンサイトから始まったSEO

本田:
まずは木村さんの少年時代について聞きたいな。サッカーにかなり力を入れていたのは知っているのだけど。

木村:
静岡出身だったのもあって、物心つく頃には自然とサッカーを始めていました。それと、親がすごく厳しくてバリバリ勉強をやらされました。

それと、パソコンにはじめて触れたのもこの時期です。確か小学校の時、父親が日立製作所製のベーシックマスターというパソコンを買ってきたんですよね。それを使って、プログラミング本を丸写ししながらゲームを作って遊んでいました。ワープロの打鍵感も好きだったので、文書作成とかもよくやっていたかな。

本田:
パソコン自体には小さい頃から慣れ親しんでいたんですね。

木村:
それ以外は、とにかくサッカーと勉強ばかりの毎日を送っていましたね。そのおかげで、小学校・中学校は成績がよかったです。中学校では学年1位を取ったこともあったな。でも、静岡県トップレベルの高校に進学した後は、一気に成績が急落しました(笑)。

木村様

本田:
どうして?

木村:
中学校からはサッカー部ではなくテニス部に入部したんですが、志望校は全国にも出場するような強豪で。「全国を狙える高校に行きたい!」という気持ちが強くて、一生懸命勉強しました。

大きな目標を達成したことで、燃え尽きてしまったんですよね。それに、同級生の存在も大きかったです。僕の通っていた高校に進学するのは、典型的な「勉強していないのに頭がいい子」ばかり。授業もそうした生徒を前提に、どんどん進んでいきます。

本田:
周りの優秀な生徒を前にして、大きな挫折を味わったのか。

木村:
自分にはテニスしかない!と思ったんですが、テニス部も県で上位の選手しかいません。在学中は、レギュラーに選ばれるかどうかの戦いに必死で、中途半端な成績に終わりました。今思うと、高校時代はすべてがパッとしなかったですね。

僕は一浪して大学に進学したんですが、浪人生活中も勉強する気はまったく起きず、パチンコばかり打っていました(笑)。とにかく浜松中のパチンコ店を練り歩いて、どうやったら当たりを引けるか徹底的に研究していました。

本田:
少しだけSEOっぽいことをやっていたんだ(笑)。

木村:
確かに(笑)。本格的にSEOと接点を持ち始めたのは、大学時代です。1997年頃、人生ではじめてホームページを作成しました。当時はラーメンが好きで、ラーメン店やカップラーメンを紹介するサイトを作ったんです。

アクセス解析もしていたんですが、どうせサイトを更新するなら人に見てもらいたいと思うじゃないですか。そこから、Yahoo!やLycos※といった検索エンジンを意識しつつ、サイト訪問者をどうやって増やすか考えるようになったんです。

結果、何の検索エンジンかは忘れちゃったんですが、「カップラーメン」で検索上位1位を取ることができました。この時はまだ、これがSEOだということは知りませんでしたが。

※Lycos(ライコス) Lycos社が提供するインターネット検索サービス。日本では1990年代後半〜2000年頃に人気を博した。

木村様

本田:
そういえば渡辺隆広さんも、大学在学中にSEO的なことをしていたと話していましたね。

「いろんなことに興味を持ちなさい」SEOの第一人者・渡辺隆広の人生を決定づけた一言。 – ミエルカマーケティングジャーナル

木村:
在学中も、行きつけの居酒屋のホームページを作ってあげたり、アフィリエイトサイトを立ち上げたりしていました。この時もSEOという言葉は知らなかったけれど、アクセスを伸ばすために試行錯誤していましたね。

ちなみにこの時は、大学院に進むつもりだったので就職活動していませんでした。

ベンダー・インハウスでのSEOをどちらも経験

本田:
あれ、でも大学卒業した後は就職していますよね?

木村:
はい。実は「フロッピー事件」という大事件を起こして、教授を激怒させて「お前は絶対院試(大学院入学試験)には合格させない!」と宣告されちゃったんです。

本田:
フロッピー事件?一体何をやっちゃったの?

木村:
研究室にいた時、フロッピーディスクをフリスビーにして教授に向かって投げちゃったんです。多分、研究やらなんやらで疲れていて錯乱していたんだろうな(笑)。

それでも、就職活動は何とかなるだろうと思っていたので、あまり悲観的ではなかったです。結局、3月を迎えて卒業することになっちゃったんですけどね。

本田:
何とかなっていないじゃない(笑)。

木村:
それからは、お金がなくなるまで後輩を誘って飲み歩いていました。そろそろお金も尽きてきたな…というタイミングで、後輩から説教されたんです。

「木村さん、いい加減ちゃんと働いてください。うちの父親が会社の役員をしているので、そこでバイトできるように手配します。まずは面接に行ってください」。それが前職でした。

本田:
そうだったんだ!? 木村さんとは15年以上の付き合いがあるけれど、初めて知りました。

本田

木村:
まずはアルバイトで1年働いて、その後正社員として7ヶ月働きました。僕はリスティングや広告を担当していたんですが、予算があまりなかったんですよね。このままじゃまずいと思い、大学時代に取り組んでいたアクセス改善にも着手していきました。

今のようにSEO概念が流通してもいなければ、マーケティング手法も確立されていませんでした。いろいろ勉強する中で渡辺さんと住太陽さんの書籍に出会い、そこではじめてSEOという概念を知ったんです。

本田:
本を読んで初めて、「自分のやっていることには名前がついているんだ」と知ったんですね。手探りでSEOを実践していたのはすごいな。

木村:
その後、2003年11月にサイバーエージェントへ入社しました。前職の取引先のひとつで、現執行役員 副社長の岡本保朗から、「うちでリスティングに携わって欲しい」と誘われたんです。

リスティング業務が順調にこなせるようになるまで、時間はかかりませんでした。でも岡本には、僕がつまらなそうに仕事をしているように見えたそうです。

ある日喫煙所にいると、岡本から「今担当している業務はすべて、他の人にまかせていい。今すぐSEO事業のチームを立ち上げて」と言われました。それが2003年12月で、2004年1月には事業計画書を出すことになりました(笑)。

本田:
驚きの展開だ。木村さん以外でSEOができる人はいたんですか?

木村:
誰もいません、僕だけです。先輩から教わりながら採用計画も立てつつ、なんとか事業計画書を作成しましたが、立ち上げから1年はずっと苦戦しましたね。

本田:
2004年頃というと、SEOはどんなことをやっていたのですか?

木村:
大きな声では言えませんが、とにかく被リンクの施策に振り切っていました。SEOで勝つにはもう被リンクしかないと、リンクスパムサイトを量産していましたね。

本田:
僕もやっていたな…。被リンクの施策をやめたのはいつ頃?

木村:
スパムサイトの取り締まりが本格化していくのを見越して、2010年の前半から方針を変えました。僕は2013年メディア部門に移ったので、細かい動きは把握していません。でもこのタイミングから、コンサルティングやコンテンツ制作といった支援にシフトさせていったはずです。

木村様

本田:
このあたりから、木村さんはインハウスのSEOに携わり始めるんだね。木村さんは、大規模サイトSEOの第一人者だと思います。実際、サイバーエージェント社が抱える超巨大サイトのSEOに携わったことのある人は、ほとんどいないでしょう。

木村さんから見て、大規模サイトのSEOにはどんな特徴がありますか?

木村:
大規模サイトのSEOは、一言でいうと「ボトルネックを見つけて直す」の繰り返しです。

ボトルネックは、クロールインデックスの場合もあれば、詳細ページのコンテンツの質の場合もあります。最近では、ユーザー行動の改善も行う必要があります。ボトルネックは一度改善しても、すぐ悪くなってしまうので、とにかく問題点を見つけて直し続けなければいけません。

それに、性急にボトルネックはこれ!と決めつけても、うまくいかないことが多いです。あらゆる可能性をフラットに俯瞰して、問題点や伸びるチャンスを徹底的に洗い出せるかが、大規模サイトのSEOには必要だと思います。

本田:
大規模サイトSEOは通常サイトと比べて、見ているデータの種類は違いますか?

木村:
収集できるデータに、大きな差はありません。サイトの特徴によって、ツールを使い分けることはあるくらいでしょうか。サービスの方針を基本的には尊重しつつ、そのサイトで何をどう改善したいか、あと予算がどれくらいあるかによって入れるべきツールを提案します。

産学連携で根拠のあるSEO支援がしたい

本田:
木村さんといえば、大学との共同研究を行っていることでも有名だよね。京都大学とは2012年から共同研究を続けていると思うけれど、どんなきっかけがあったんですか?

木村:
被リンクの施策が終わりを迎え、コンサルティングによる支援へと切り替えるにあたって、机上の空論ではいけないと思ったんです。上司とも話し合い、「データサイエンスに基づいて、エビデンスを持ってSEO支援をした方がいい」と考えました。

そこで、いくつかの大学に声をかけて反応してくれたのが、京都大学経済学研究科だったんです。

本田:
この10年間で、どのような研究に取り組んできましたか?

木村:
一番のテーマはアルゴリズムの分析です。各種項目がアルゴリズムにどう影響しているのか。ユーザーはどんなWebサイトを好む傾向にあるのか。リンクがSEOにどんな影響を与えるのか。こうした項目を組み合わせ、統計学的に解析しています。

研究で得られた知見は、メディア部門やSEO部門、広告部門の関係者に共有して、どう活用するかは各部門のボード陣に委ねています。公開できるような内容は、セミナーで紹介することも多いです。

本田:
SEOの領域で大学と共同研究している日本人は、おそらく木村さんだけだよね。

木村:
日本は産学連携のハードルが低いとは思いますけどね。大学側からも、「学生が生のデータに触れるのは教育的にも非常に有意義」というお声をいただいてますし。

本田:
大学側もメリットを感じているからこそ、10年以上もプロジェクトが続いてるんだね。現在は、母校の横浜市立大学とも共同研究を進めていますよね?

木村:
横浜市立大学データサイエンス学部とは、自然言語処理を中心としたコンテンツ分析を行っています。平たく言えば「どんなコンテンツが人に好まれるのか」を研究しているんです。こちらは近い内に、自然言語処理学会に論文を出せると思っています。京都大学での研究も、今後論文にまとめて発表していきたいです。

木村様

本田:
発表を楽しみにしています!木村さんは、海外のSEOカンファレンスにもよく足を運んでいますよね。カンファレンスを通じて、海外のSEO事情は日本とどのような違いがあると感じましたか?

木村:
今年は北米最大級のSEOカンファレンス「Pubcon Austin 2023」を含め、4ヶ国のカンファレンスに参加しました。

日本と大きな違いは感じませんでしたが、どの国のカンファレンスも「AIをどうハックするか」というテーマでの発表が多かったです。聞いている限り、現時点で海外と日本のAI活用で大きな違いは見られません。ただしSGE(Search Generative Experience)の導入が早かった国は、細かな仕様を調べたりしながら、積極的に使い倒している印象があります。

本田:
今後SGEが普及することで、SEOはどう変化すると思いますか?

木村:
SGEには記事リンクが表示されますが、そのロジックを解明しつつ「SGEに組み込まれる記事を作る」という点で、SEOが必要になると思います。SGEに表示枠が取られてしまうので、オーガニック検索の要求もより厳しくなると思います。「上位3位ではなく、上位2位に入らないとダメ」みたいに。

本田:
サイバーエージェントの主力事業でもある、広告にはどう影響しそう?

木村:
広告については…正直まったく読めないです。大きな影響を受ける可能性はありますが、Googleの今の利益の構造を考えると、広告がダメージを受けるような施策は実施しないと思うんですよね。

いずれにせよ、うまく折り合いをつけながら道を模索することになるとは思います。

社会貢献?いいえ単なるエゴです。

本田:
木村さんは会社公認で副業もやっているんだよね。スタートアップ支援をしていると聞いたけれど。

木村:
現在はトータル70社くらい支援したかな。今も1ヶ月に15社程度のスタートアップを支援しています。

本田:
すごい数!スタートアップのSEOは、具体的にどういうことをやるんですか?

木村:
会社によってバラバラです。まだサイトもない状態からSEO支援することもあれば、知識は十分にあるのだけど、壁にぶち当たっている会社を支援することもあります。スタートアップだけれど、大規模サイトを運営していることもあります。

これだけ多くの企業を見ていると、経営に問題を抱えているケースも多いです。調達した資金を、どう使うべきかをアドバイスすることもあります。

本田:
おそらく、副業にも多くの時間を割いていると思います。木村さんはどんなモチベーションで、スタートアップと向き合っているの?

本田

木村:
会社以外で、社会に役立ちたいという想いが強いです。それに、スタートアップ支援は楽しいですよ。僕はかつて「いつか起業したい」と思っていたので、スタートアップの経営者さんたちに自分の想いを重ねているのかもしれません。

僕がプロデューサーとして活躍できない分、せめて関わっているスタートアップのプロデューサーには、成功してほしいんですよね。

本田:
社会貢献か。木村さんはX(旧Twitter)で、昨今のSEOについて問題提起していることがあるじゃないですか。こういうポストも、社会に対する使命感で投稿しているの?

木村:
あれは…あくまで自分が不利になるから問題提起しただけです。僕は基本的に利己的なんですよ。ボロボロの道路だと走りにくいから、「ちゃんと舗装してくれ!」と言っているようなものです(笑)。一応、アルゴリズムというルールの上で正当な競争ができるようにすべきだと思うので、いろいろ口を出しているという感じです。

とはいえ、被リンクスパムをやってきた身としては大きなことは言えません。だから僕は、あくまで自己都合で「Google頑張れ!」と声を上げているだけです。僕は自分のことを、SEO業界最高のエゴイストだと思っています。

面倒くさがらず、動揺せず、やりきれる人がSEOに向いている

本田:
学生時代から数えると木村さんは20年以上SEOに携わっているんですよね。それだけ、SEOが好きってこと?

木村:
どうでしょう…。SEOが好きかと問われると、僕はジュビロ磐田のことを考えている方が好き。なんなら、サッカーのことだけを考えて生きていたいです(笑)。僕が長年SEOに関わり続けているのは、「他にできることが思いつかない」というのが大きな理由かなと思います。

HTMLやJavaScriptの知識はあるし、コードを書くこともできます。でも僕は、データサイエンスの専門家でもなければ、英語能力もそこまで高くない。デザインセンスも全くありません。できることを探す方が難しいんです。

その点、SEOは特別な才能がなくても、努力でなんとかできる仕事だと思います。担当してきたサイトの数、見てきたデータの数で勝負できるなど、根性でのし上がれる仕事なんです。

木村様

本田:
となると、SEOに向いているのは、努力の量を重ねられる人ということですか?

木村:
そうですね。他にあげるとすれば、面倒くさがらない人、効率化を常に考えられる人ですかね。それと、SEOは途中でやめると効果が出ないので、最後までやり切れる人であることも非常に大事だと思います。

あと、メンタルが上下動しない人であることも大事です。コアアップデートのたびに振り回されると、どんどん疲弊してしまいます。むしろ、動じずに中長期でどっしり構えられる人が、SEOには向いていますね。

本田:
これからSEOを学んでいきたいという人は、どうやって経験を積んでいけばいいと思う?

木村:
SEOといってもいろいろなタイプがあるので、一概には言えませんが…。何を目指すにしても、数をこなすしかないと思います。特に大事なのは、ランクダウンを経験することですよね。

ランクアップって、何が成功要因なのかが分からないんです。でも、「この行動をしたらランクダウンした」というのは明確に分かる。僕自身、「この行動がよかった」「この行動が悪かった」という記録を、かれこれ15年分書き溜めています。そうやって、自分なりに経験を貯めていくことが大事じゃないかなと思います。

本田:
SEOのキャリア形成って、ベンダーとして「支援する側」とインハウスで「やる側」の2種類に分けられるじゃないですか。両方経験している木村さんにとって、おすすめのキャリアステップはある?

木村:ベンダー→インハウスの順番で経験するのがいいかな。

インハウスは、1種類のサイトのSEOしか見ないじゃないですか。インハウスからベンダーにキャリアチェンジするのは、いきなり大きな海に放り込まれるようなもの。この順序でキャリアを経験したはいいものの、過去の経験や知識が役に立たず、すごく苦労する人を何人も見てきました。

本田:
僕自身、若い世代の方々からキャリアについて相談されることが多いので、すごく参考になるお話でした。最後に、木村さんの今後の目標を聞きたいです。もうすぐ50代を迎えるわけだけれど、今後はどんな形でSEOに関わっていきたいですか?

木村:
いやー!できることなら一刻も早く引退したいです(笑)。

本田:
え、そうなの!?

木村:
まあ、一刻も早くっていうのは冗談ですが(笑)。最近ようやく、引退できる地盤ができつつあります。若手も十分に育ってきて、インハウスのSEOを引き継ぐタイミングが近づいてきているなと。共同研究については…もう少し時間がかかるかもしれません。そこは今後の採用も含めて、数年かけて取り組んでいきたいです。…その前に僕が死んじゃうかもしれないけれど。

本田:
大酒飲みだからね…。

木村:
ピンピンコロリで往生できるよう、健康に気をつけながら引退に向けて頑張ります(笑)。

木村様と本田

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