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原点は映画と執筆。日本SEOの先駆者・住太陽を作ったもの

更新日:2024.9.13 公開日:2024.09.12

原点は映画と執筆。日本SEOの先駆者・住太陽を作ったもの弊社本田と住太陽さま

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは、当社の本田卓也が務めます。

今回のゲストは、ボーディーSEOを運営するSEOコンサルタントの住太陽(すみ・もとはる)さんです。

1999年からSEOに従事して、2002年に日本初のSEO解説書『アクセスアップのためのSEO ロボット型検索エンジン最適化』 を出版。20年以上にわたりSEOの業界を見てきた住さんに、生い立ちや昨今のSEOの課題についてお聞きしました。
(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:本田卓也)

実はオタク気質?映画・小説にとにかくハマった学生時代

本田:
まずは住さんの生い立ちからお聞かせください。

住:
1971年に岡山で生まれました。そこから転勤族だった父の都合で、1973年に沖縄へ引っ越しました。当時の沖縄はアメリカ合衆国から日本に返還されて間もなくだったので、外国人の友人とばかり遊んでいた気がします。
その後、小学校1年生で名古屋へ。1年ほどそこで暮らし、千葉県船橋市へ引っ越しました。そこからは四街道市、千葉市と県内を移動しつつ20年以上過ごしたので、千葉県出身というのが一番しっくりくるかな。

本田:
住さんといえば大阪在住というイメージだったので、意外でした。

住:
大阪に引っ越したのはSEOの仕事をはじめた2003年頃なので、同業者にはそのイメージが強いのかもしれませんね。

本田:
少年時代の住さんはどんなことにハマっていたのですか?

住:
高校時代から、映画と小説にとにかくハマりました。若い頃に映画にハマる人って、少し難解なストーリーの作品を好む傾向にあるじゃないですか。僕は一貫して、エンターテインメント性の高い大衆向けの作品が好きでした。

高校生時代、行きつけの喫茶店に行くと店主さんが映画のタダ券をくれたんですよ。昔は映画のポスターを店舗に貼る代わりに、配給会社がタダ券を渡していました。僕はその御蔭で、当時の新作映画はほぼすべて無料で観られていました(笑)。

映画好きが高じて、自主制作もしていたことがあります。同時期に作品を作っていた仲間には、映画監督になって今でも制作を続けている人がいます。

住太陽さま

本田:
観るだけじゃなくご自身でも作っていたと。そういえば、小説もご自分でお書きになっているのですよね。『他人の垢』という作品で、第19回堺自由都市文学賞を受賞していたとお聞きしています。

住:
堺自由都市文学賞は堺市と読売新聞社が主催しています。最終選考に残ると、そうそうたる作家さんたちが選考委員として応募者の作品を読んでくれるんです。それを知り、「先生方に講評してもらえるなら」と思い立ち、作品を書いて応募しました。

オタク気質なんでしょうね。興味を持ったら自分でも作ってみたくなる、みたいな。

本田:
私は長年、住さんの著書やさまざまな発信から勉強していますが、どの情報も非常にわかりやすいなと感じています。わかりやすさの根底には、さまざまな作品に触れて自分でも作ってきたというご経験があったのですね。

住:
そうですね。昔から「これを観た人(読んだ人)が面白がるものを作ろう」という意識だけはあったと思います。人に何かを伝えるのが好きなのかもしれません。

偶然出会った「サーチエンジン・プレースメント」の世界

本田:
そんな住さんは、どのようにしてSEOと出会ったのでしょうか?

住:
仕事を始めたばかりの頃は、パソコン自体持っていませんでした。それどころか、半ばプー太郎的な感じで職を転々としていたんです(笑)。

最初は調理の仕事をして、次は営業、その後は倉庫のアルバイトをしていました。そのとき、友人の自動車に乗っていたら友人が事故を起こしまして。僕自身も何カ所か骨折する大ケガを負い、アルバイトができなくなってしまいました。

そのときはちょうど20代後半で、いよいよ人生についてちゃんと考えなきゃなと思い始めました。骨折以外はなんともなく意識もハッキリしていた分、余計に焦りましたね。何か他の仕事を探そうと決めて、自作PCを組み立ててインターネット関連の仕事を始めました。

住太陽さま

本田:
インターネットとはまったく無縁のところからのスタートだったのですね。当時はどのような仕事をしていたのですか?

住:
主にWeb制作です。ホームページを作るにも全く情報がない時代だったので、独学でスキルを身につけていきました。ちらほらと受注もいただくようになり、細々とではありますが生計を立てることもできるようになっていったんです。

そして1999年に、たまたまSEOという概念を知りました。このときはまだSEOという言葉すらなく、「サーチエンジン・プレースメント」や「Webポジショニング」などと言われていました。

本田:
そんな名称だったのですね。それは初耳です……。どのような経緯でSEOを知ったのですか?

住:
あるソフトウェアのおまけとして、サーチエンジン・プレースメントの教科書が付いてきたんです。英語で書かれていた内容を日本語訳して実践してみたところ、見事に検索順位の上位を獲得できました。

その後、外国人のプロフェッショナルが運営しているフォーラムに出入りして、SEOの情報収集を進めていきました。おそらく、フォーラムに参加していた唯一の日本人だったと思います。

本田:
そうやってSEOについての見識を深めたのですね。そして2002年に著書『SEOロボット型検索エンジン最適化』を出版すると。

住:
この本は非常に大きな反響を呼びましたが、出版するまでは本当に大変でした。

SEOという概念を誰も知らないなか、どれくらい売れるかさっぱり分からなかったので、出版会議がまったく通らなかったんです。「早く会議が通らないかな」と思いながら、原稿だけは書き進める毎日がしばらく続きました(笑)。

コンテンツばかりに注目していると足元をすくわれかねない

本田:
そんな苦労があったのですね。これまで20年以上SEOに携わってこられたわけですが、途中で辞めようと思ったことはなかったのですか?

住太陽さま

住:
辞めるとまではいかずとも、何度か萎えてしまった時期はあります。特にリンクスパムが横行した時代とキュレーションメディア全盛期の時代は、完全に萎えちゃっていました。

萎えていたときは、昔からの趣味であるバイクで旅をしていました(笑)。

バイクって、夏は暑いし冬は寒い、いたずらに荷物を増やすことはできないと不自由な点が多いんですが、それが魅力でもあるんですよね。それに、バイクに乗っているときは事故を起こさないよう運転に集中しなくちゃいけないので、いい具合に頭の中をクリアにできます。

本田:
淡々とバイクに乗ることが、ストレス発散にもつながっているのですね。

住:
最近はSEOの環境もだいぶよくなって、仕事へのモチベーションも高いのでバイクはしばらくお休みしています。また萎えてきたら乗ろうかなと。

本田:
SEOの環境は改善されているとのことですが、どのような点からその流れを感じますか?

住:
まともなコンテンツを作ろうという雰囲気が定着しましたよね。キュレーションメディアが注目されて以降、SEOは長らく「コンテンツの時代」が続いています。その長い歴史を経て、さまざまな流行が隆盛・衰退していくなか、「まともなコンテンツを作ろう」という空気感が醸成されてきたことは、とても良い流れだと思います。

一方で、現状のSEO業界にも問題点や課題はあると思います。これは誰に聞いても同じ答えになってしまうかもしれませんが、「コンテンツが注目されすぎている」という点です。

本田:
最近のSEOはコンテンツ偏重になりがちというのは、多くの専門家が指摘しますよね。

住:
コンテンツ自体の重要性は、今後も変わらないと思います。しかし、Webサイトそのものに対する手立てを何も持たず、コンテンツ制作ばかりに集中していると、どこかで足元をすくわれる気がしてなりません。

加えて、コンテンツを「誰が作って」「どこで発信しているのか」の重要性も増してきているなと。コンテンツを用いたSEOに取り組む人には、こうした現状に気をつけつつ頑張ってほしいです。

本田:
全体を観る視点は大切ですね。ちなみに、長年SEOに携わってきた住さんが大切にしている価値観は何でしょうか?

住:
「攻めすぎない」ことです。

住太陽さま

本田:
「攻めすぎない」ですか?

住:
SEOの歴史はペナルティの歴史でもあります。かつて多くのWebサイトが調子に乗ってグレーあるいはブラックな手法に手を染めて、ガイドラインに違反して罰を受けました。

ある種のハック的な手法で勝負しなくてはいけない瞬間も確かにあります。5年10年と継続させる予定のない事業では、一時的にアクセスを集める施策も必要かもしれません。しかし、あまりに攻めた施策を繰り返しても、そこに持続性はありません。

最近は多くの予算と人的リソースを投じられる大手企業がSEOでは優位とされていますが、現在でも多くの中小企業が生き残っています。ということは、規模の優位性以外で何かしら「生き残っている理由」があるはずです。

その理由をちゃんと見つけて、大手企業と同じ領域を避けてコツコツ施策を積み重ねていく。攻めた施策に軸足はおかず、地道にその理由を発信していけば、その企業のサービスを求めるお客様に見つけてもらえるはずです。

AI Overview以後のSEOのあり方

本田:
住さんは、AIによってSEOはどう変化すると思いますか?

住:
僕自身はあまり生成AIを使っていません。最初は校正や見出し作成などで使っていたんですが、どうしても自分の書いたものにはならないので。

それでも、生成AIのライティング精度はすごいなと思います。記名記事でなければ、SEOライターさんに頼らず生成AIで十分だとさえ思うほどのレベルを感じますね。逆にSEOライターの場合、生成AIを使いこなして「一気に500記事納品!」など、今までは考えられなかった生産性を発揮するようになるかもしれません。

本田:
生成AIといえば、Googleが2024年5月に発表したAI機能「AI Overview」についてはどう思いますか?

住:
「AI Overview」の動向については、僕は完全に様子見の姿勢です。少なくとも現時点で、何かしらの判断ができる段階にはないと思っています。

AI Overviewは確かに便利ですが、従来の強調スニペット※とあまり変わりません。知りたい情報についてサッと教えてくれる便利機能で、それがゼロクリックにつながるに過ぎません。

※強調スニペット(Featured Snippets):
ページへのリンクが表示される前に、そのページの内容を示すスニペット(抜粋)が検索結果画面上部に表示される機能。

ですが、AI Overviewにいろいろ教えてもらいつつも、細部の情報を確かめなくてはならないややこしい調べ物をしているときは、結局リンクにアクセスする必要があります。

本田:
簡単な質問に回答してほしいときは便利だけれど、複雑な情報の検索にはあまり役に立たないと。

弊社 本田

住:
今後、Googleが膨大なテストを重ねてAI Overviewの回答内容の精度も高めていくので、意外とすぐ複雑な調べ物でも役立つようになるかもしれません。そういう意味も含めて、現時点でAIの是非についてはあまり判断せず、様子見でいいのかなと思います。

僕たち人間ができることは、難解な調べ物の情報の質を担保することだと思います。発信元の企業の評判がいい、信頼できる人が書いているなど。こうした信頼性をもって情報発信できるかが、AI時代のSEOで求められることではないでしょうか。

SEOで求められるのは人に対する想像力

本田:
最後に、住さんから見てどのような人がSEOに向いているかを教えていただけますか?

住:
ありきたりな回答にはなってしまいますが「人に対する想像力を持っていること」は、とても大事だと思います。

ひとつひとつのキーワードの背後には人がいるわけです。
このキーワードを検索する人はどんな状況にあるのか。
検索した結果、その人はどうなりたいのか。

検索している人の気持ちに対する想像力が、SEOには求められると思います。検索エンジンの仕組みなどは、時代によってどんどん変化していくと思います。それこそ、AIの登場のように大部分がシステム化され機械に任せることになるでしょう。

そうなると、人の気持ちや欲求の根源について考えたり、そうした情報を受け取ったりするのが好きな人は、ますますSEOで活躍しやすくなると思います。

本田:
小説や映画がお好きな住さんならではのお考えですね。

弊社本田と住太陽さま

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