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「いろんなことに興味を持ちなさい」SEOの第一人者・渡辺隆広の人生を決定づけた一言。

更新日: 2024.2.2   公開日:2023.12.08

渡辺隆広氏・本田卓也

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは、当社本田卓也が務めます。

今回のゲストは、SEOの第一人者と呼べる存在・渡辺隆広さんです。日本でまだ「SEO」という言葉が浸透していなかった1997年、渡辺さんはSEO支援サービスをスタートさせました。2003年に発売された著書『検索にガンガンヒットするホームページの作り方』は、SEOの概念や実践をまとめた名著として多くの業界関係者に愛読されています。

渡辺さんは、いつSEOと出会い今の道を志すようになったのか。これまであまり語られなかった過去について聞きつつ、SEOの未来やSEOに携わるために必要なことを話していただきました。

(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:本田卓也)

心理カウンセラーの言葉が人生を変えた

本田:
こうして渡辺さんにインタビューさせていただく機会が来るとは、思っていませんでした。『検索にガンガンヒットするホームページの作り方』はボロボロになるまで線を引きましたし、部下にも全員に読ませたくらいです。

渡辺:
ありがとうございます。本田さんとはイベントで初めてお会いしたんですよね。

本田:
そうです、もう15年以上前のことかな。僕たちの世代にとって、渡辺さんはレジェンド中のレジェンドなので、すごく興奮したのを覚えています。

まずお聞きしたいのは、これまであまり語られてこなかった渡辺さんの幼少期についてです。渡辺さんはどのような子ども時代を過ごしたのでしょうか?

渡辺:
小学校の頃は、勉強は嫌いで成績も5段階でよくて3どまりでした。塾や習い事も親に無理やり通わされていたという感じで、2歳上の勉強ができる姉とよく比べられていました。

当時の私は、ファミコンでゲームばかりしていたと思います。『マリオブラザーズ』や、当時の小学生には難しかったため今でいう「クソゲー」のカテゴリーに分類されることもある『スターラスター』というゲームが大好きでした(笑)。

昔のゲームは理不尽な難易度の設定も多かったんですが、どうやってクリアするかを考えるのが楽しかったですね。

本田:
勉強嫌いというのは意外でした。中高生でも勉強嫌いは変わりませんでしたか?

渡辺:
中学時代もろくに勉強しませんでしたし、高校は大学進学者が毎年10人いるかいないか程度の、世間的にはいわゆる底辺校に通っていました。

ただ、自分でもなぜそう思ったのかわからないんですが、高校2年生の夏頃に「この学校の生徒たちと同じ人生を歩みたくない!」と強烈に思い始めたんです。そこから、生まれて初めてまともに勉強するようになりました。

将来どんな職業に就きたいのかというイメージはありませんでした。それでも、とにかく地元を出ようという一心で勉強し、明治学院大学に合格したんです。

渡辺隆広氏

本田:
念願がかなったわけですね。

渡辺:
この時、私にとって運命的な出会いがありました。受験勉強中、私は精神的な問題を抱えて心理カウンセラーの先生にお世話になっていたんです。無事大学に合格した後、先生の元へ最後の挨拶をしに行った時、先生にこんな言葉をかけてもらいました。

「大学に行ったら、いろんなことに興味を持ちなさい。その中で、興味が持てるものがあったらとことん研究してみなさい。そうすれば、あなたは他の誰よりもきっとそれをうまく使いこなせるようになるから」

この時はまだ、私はこの言葉の意味を理解できずにいました。

大学進学時、ちょうどWindows95が発売されるタイミングでした。私はワープロのタッチタイピングを覚えようと思いました。そこで、「どうせならしっかり勉強しよう」と、日本ワープロ検定試験を受けようと思ったんです。

それから半年間、毎日タイピングに必要な指の動かし方を勉強しました。結果、認定試験に合格できたんですが、勉強嫌いだった私にとってそれは大きな成果であり、この時はじめて先生の言葉を理解できました。

それからは、とにかくいろんなことに手をつけ始めました。人前で話すことや論理的に説明することが苦手だったので、英語サークルでディベートに取り組むグループに入りました。それに、大学時代は複数のアルバイトを掛け持ちして毎日21時間働いていたこともあります。

本田:
21時間!?

渡辺:
この時は、神奈川県内の家電量販店でパソコンのテクニカルサポートをしつつ、選挙の当選確率を予測するというサービスを展開していたベンチャー企業で働いていました。またこの会社からの紹介で、国会議員のホームページ制作や通販サイトの制作も代行していました。

それ以外にも、サービスが開始されたばかりのYahoo!オークション(現在のヤフオク!)で郵便局で配送料のつけがきくレベルの売買をしたり、メルマガや雑誌のテクニカルライターをしたりで、同時に8つくらいの仕事を毎日こなしていました。その結果、朝9時から翌朝6時まで働くような生活を送ることになったんです。

自分でも、よくこのライフスタイルで身体がもったなとつくづく思います。心理カウンセラーの先生の言葉を理解できて、何かに挑戦することで一定の成果を出せるようになったのが、とにかく楽しかったんです

当時の生活
業務や時間を柔軟に調整できる複数のバイトや仕事を組み合わせていた。2001年からMBA取得を目指して大学院に通い始めたため、その前後に仕事を移動したが就寝時間が朝6時になった。

検索の不便さで気づいたSEOの価値

本田:
渡辺さんはどのタイミングでSEOと出会ったのでしょうか?

渡辺:
SEOに初めて触れたきっかけは、英語サークルでした。サークルではディベートのために、さまざまな社会問題について調べる必要があったので、インターネットでよく検索をしていたんです。

1990年代前半の検索エンジンはとても貧弱でした。当時は Altavista や Infoseekを利用していましたが、単純なキーワードの文字列一致だったので欲しい情報とは程遠いページばかり検索にヒットしました。一部の新聞社や研究機関のサイト内検索はWebサイトの更新順で表示したことも探しにくい要因でした。おまけに当時はダイアルアップ回線だったので何をするにも読み込みに時間がかかる。

とにかく何度も何度も、検索してはページをチェックするの繰り返しでした。

本田:
強烈な不便を感じていたんですね。

渡辺:
そして1996年11月頃、日用品を買おうと思ってネット検索をしていた時のことです。確かこの時は、傘を探していたんじゃないかな。検索結果の50番目のサイトで、ようやく自分が欲しい傘を見つけることができたんです。

このネット検索の不便さに直面した時、ふと「これは仕事になるのではないか」と思ったんですよね。まだSEOという言葉自体が存在しなかった時代です。

いろいろ調べてみても、SEOを事業としている人や会社は日本にほとんど存在しませんでした。

この不便を解決するために検索エンジン会社で働くか、検索されやすいサイト制作をするか悩みました。1997年春に当時 Infoseek Japan を運営していたデジタルガレージの面接を受けたのですが、大学の授業や卒業論文の兼ね合いもあってどうしても勤務時間の都合がつきませんでした。

それなら自分でやろうと決心し、大学在学中の1997年7月に個人でSEO支援の仕事をスタートさせました。

本田:
Google誕生以前にSEOに着目したわけですか。ものすごい先見の明だ……。仕事は順調だったんですか?

渡辺:
いえ、まったく。SEO支援をしようと思っても、誰もSEOの重要性を理解してくれないという問題に直面しました。97年の宣伝媒体はバナー広告やメルマガでしたから。検索の重要性を説明しても、50社中49社に変な顔をされましたね。

このままでは生活がままならないと思い、家電量販店やベンチャー企業の仕事を続けていきました。それでも、SEO支援は必ずビジネスになるという確信があったので、1997〜99年の3年間は他の仕事を受けつつ、ずっとSEOの勉強をしていました。

渡辺隆広氏

本田:
この頃は、日本にSEO関連の教材は一切ありませんでしたよね。どのように勉強したのですか?

渡辺:
最初の頃は、自分でホームページを立ち上げていろいろと試行錯誤しました。当時の検索エンジンは「サイトタイトル」と「メタタグ」でほぼ検索順位が決定されるという設定でした。

この2つを変更したらどうなるのか。検索ワードを複数にしたら表示結果は変わるのか。それらを1つずつ試しながら独学で勉強していきました。

本田:
やはりGoogleの登場が、SEO支援事業の大きな転機になったのでしょうか?

渡辺:
そうですね。1998年にGoogleが立ち上げられ、口コミで利用者が徐々に広がるにつれ、SEO関連の情報や教材も目にするようになりました。

2000年頃からは、「ロボットサーチ.com」というSEO好きが集まるインターネット掲示板ができて、SEOで交流できる機会も増えていきましたね。
2002年2月には、日経産業新聞がSEOについての記事を取り上げたんです。これをきっかけに、多くの企業がSEOに興味を持ち始めました。

本田:
仕事が軌道に乗り始めたのはいつ頃でしたか?

渡辺:
2001年冬頃だったかなと。このあたりから、本気で自分のリソースをSEOに集中させていこうと思い、他の仕事はすべて辞めたんですよね。

本田:
SEO支援がうまくいかない時期は長かったと思います。「SEOはビジネスになる」という確信を持てたのは、いつ頃ですか?

渡辺:
そういう意味では、97年の時点から絶対にビジネスにできるという確信がありました。当時はインターネットが急速に普及して、ホームページの数が爆発的に増えていたので。欲しい情報に瞬時にたどり着くには、検索以外の手段がありません。

情報が増えれば増えるほど、マッチング技術としてのSEOの価値は高まると考えたんです。それに、私自身の特性もSEOに向いていると思いました。

本田:
どんな点で向いていると感じたのですか?

渡辺:
答えが用意されていないものに対して、自分で試行錯誤を続けられるという点です

先ほどは語りませんでしたが、大学時代に私は気象予報士の勉強をしたり、静岡県警のサイバー捜査官として内定をもらったりしているんです。どれもすべて、面白そうという軽いノリでチャレンジしたことがきっかけでした。

SEOは次々とアルゴリズムが変わったり、Webの環境の変化に影響を受けたりします。その特徴を、私は「変化があって面白い」と感じました。SEOに対して、超高難易度のゲームにチャレンジする感覚を持てるようになったんです。

心理カウンセラーの先生のアドバイスに従い、たくさんのチャレンジを重ねる過程で、自分にそういう才能があると思えるようになりました。

本田:
心理カウンセラーの先生との出会いは、渡辺さんにとって非常に大きなターニングポイントだったのですね。

渡辺:
学生時代を振り返って、一番感謝したい存在です。2013年には、先生のいる名古屋へ行ってお礼を伝えました。

DMMのポテンシャルと課題

本田:
渡辺さんのルーツを聞いたところで、一気に話を現在に移したいと思います。渡辺さんは、2021年に前職の株式会社アイレップを退職して、2022年4月にDMM.comへ入社しました。このニュースには、僕も含め多くの業界関係者が驚いたと思います。

なぜこのタイミングで、DMMに入社したのでしょうか?

本田t卓也

渡辺:
私は約25年間、代理店側としてインハウスのSEOはどうあるべきかを、好き放題説いてきました。そうやってクライアントに伝えてきたことが、本当に正しかったのかを確かめたくなったんです。そこで、事業会社側の人間として改めてSEOに携わろうと決めました。

転職先の条件として考えたのは、まず「たくさんのサイトを運営している会社であること」です。途中で仕事に飽きないために(笑)。

もう1つの条件は、会社の経営陣や上司になる方がSEOに理解があることでした。この条件に当てはまる会社が、DMMだったんです。

本田:
実際に入社してみて、DMMでの仕事はどうですか?

渡辺:
DMMに入社して驚いたのは、あれだけの企業規模ながらSEOの課題が山積みである点です。もちろんどの企業であれ改善余地はいくらでもあると思いますが、ここは別格です。

私は主にDMMグループ全体のSEO推進業務をしているため大方針の戦略策定やその社内調整業務が多く、個々のSEO施策の試行錯誤が好きな人にとっては退屈な仕事に映るかもしれません。ですが、私にとってはこれこそがやりたいことでもあったので、楽しく仕事ができています。

それと約1年半働いて、「SEOは、SEOの知識だけがあっても仕事は前に進まない」ということを改めて痛感しています

創業から現在に至るまでの事業の歩みや、歴史的な背景、事業部内の文化や組織全体の考え方、事業責任者のキャリアとバックグラウンド。こうした要因によって、SEOの受け止め方は大きく変わります。そのため、組織に合わせてSEOの価値をどう伝えるかという、コミュニケーション能力が問われるんです

特にDMMは、事業部によってまったく組織の性格が異なります。1つの大企業というよりも、中小企業の集合体と言えばいいのでしょうか。ある事業部は新しい施策にフットワーク軽く取り組んでくれるけれど、別の事業部は過去のSEOの成功体験が乏しいためにネット検索の重要性が伝わらず、結果としてSEOタスクが後回しになる。こうしたケースが非常に多い印象です。

SEO云々以前の問題でネットリテラシーが不十分な結果、不適切といわざるを得ない施策を選択してしまうこともあります。一定のモラルを持ち合わせていればWebスパムといった不正行為を疑えるようなケースでも、それがなぜダメなのか理解できないのです。それをひとつずつ、できるだけ丁寧に、納得いただけるよう時間をかけて説明しています。そこまで説明しても理解してもらえないこともありますが。

本田:
それは大変だ……。渡辺さんはDMM入社時のインタビューの中で、「DMMは年間の検索流入を10億は増やせる」と話していますよね。
参照:SEO界のレジェンドがDMMに降臨!確信した“プラス10億”の効果

「プラス10億」という数字を達成する上で、DMMはどんな課題を解決しないといけないのでしょうか?

渡辺:
センシティブな情報も含まれるため話せる範囲に留めますが、要は(かつてDMMブランドで)成人向けコンテンツを提供していたという歴史的な経緯に起因する課題を解決する必要があります

現在でこそ一般事業はDMM.com、成人向けはFANZAと明確にブランドを区別しています。しかし、まだまだ DMM=アダルトという認識も残っています。ここにブランドの位置づけとユーザー認知の相違があります。
検索エンジンを通じて情報をユーザーに円滑に届けるためにはこのブランド認知のズレを解決する必要があります。もはやSEOの範疇を超えているため仕事の難易度は高いですが、このタイミングで入社してきた私だからこそ取り組まなければいけない仕事だと考えています。

本田:
DMMの後のキャリアプランは考えているのですか?

渡辺:
全然違う仕事がしたいですね。例えば何らかの事業で、SEOだけじゃなくマーケティングの責任者を務めてみたいな。あとはそれこそ、本気で八百屋とかやってみたいかも。

本田:
渡辺さんが八百屋になっていたら、今回の転職以上に驚くと思います(笑)。

渡辺隆広氏・本田卓也

AIでマッチング技術はどう進化するのか

本田:
SEOの世界では、生成AIやSGEなどさまざまなトピックが注目を集めています。渡辺さんは、将来的なSEOの変化をどう見ていますか?

渡辺:
確かにここ最近、SGEに関する話題が増えましたね。X(旧Twitter)上で議論している人も多いですが、議論の中身は画面レイアウトやユーザーインターフェースの話に終始しているように思います。

SGEの議論の本質は「マッチング技術がどう進化するか」なんですよね。インターネット上にコンテンツが存在し、何らかの情報を求めているユーザーがいる。両者のマッチングを担っていたのが、これまではクエリ=検索語句でした。

そこに、現在では音声やカメラ(画像)といった手段が追加されました。いろいろと手段は増えているものの、なんだかんだ今も(テキストの)検索語句に頼っているのが現状です。この課題を解決するために、AIがどのような活躍を見せるかが重要なんです

例えばAIによって、Google Discoverというユーザーの興味や関心に関連するコンテンツを表示する機能が今以上に進化するかもしれません。

現在の機能は、あくまで興味関心レベルでトピックやコンテンツを表示してくれるだけです。それが、ユーザーのWeb閲覧履歴やアプリのアクティビティ履歴を深く分析して、「(いま向き合っているタスク完了のために)これから探そうとしている情報」を表示してくれるようになるかもしれません。

仮にミラーレスカメラが欲しい人がいたとします。その人に、「あなたの検索履歴から考えると、キヤノンやニコンではなく富士フイルムがいいんじゃない?」と提案してくれるわけです。これがユーザーのニーズにマッチしているなら、マッチング技術の進歩と言えます。

また、直近の活動履歴そのものが、クエリとして機能する時代が来るかもしれません。現在は大阪で1泊するのでビジネスホテルを予約しようとする時、予約サイトで空室を確認して予約手続きをしないといけません。

しかしSGEによって、前回泊まったホテルの空室情報を表示してくれて、予約ボタンを押せば予約確認画面に飛ぶようになるかもしれません。

本田:
そうなったらとても便利ですね。

渡辺:
現在の検索体験は、まだまだ不便なことが多いじゃないですか。キーワードを入力しても、欲しい情報が出てこないことはよくあります。ちょうど先日、仕事用のノートPCを買い替えたんです。

なかなかWindowsのライセンス認証ができずに、解決策を調べていたんですが……。私はWindows11の情報が知りたいのに、Windows10の情報しか表示してくれないんです(笑)。しかも結局、マイクロソフトのライセンス認証サーバの障害が原因だったようですが当時のXには該当ツイートがひとつもないし、その可能性を疑うようアドバイスする情報へのリンクをGoogleは提示してくれませんでした。

本田:
97年に感じた不満と、また遭遇してしまったわけですね。

渡辺:
1997年から2023年にかけて、検索エンジンは確実に進化してきました。それでも、ユーザーと情報をマッチングさせてタスク完了を支援できる存在として、Googleはまだ未完成です。この課題が、AIによってどう解決されるのかに注目しています。

渡辺隆広氏

本田:
進化の方向性によっては、かつてのGoogle登場と同じような感動を味わえるかもしれませんね。

「人の軸」でユーザーと市場を理解せよ

本田:
最後の質問として、ぜひお聞きしたいことがあります。渡辺さんにとって「SEOに向いている人」はどのような人ですか?

渡辺:
いいSEO会社と悪いSEO会社、SEOが上手な人とそうでない人を、簡単に見分ける方法があります。それは、SEOについて話すとき「人の軸」で会話ができるかどうかです。「知の探索」に登場していた辻正浩さんはまさに、人を軸にSEOを語れる人だと思います。

「人の軸で会話する」とは、ユーザーが検索するきっかけや背景、文脈、心情をもとにSEOを語れることを指します。

人が検索行動を起こすのであれば、その行動を誘発した要因があります。何のきっかけもなく検索は発生しません。検索中も人の感情や検索対象への理解度は常に変化します。最初は何かを購入しようと思って検索を始めたユーザーが、何らかの理由でその行動を(購入せずに)やめることもあります。

検索セッションの一連の行動と心情を想像しながら、SEOという手段で解決可能な機会を発見できる人が「SEOがわかっている」と考えています。なぜなら、こうした思考ができる人は検索エコシステムにかかわる三者 – 検索エンジン、情報発信者、検索ユーザー – の利益を考慮した解決策を導きだせるからです。

「人の軸」でSEOが語れない人は、こういう会話になっちゃうんですよ。

「GoogleがWebページの読み込み速度を重要視しているので、表示スピードを改善しましょう」
「〇〇のキーワードを検索すると、検索結果上位の記事にはこのコンテンツが含まれているので、この項目を追加しましょう」

どちらの会話にも、検索した本人が不在なんですよね。

本田:
こうした会話は、多くの場面で耳にしますね。確かに「人の軸」が存在しないSEOは、ロボットを攻略するような感覚に陥ってしまうかもしれません。この点を踏まえて、SEOに取り組む人やこれからSEOを学ぶ人は、何を意識すればいいでしょうか?

渡辺:
現在において、SEOしか語れない人は現場に必要ありません。「SEOしか語れない人」というのは、検索エンジンという狭い範囲でしか物事を決められない人を意味します。

現在、GoogleはモバイルデバイスのChromeブラウザのトラフィックデータや、ユーザーの行動データそのものに注目しています。そのため、SEOでもネット全体、もっと言えば「ユーザーの生活そのもの」という観点で物事を考えなくてはいけません。

SNSやテレビCM、YouTube広告の影響で検索行動はどう変化するのか。こうした消費者の行動も理解した上で、SEOをどう組み合わせるかという話ができないと、仕事にならないと思っています。

私は昔からSEOを学ぶ人には、「ユーザーと市場を理解しよう」と伝えています

正直、アルゴリズムはどうでもいいんです、勉強すれば理解できますから。ユーザーや市場の理解というのは、ある程度思考訓練を重ねないと習熟できません。さらにこの視点がないと、SEOをどう使えばユーザーの課題解決につながるかという発想が浮かんでこないんです。

それと私は、「Googleの言うことを鵜呑みにしないように」とも伝えています

ネット上、あるいはリアルで多くの人々がSEOについてアドバイスしてくれると思いますが、アドバイスの中身はどうでもいい。大事なのはその内容に至った過程であり、なぜその結論に至ったのかというロジックを理解することです。

答えだけを覚えても応用が利きません。ロジックの過程を理解すればさまざまなことに応用できるので、ぜひ自分なりに考えを深めてほしいです。

渡辺隆広氏・本田卓也

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