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社員の熱狂が切り開いたチャットの可能性「BOTCHAN」で新たなマーケットを創る。wevnal磯山博文

公開日:2022.11.09

wevnal

株式会社GiftXいいたかゆうたさんがインタビュアーとなり、様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。

今回のゲストは、株式会社wevnalの磯山博文さんです。wevnalは広告事業、メディア事業などに携わりつつ、BX(Brand Experience:ブランド体験)プラットフォーム「BOTCHAN」をリリース。ユーザーのブランド体験向上を通じてLTV最大化を目指すwevnal。BXという構想へ至った背景を、磯山さんとは10年以上の仲だといういいたかさんが聞きました。

(撮影:志賀友樹 執筆:サトートモロー 進行・編集:いいたかゆうた)

「誰とやるか」で生まれたwevnal

いいたか
磯山さんの生い立ちや、起業しようと思った理由を聞かせてください。

磯山
僕は1985年7月生まれで、両親と妹の四人家族で育ちました。親父は、茨城県の鹿島臨海工業地帯にある会社に、3交代というシフト制で働いていました。僕はサッカー部に所属していたんですが、平日の試合もすべて見に来てくれたんですよ。それを見て、よく友達に「お前の親父、無職なの?」とからかわれていました(笑)。

僕が起業に踏み切れたのは、一般的な家庭とは違う働き方をしていた親父を見ていたからかもしれません。あと、親父は自分の好きなように生きているんですよ。うちには海・山・湖と3ヶ所別荘がありますが、海の別荘は親父がホームセンターで木材を買って、自分で建てちゃったんですよね。

いいたか
すごいですね。

磯山
その姿を目の当たりにしていたので、人生を楽しく生きたいと思うようになりました。

大学卒業後は、大手インターネット企業へ入社しました。僕が入社したのが2008年なんですが、すぐに世界的経済危機のリーマンショックになった時代でして。内定した会社は無くなり、僕は親会社に転籍、新規事業部門に配属されました。

その時に出会った同僚が、wevnalの創業メンバーなんです。会社である程度成果を上げていく中、今後さらにスタンダードになるインターネットの世界で、「自分たちで何かやったら面白いんじゃないか」と思うようになりました。僕たちが作る新しいサービスで、世の中に価値を作ろうと2011年に設立したのが、wevnalという会社でした。

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いいたか
創業時はどんな事業をしていたんですか?

磯山
創業時は、サービスが何も決まっていませんでした。「何をやるか」よりも「誰とやるか」を優先して、とにかくこの仲間で何かしたい!という熱量しかなかったんですよね。

ちなみに、今のwevnalのミッションは「人とテクノロジーで情報を紡ぎ、日常にワクワクを」で、「誰とやるか」は今も大切にしています。

いいたか
そうだったんですね。BOTCHANが生まれるまで、どんな仕事をやっていたのですか?

磯山
最初の3年は、とにかく生き抜くことが最優先でした。ホームページの制作、リスティング広告、SNSコンサルティングなど、スピード重視で新しいサービスを提供していました。

ひとつひとつ、新しいものに取り組んでいって。1万円の仕事が10万円の仕事になり、10万円の仕事が50万円の仕事になり…。小さな成功を積み重ねて、できる範囲を広げていき、設立6年で広告取扱額20億円まで持っていきました。泥臭いことも、たくさんこなしてここまで来ました(笑)。

BOTCHANは「市況への展望」と「社員の熱狂」から生まれた

いいたか
6年で20億円まで売上を伸ばせたなら、エージェンシーという道で拡大を狙うってこともあったと思います。その中で、BOTCHANに行き着いたのは、どんな経緯があったんでしょうか?

磯山
資金や余力がない状態で、6年間なんとか走り抜けたわけだけれど、気づけば僕も30代になっていました。

その間、とにかく泥臭く働いてきました。ほとんど休みはなかったし、僕も1ヶ月半ほど入院したこともありまして。当時、社員の離職率も40%近くありました。スーパーマリオのスター(無敵状態)が切れたような状態で、「これを続けるのは正直きつい」というタイミングだったんです。

仕事を効率化しつつ、がむしゃらに働いて会社を大きくすることも出来たと思います。ですが、僕たちは創業時から、「自社サービスをやろう」と決めていました。だから今、ある程度資金の余裕が生まれたこのタイミングで、自分たちの強みになるサービスを作ろうと思ったんです。

当時、自社サービスを作る以外に、「海外進出」という選択肢も考えていました。当時注目されていたエージェンシーが続々と海外進出していたし、元々海外には行きたかったんですよね。

そこで2週間、取締役副社長兼CPOの前田康統と一緒に、東南アジアを転々とめぐったんですよ。結局、事業や売上の基盤がない今ではないなと。僕たちがまずやるべきは、自分たちの武器になるサービスを作ることだと決めました。そこで、事業の舵を大きく切ったんです。

いいたか
そこから、新たなプロダクトを考えていったわけですね。

磯山
いろいろ作りましたね。アナリティクスのレポートツールや、ヒートマップツール、介護老人向けのIoT。どれもピンとこない中、注目したのがマーケティング領域だったんです。

マーケティングって、今も昔も多くの予算を投じるじゃないですか。大量の広告費を使って、大量にユーザーを誘導し、その一部に商品を購入してもらう。当時もその傾向は変わりませんでした。このモデルを見て、ふと思ったんです。マーケティングをより効率化して、しっかりと接客対応をすれば、マーケティングコストを大きく抑えられるんじゃないかって。

この課題を解決するサービスは何かを考えた時、行き着いたのがチャットフォームでした。

今から5年くらい前、チャットフォームは世界を変えると言われていたけれど、全然ビジネスの役に立たないと批判されていたんですよね。僕は「チャットでしっかりお客様対応できるようになれば、必ず効果がある」と思いました。

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いいたか
そこからBOTCHANの開発に注力していくんですね。

磯山
BOTCHANのサービスビジョンは、「消費者および企業のLTV最大化を、ブランド体験(Brand Experience)の向上を通じて実現する」です。

近年のマーケティングは、どう見てもLTV(顧客生涯価値)に重きを置き始めているじゃないですか。コストを最適化して、利益を出す方向へ世の中全体が傾いています。しかし、世のマーケターは口々にLTVをうたうけれど、それが実践できている会社はそう多くありません。

チャットフォームに舵を切った時、「今後5年でLTVを主軸としたマーケティングにシフトする」と思いました。そこで絶対に肝となるのが、「お客様対応=接客」だと。

消費者にとって使い勝手のいい、心地よいサービスを一気通貫で提供する。そして、商品の認知から購入、ロイヤルカスタマーまで対応する。「LTVを可視化するだけでなく、最大化できるプラットホーム」を、BOTCHANで実現したいと思ったんです。

とはいえ、BOTCHANのリリース直後の売上は、既存事業の1/10程度に過ぎません。ここまで語っておきながら、僕自身も「BOTCHANなんて、今後どうなるか分からないよね」と、あまり乗り気ではありませんでした。それが今や、僕が会社で一番この事業に賭けています(笑)。

僕の思いを変えたのは、前田やチームメンバーのBOTCHANにかける想いでした。お客様からも、「BOTCHANを導入したから売上が伸びた」という声をいただくようになり、「絶対にやってやる」という想いであふれていました。

そんな熱量の高いメンバーを見て、「すごくいいチームだな、これは成功させなきゃいけないな」と考え始めました。チャットフォームは大したことないと思っていた市況を、彼らの熱量で変えられると思ったんです。

いいたか
創業当時の、「誰とやるか」という想いにも似た感覚があったんですね。

磯山
そうですね。実際、そこから組織も大きく変わりました。僕や前田、役員の森元昭博のような、熱意ばかりが先行する猪突猛進型の創業メンバーだけでは、事業はスケールできません(笑)。

取締役COOの西田貴彦や、取締役CFOの長瀬健、CTOの鈴木和男。彼らのように、ロジカルで細やかな経営ノウハウを持つ人材が入ってきたおかげで、事業をアップデートできるようになりました。

もちろん、その土台にはメンバーの熱い想いが不可欠です。人の熱量が、今の会社にないものをどんどん巻き込んで、成長してきたのがwevnalなんです。

いいたか
以前、前田さんと食事した時に彼も話していましたが「“大人”な人材が入ってくれたことで、会社は大きく変わった。変わる大変さもあるけれど、すごくいいことだ」って。

「導入するだけで売上が伸びる」という圧倒的信頼

いいたか
「チャットフォームってどうなの?」というマーケットの反応とは裏腹に、チャットツールを提供するプレイヤーは増えているじゃないですか。その中でも、BOTCHANを選んでいただいている企業様の理由を、磯山さんはどう分析していますか?

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磯山
シンプルに結果が出せていることでしょう。BOTCHANのよさは、どのチャットフォームよりも売上を伸ばせる点にあります。

僕たちは、お客様の売上貢献のために、クリエイティブやカスタマーサクセスチームを厚くしています。実際、従業員の約半数がカスタマーサクセスに所属しているくらいです。そうやって、お客さんの成果にコミットしていく体制を整えています。モノを売るノウハウは、広告代理業時代からずっと培ってきました。この点はツール提供会社、ツール制作会社にはできないことだと思いますね。

数値を見て、どこでユーザーが離脱して、どう行動した時にユーザーが購入へと態度変容するのか。これらを細かく科学して、緻密なノウハウを蓄積し、導入してもらった瞬間から最大の効果を出していく。元営業会社だったからこそ、これらを実現できる組織体制にこだわっています。

BOTCHANが、成果報酬型のモデルを取っていることも大きいです。お客様の売上が伸びないと、僕たちの売上も伸びない。だからこそ、お客様の売上アップに必ずコミットできます。とはいえ、僕たちも全業種に対応できるわけではありません。D2Cという、我々の得意領域とする企業様は、必ず売り上げを伸ばせる。そのブランドを、この2年間で作り上げてきました。

いいたか
いわゆる「効率化系SaaS」は、お腹いっぱいという感じの声も聞くようになりましたよね。どのツールもよくできているけれど、違いが分からない。BOTCHANは「顧客が満足すれば自社も潤う」という考え方で、とにかくお客様第一で作り上げてきたんですね

磯山
「BOTCHANを導入したら、10,000件だったCVが15,000件に増えた」

こんな報告が聞けるなんて、最高じゃないですか。なおかつ、お客様の売上が伸びたら、僕たちも儲けられるんです。ビジネスは、こうした成功体験を積み重ねて、コツコツやるものなんだなと実感します。

BOTCHANの導入効果の一例
▲BOTCHANの導入効果の一例

人が離れるのは寂しい。それでも実現したいことがあった

いいたか
wevnalの特に印象的だった「これは本当にしんどかったこと(ハードシング)」についても聞かせてください。人の問題やお金の問題、いろいろあるとは思いますが。

磯山
それで言ったら、やっぱり人の問題が大きいですね。

先ほど、離職率が40%近くになったと話したじゃないですか。創業3〜4年は、むしろ離職者ゼロだったんですよ。それが自慢だったので、一気に人が辞めていくのを見て、否定されている気がしてショックでしたね。wevnalに所属したことで、ネガティブな思いをしてしまう人がいる。僕は何のために、ビジネスをやっているんだと思いました。このタイミングで入院も経験して、すごく辛かったです。

ですが、それを救ってくれたのもまた「人」でした。こうして偉そうに語っていますが、BOTCHANを含めて、メンバーひとりひとりの小さな成功の積み重ねのおかげで、今があるんですよ。メンバーには感謝しかないし、彼らがwevnalの歴史なんだとつくづく思います。彼らが満足して、ワクワクしながら働ける環境を作っていきたいです。ハードシングの話のつもりが、すごくいい話っぽくなっちゃいましたね。

いいたか
すごくいい話だったので、この部分はカットしますね。

磯山
なんでよ!使ってよ!

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いいたか
(笑)。それはそうと…。離職率40%はなかなかすごい数字ですよね。

磯山
スピードと引き換えに、メンバーの満足度を犠牲にしていたのが一因だと思います。特にIT業界は、人件費が重くのしかかるじゃないですか。メンバーにハードワークしてもらえば、全体の支払いは少なく済みます。けれど、そんな劇薬は長く続かないわけです。

あと、採用時の入口がよくなかったというのもあります。当時は「今人気のSNS代理店」「新進気鋭の若手起業家」と、キラキラしたイメージが先行していました。中では泥臭く仕事していたので、そのギャップも大きかったんだろうと思います。当時は、マネジメントや教育ができるミドルラインもいなかったので、「話が違う」となりやすかったです。

そのため、途中から採用活動ではあえて「うちは大変だよ」と、何度もしつこいくらい伝えるようにしました(笑)。僕たちは、キラキラした労働環境は提供できない。少人数ですごく大変だけれど、ここで3年、5年と仕事をすれば、独立・転職を考えた時に絶対面白いビジネスができるようになるよと。そうやって入ったメンバーが、今2年目・3年目で会社の中核を担ってくれています。

いいたか
BOTCHANへの事業転換では、かつてのメンバーの離脱のようなハレーションはなかったんですか?

磯山
ありました。とはいえ、以前のような組織崩壊とは違うなと、個人的には考えています。

この話のテーマは「僕たちは誰の何を解決する会社なんだっけ?」だと思うんです。少し乱暴な表現に聞こえてしまうかもしれませんが、BOTCHANも広告もあくまで手段に過ぎません。

広告事業のメンバーは、うちの組織でもっともプロフェッショナルな集団だと思います。長年の実績を持っているし、すごく頼もしい存在です。「お客様が求めるものに答えよう」という姿勢を貫く姿には、ずっと感謝しています。

それでも、会社の方向性としてやりたいことは「LTVの向上」でした。資金調達のタイミングで、広告事業からSaaSへ舵を切ろうと社内でも伝えました。元々、メンバーがジョインするタイミングでは、「うちはどんどん変化する会社だよ」とは伝えていましたしね。

そこで、「広告」という手段に働きがいを求めていた人は、離れてしまいました。ただ僕は、会社の方針と自分のキャリアが合わずに辞めるというのは、すごく健全なことだと思うんです。

今BOTCHANに取り組むメンバーも、もしかしたらどこかで、自分に合わないタイミングが来るかもしれない。組織や事業は変化するものだから。本音を言うと、メンバーが離れてしまうのは寂しいんですよ。それでも、僕たちが実現したいところは曲げずにいきたいし、みんなでそこに向かいたい一方で、強制すべきではないと考えています。

僕や経営陣ができることは、メンバー全員がワクワクできる世界観を作ること。皆が熱狂できる大きな夢を描けているか、常に考えていきたいですね。

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LTVという概念をマーケットへ

いいたか
wevnalは、2021年9月にシリーズAで資金調達を実施したじゃないですか。BOTCHANを含め、事業が軌道に乗っている中、あえて外部から資本を入れようと思ったのはなぜですか?

磯山
確かに、当時毎月ある程度の収益があったので、自分たちでハンドリングすることもできました。ですが、それ以上にBOTCHANの成長に可能性を感じたんです。

これまで、コンサルティングが入ったことで売上が伸びたという事例は何度も見てきました。しかし、それらは再現性が決して高くありません。一方で、マーケティングのSaaSやツールを入れた「だけ」で、明確に売上が伸びたという事例は、聞いたことがありませんでした。それくらい、BOTCHANは異常だと感じました。

この勝負を逃してはいけない。成長を最優先にマーケットを取りに行こうと思い、資金調達を選択しました。正直な話、すごく悩んだんですよね。ある程度収益も出ていて、自分たちだけでハンドリングしたいという思いもありました。しかし、コロナ禍に入りオンラインシフトが進み、売上が伸びた事例が増えていきました。もっとアクセルを踏んでブラッシュアップしたら、世の中のマーケティングの価値を変えられるかもしれない。

そこに、自分のビジネス人生を賭けられるレベルの可能性を感じたんですよね。例えダメだったとしても、このチームならなんとかなるかなって(笑)。

いいたか
実際に資金調達を選択して、どうでしたか?

磯山
すごく順調で、高い成長率を維持できています。お客様の売上にもコミットできているし、メンバーもこの半年で30人以上増えました。キラリと光るメンバーのおかげで、BOTCHANをよりドライブできる体制になりつつあるので、とても心強いです。

いいたか
まだまだ成長を続けるwevnalですが、今後の目標や実現していきたいことを教えてください。

磯山
僕たちは、BOTCHANを通じてチャットフォームという概念をマーケットにした自負があります。今度は、ブランド体験の価値向上によるLTVの最大化という概念をマーケットに示していきたいんです。

我々は、チャットというリアルタイムのコミュニケーションサービスを提供しています。チャットは、LTVや利益を重視したマーケティングにおける、トップランナーとして評価されるべきだと思っています。その上で、リアルタイムの双方向的なコミュニケーションによって、ロイヤリティが向上しLTVが改善されることを、BOTCHANで証明したいです。

僕はよく、近江商人の精神である「三方良し」という言葉を使います。

ユーザーが、「電話がつながらない」「解約できない」「購入できない」という煩わしさから解放され、ワクワクするような購買体験ができる。企業やブランドが、広告費に多額の予算を投じることなく、LTVを重視したマーケティングができ、ユーザーへよりよいサービスを届けられるお手伝いをすること。自分たちは、本当に価値あるものをユーザーへ届け、マーケティングを支援しつつ利益を得られること。

マージンビジネスで、大手SNSやメディアにお伺いを立てざるを得ないマーケティング業界を、BOTCHANで変えることができたら最高じゃないですか。僕はそういう世界を実現したいし、絶対にできると信じています。

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