今回から、ミエルカジャーナルでは新たなシリーズ連載がスタートします!シリーズ名は「#知の探索」。株式会社GiftXのいいたかゆうたさんがインタビュアーとなり、様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談します。新たな「知」の発見に繋がるヒントが見つかるかも。
第1回の今回のゲストは、当社代表取締役の古澤暢央です。代表でありながらゲストという不思議(?)な立ち位置で、Faber Company設立までのストーリー、ミエルカにかける思いや当社の「展望」について話しました。
(撮影:志賀友樹 執筆:サトートモロー 編集:いいたかゆうた)
メカ少年・古澤暢央がFaber Companyを立ち上げるまで
いいたか:
まずはじめに、古澤さんの生い立ちやFaber Companyを立ち上げた経緯を教えていただけますか?
古澤:
僕はいわゆる「メカ少年」な少年時代を過ごしました。ラジオを作ったりラジコンを分解したりしていました。機械の中身やどうやって動いているのかに、すごく興味があったんです。
下剋上の世界観も好きでした。『信長の野望』という、歴史シミュレーションゲームがあります。徳川家康や織田信長など、歴史上の人物を操作して天下統一を目指せるゲームです。僕は歴史上の有名人ではなく、見たことも聞いたこともない弱小武将で天下統一するという、変わった遊びが好きでした。
こうしたアルゴリズムの解明やリバースエンジニアリングが好きという性格が、今の仕事にもつながっていると思います。
それから年月を経て、2004年に僕はアフィリエイトと出会いました。当時の僕は、リストラされて生活費に困っていて。本屋で見つけた怪しげな本を頼りに、見よう見まねでやってみたんです。
2005年1月16日に初めての報酬が発生しました。「本当にブログからお金が入った!」という感動は、今でも忘れられません。それ以来、SEOやコンテンツマーケティングの世界にハマっていきました。
いいたか:
この時はまだ、個人で活動していたんですよね。
古澤:
そうです。この時の僕は、船橋のアパートで奥さんと生まれたばかりの長男の3人で暮らしていました。1日3時間の睡眠時間で、ひたすらアフィリエイトとSEOの研究に明け暮れました。3ヶ月ほど経つと、生活の不安がなくなるレベルまで稼げるようになっていたんです。
そんな時、ふと自分が18歳で高校を中退した後の頃を思い出しました。僕は昔から、遊び仲間を作るのが好きでした。その頃は「みんなで、どでかいことを成し遂げたい」という、田舎者らしい野望を抱いていましたね。
その初心を思い出した時、このまま個人アフィリエイターとして生きるという選択肢は、自分の中にはないなと思ったんです。仲間を増やして、社会に影響力のある面白いことをやろう。そう思い立ち、2005年に南青山のマンションを借りて、法人を立ち上げました。
いいたか:
「Faber Company」という社名も、その時に生まれたんですか?
古澤:
最初の社名は「セルフデザイン」でした。
僕は、18歳で高校を辞めてから30歳でリストラされるまでの12年間、他人に決められた人生を歩むばかりで何もできませんでした。自分の人生は自分で設計し、デザインすることが大切だ。その思いを社名に込めたんですね。
そして、9年後の2014年に社名を今の「Faber Company」としました。
いいたか:
会社設立から9年目のタイミングで、社名を変更したのはなぜですか?
古澤:
会社設立から年月が経過して、仲間も順調に増えました。セルフデザインという社名には、僕の大切な思いが込められています。しかし、過去の個人的な思いを、そのまま社名にしてはいけないなと感じ、会社のストーリーとして次のステージを考えるようになりました。
そこで、CI(コーポレートアイデンティティ)を見直すために約半年かけて「僕たちは何者か」を議論したんです。
そこで思い至ったのが、日常会話でよく使っていた「職人」という言葉でした。僕たちは日頃、職人のように集客・SEOについて、徹底的に考えこだわり抜いてきました。
職人という言葉を世界中の言語で調べた時、ラテン語の「Faber」という単語に出会ったんですね。さらに「職人と仲間」という合言葉が浮かび、Faber Companyという社名になりました。
社名を変更した頃、社内では「職人とテクノロジーの融合」という言葉も日常的に用いられていました。この言葉が、後のミエルカの最初のコンセプトとプロダクト開発へつながっていきます。
職人の暗黙知を形式知へ。ミエルカ開発への想い
いいたか:
ミエルカの話題も出てきたということで、開発への想いや当時の課題などを聞かせてください。
古澤:
当時のFaber Companyの仕事のメインは、Webマーケティングの受託制作とコンサルティングでした。リソースが限られている以上、こなせる数は決まってしまいます。
しかし、世の中には、マーケティングの課題を解決しなくてはいけない会社が山ほどあります。このままで世の中はよくなるのか?という想いが、ぼんやりと僕の頭にはありました。
時を同じくして、僕は「職人が持つ暗黙知・ノウハウを、6〜7割程度なら形式知化できるんじゃないか」という仮説を立てていました。形式知化できれば機械化でき、機械化できればデジタルを介して多くの人に知識を届けられます。
そうすれば、いい商品なのに知名度がないためお客様に届けられない会社の現状を、少しでも変えられるんじゃないかと思うようになりました。
いいたか:
当時、ミエルカに近しいプロダクトは世の中に存在してたんですか?
古澤:
海外製のいいツールはありましたが、僕たちが求める緻密で正確なSEO・コンテンツ施策ができるツールはありませんでした。当時の大きな壁となったのが、特定の検索キーワードに対して、ユーザーの検索意図を探れるようにすることでした。
僕はこの業界に15年以上います。経験を重ねると、そのキーワードを見ただけでユーザーの検索意図が、かなり高い精度で分かっちゃうんですよね。
しかし、この能力はものすごい暗黙知的な能力で、デジタル化がもっとも難しい領域です。我々が考えたアウトプットを、かなり正確に当てられるヒントツールが欲しい。それをつくることから、ミエルカの開発はスタートしたんです。
とはいえ、僕たちは数学の達人でもないし、アルゴリズムを作る能力もありません。言語処理の知見を持った大学教授や研究者を探し、技術協力を依頼して大学との共同研究へとこぎつけました。世の中の知見を味方につけて、開発の難しい部分を徐々にクリアしていきながら、徐々に突破口を見つけていったんです。
いいたか:
なるほど。それにしても、ユーザーの検索意図が感覚として分かるのはすごいですね。
古澤:
Googleアナリティクスって、2010年代の初頭まで検索キーワードを拾ってくれていたじゃないですか。そこでどのキーワードがコンバージョンをしたのか学び、知見として蓄えられたんですよね。2010年以前からこの業界にいる人ほど、膨大な練習量でこの感覚が鍛えられたと思います。
いいたか:
2000年代後期は、ちょうど比較サイトが増えた時ですよね。この頃から、従来の「ビッグワード」じゃなくて、ロングテールのキーワードも狙うような企業が増えた記憶があります。
古澤:
検索意図を満たしたコンテンツを書く力がないと、ロングテールって集められないんですよ。被リンクが多ければいいという手段では、これは実現できない領域です。
そういう意味では、僕たちはずっとコンテンツに対する意識が強いです。だからこそ、突き動かされるようにしてミエルカの開発を進めていきました。
ちなみに、僕は職人の暗黙知や感覚を機械化しようとする一方で、優れた職人の暗黙知に触れるのがとても楽しいんですね。ミエルカが、そうした職人たちの「人知の貸し借りをする場所」になればいいなと、ひそかに思っています。
ミエルカコネクトが目指す「人知のDB化」とは
いいたか:
すごく面白い世界観ですね。ミエルカの開発から今に至るまでの間で、古澤さんが考えていた課題は、どの程度解決できたと思いますか?
古澤:
理想に対して、まだ5%くらいかなと感じています。それはなぜかというと、今もお客様から「とりあえず100万PVにしてください」というオーダーが多いからです。
「どうして100万PVなんですか?」とたずねると「上司から言われたので・・・」という回答が多いです。これは決して、お客様の悪口を言いたいわけではありません。特に目的や理由なく、「アクセスを増やせばよい」という考えがわき起こるのです。また、車輪の再発明問題も気になっています。
今月も来月も、まったく別のお客様から同じ内容(=解決策)の相談があった。
あるお客様は、担当者が変わって5年前と全く同じ悩みに直面した。
実はこうした事例が、たくさんあるんですよ。これを解決しない限り、僕たちが社会に貢献したとは言えないと思っています。
古澤:
ではどう解決するのか?という点ですが、僕たちはツールと人をセットで提供することが、お客様の課題解決に効果を発揮すると考えています。
会社にノウハウが蓄積している状態を作る。退職などで人材に不足がでても、ツールをオペレーションできる人材をすぐ補充する。こうした支援が、今の僕たちにできることかなと。
そこで、約3年前に「ミエルカコネクト」を立ち上げました。ミエルカコネクトは、フリーランス・副業者のWebマーケターを僕らが集めて、必要とする企業さんとマッチングするサービスです。
いいたか:
人材マッチングや人材派遣の仕事というわけですね。
古澤:
ミエルカコネクトはリリース以来、オーダーが増え続けています。
マーケティング人材を社内から探し育てるのは、すごく大変じゃないですか。中途採用で人材を探そうにも、会社と合わなかったらどうしようかという悩みがあります。
まずは週1〜2日ほど会社と関わってもらい、会社と合う・合わないを判定する。そんなニーズに、ミエルカコネクトは刺さりました。こうした人材のマッチングに加えて、ミエルカをセットでお届けしています。
ミエルカコネクトを通じて、僕は「人知のDB(データベース)化」を進めていきたいんです。「SEO職人Aさんは、どの企業のどんな課題を解決できる知恵を持っているのか」をDB化して、その悩みに合致する企業と自動的にめぐり合わせる世界観を作りたいなと考えています。
現在、ミエルカコネクトには約600名のマーケターさんが登録していますが、基本的に取締役が責任を持って全員と面談をしているんです。
いいたか:
全員とですか!?すごいですね。
古澤:
面談でのヒアリングを通じて、ヒューマンスキルや経験を定量的に把握しています。実際のスキルや運用レベル、SEOの内部設計の知識などは、簡単なテストで数値化できるよう準備中です。こうした情報が蓄積されれば、さまざまな問題を解決できる人材のDBになるわけです。
世の中に知られていない「無名の実力者」って、実はたくさんいるじゃないですか。フリーランス、副業が社会に浸透したおかげで、彼らが表に出られるようになりました。そんな実力者たちのデータを、日本一たくさん持っている会社になりたいんですよね。
例えば、いいたかさんが「5年後にテレビ番組にご意見番として呼ばれるくらい、プレゼンスを高めたい」とぼんやり考えているとします。こうした潜在的なニーズを、ミエルカコネクトがいいたかさんのSNSやチャットアプリでの投稿から抽出します。
そして、ミエルカコネクトが「ひとまずYouTubeチャンネルを立ち上げて、コメンテーターに必要なスキルを鍛えましょう」と提案するんです。さらに、いいたかさんの課題解決に最適なパートナーを選抜し、スキルシートや評価を表示したり各種アプリで連絡できるようにお繋ぎしたりします。
将来的に、これくらいのマッチングができたら面白いなと思っています。
いいたか:
コンテンツは発信しているけれど、キーワードがうまく拾えていない。そんな会社に、ミエルカコネクトがSEOスペシャリスト人材をドッキングするという感じですよね。それができたら良いですね。
古澤さんの職人への想いや仲間が大切という思想が、ミエルカを通じてどんどん広がっている感じですね。
古澤:
そういう意味では、僕は人の才能を信じている節があります。
2014年に「職人とテクノロジーの融合」という言葉を口にした時から、僕は一貫して職人の暗黙知という、圧倒的な属人性の素晴らしさを認めています。
属人性をつぶしてしまったら、面白い技術なんて生まれてこないじゃないですか。だからこそ、テクノロジーを追求しつつ、職人たちが存分に歌い踊れるように応援していきたいんです。
「辺境の知から”マーケティングゼロ”を実現する」
いいたか:
最近、Faber Companyは「辺境の知から”マーケティングゼロ”を実現する」という展望を掲げ、CIとロゴも刷新されましたよね。
古澤:
Faber Companyは、前身のセルフデザインから約16年間、ビジョンなどを決めずにここまできました。会社の方針に対する共通理解は、ある程度形成されていると思います。
しかし、人数が増えた今「僕たちは何を目指し、何のために集まっているのか」が定まっていないことで、彼らのポテンシャルを引き出せていないと感じる場面が増えていきました。そこで議論を重ねて、今年4月にこの展望が完成しました。これが完成するのに、1年半くらいかかっているんですよ(笑)。
いいたか:
つい最近完成したんですね。この展望にはどんな意味を込めたんですか?
古澤:
「辺境」という言葉は、一般的には「何もないところ」「マイノリティー」といった意味で使われます。Faber Companyは、そこに本来の「地」という文字ではなく「知」という言葉をかけ合わせました。
Appleの初代iMacやキッコーマンの『しぼりたて生しょうゆ』は、マジョリティではなくマイノリティ、つまり「辺境の知」から生まれたアイディアだと思いませんか?
「これって面白くない?」というアイディアは、常に辺境から生まれます。会社・社会の主流ではない人が言い出したアイディアが、従来の瓶ではなくボトルに入ったしょうゆを生み出したんです。
さらに僕調べでは、こうした奇抜な商品の誕生の裏には、彼らのアイディアを尊重し守ってくれた社長や上司の存在がありました。僕もFaber Companyの従業員も、そうした「辺境の知」を大切にしていきたいという想いを強く抱いています。
いいたか:
それが「辺境の知」という言葉に込められた意味なんですね。後半の「マーケティングゼロ」は、かなり衝撃的な言葉ですよね。
古澤:
これは決して、マーケティングをやめようという意味ではありません。「価値のない仕事や情熱のむかないことに、時間やエネルギーを使うのをやめましょうよ」という抽象表現なんです。
先ほどの「100万PVにしてください」は、価値や情熱のない仕事の典型だと思います。こうした依頼をしてきたお客様に対して、常に問いを投げかけられる勇気を持とうというシンボルが、「マーケティングゼロ」です。
僕たちは、最終的に売り手と買い手の境目をなくしたいと考えています。
SNSの普及によって、買い手が売り手になることが増えたじゃないですか。いいたかさんが僕の商品を買ってくれて、商品に惚れ込んでたくさん発信してくれたとします。これって、もはやいいたかさんが「売っている」のと一緒です。
売り手と買い手の境目は、今後さらに曖昧になっていくでしょう。Faber Companyは、マーケティングが買い手と売り手の共同作業になったらいいと思っています。
いいたか:
「マーケティングゼロ」にはそんな想いが込められていたんですね。
Faber Companyの原動力「知の探索」
古澤:
Faber Companyの展望と同タイミングで僕たちが「DNAマップ」と読んでいるこのマンダラチャートを作成しました。DNAマップには、Faber Companyが将来に持っていきたい心情・価値観を表現しています。
古澤:
これも外部からファシリテーターを入れて、徹底的に話し合って作成しました。ちなみに、今お見せしているのはバージョン7です(笑)。
いいたか:
かなり作り直しているんですね。
古澤:
マップ中央には、「知の探索」という言葉が書かれています。僕たちは、常にこの「知」という言葉と向き合ってきました。そして、僕たちは知ることに対する好奇心が非常に強く、またその探索が楽しみであり原動力なんだと、DNAマップ作成を通じて気づいたんです。
今ではDNAマップを机の目の前に貼り、毎日それを見てから仕事をするようにしています。DNAマップは、採用面接でも活躍しています。
前提条件なしでマップを見せて、相手に「感じたことを教えてほしい」と伝えるんです。すると、「わけが分からない」という反応を見せる人と、「これなんですか?」と興味を示す人の2種類に分かれます。この2人なら、後者の人と一緒に働きたいと思うじゃないですか。
いいたか:
DNAマップを使うことで、採用のズレをなくすことに役立てているのですね。
展望もDNAマップも、社員が増えて共通理解がズレる危険性を回避するために、時間をかけて「自分たちは何者か」を固めていったんですね。
古澤:
そうです。展望やDNAマップがあることで、たとえ意見がバラバラになっても一本筋の通った意思決定ができると考えています。
経営者としては、壁にぶつかってつらい時、「自分たちはなぜここにいるのか」を振り返ることで、ガンバリズムの素になったら嬉しいなとも思っているんですよね。
世の中にもっと変化を起こしたい
いいたか:
最後に、Faber Companyが今後どんな社会を実現したいのかお聞かせください。
古澤:
「辺境の知から”マーケティングゼロ”を実現する」という展望は、まだまだ抽象的な話です。今社内では、何をすればそれが達成されるかをブレイクダウンしています。
そのために、まずは今後5年で日本一のマーケティングツール導入社数を実現していきたいですね。デジタルマーケティングツールの市場は、決して大きくありません。危険なのは、小さな市場でお互い機能面での差別化が難しい中、競合同士でお客様を取り合うことだと思います。
導入数No.1にたどりつけば、価格競争や不毛な戦いはせずに済みます。その分、お客様が求めている、もしくは潜在的な課題を解決できる機能やデザインにコストを割いていける。お客様から愛されるツールになりたいという想いから、売上ではなく「導入社数」としました。
そしてやはり、力を入れていきたいのは人知のDB化です。僕は最近、無名の優れたマーケターがこんなにもいるんだと日々驚かされているんですよ。彼らは、大企業では絶対に生まれないようなニッチで面白いアイディアを、世の中に送り出し続けています。
今は生活者のチャネルやプラットフォームが多様化し、ニーズが細分化しています。だからこそ、こうした表現者が企業には必要であり、ミエルカコネクトの人知のDB化がそれを解決すると思うんですよね。
いいたか:
それが実現したら、すごく面白そうですね。こうして話を聞いていると、古澤さんは世の中を前進させることに、すごく前向きなんだと感じます。
古澤:
『しぼりたて生しょうゆ』のようなアイディアが、もっと世の中に出てきてほしいんですよね。
これまで数十年、しょうゆが瓶に入っていることを誰も疑わなかったなかで、ボトルに入った新たな商品が生まれた。世の中、少しでもこうした変化が増えればもっと楽しくなると思うんです。そこに、Faber Companyが寄り添っていきたいですね。