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リユース梱包材「シェアバッグ®」で実現する“美しい物流”への道 comvey梶田伸吾

公開日:2024.04.16

アイキャッチ画像。弊社月岡とComvey梶田様アイキャッチ画像。弊社月岡とComvey梶田様

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは当社執行役員の月岡克博が務めます。

今回のゲストは、株式会社comvey(コンベイ) CEOの梶田伸吾さんです。みなさんはECで買い物をして送られてきた商品の梱包方法について気になったことはないでしょうか?過剰な梱包やその梱包資材を捨てる手間を感じたことがある人は多いのでは。

「美しい物流をつくる」をミッションに設立されたcomvey社は、リユース可能な梱包材「シェアバッグ」を開発。EC購入者は商品を受け取ったらシェアバッグを郵便ポストで返却するだけで、梱包資材まわりの無駄を削減できて、地球にも優しい。EC事業者にとっても、梱包作業の効率化や配送コスト削減、梱包材の製造・使用に伴って排出される温室効果ガスを大幅削減できてサスティナブルであるなど、多くのメリットがあります。梶田さんがシェアバッグで起業に至った背景やこれから先に実現したいことを幼少期から紐解きました。

(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:月岡克博)

タイから日本へ。社会課題解決への想いの源泉

月岡:
いきなりなんですが、梶田さんはどちらのご出身なのですか?

梶田:
私はタイのバンコクで生まれました。父が仕事でタイに駐在していたときに生まれて、5年ほど住んだ後、日本に帰国しました。

幼少期の記憶はないですが、タイのにおいや屋台の雰囲気はなんとなく記憶があります。それと「微笑みの国」と呼ばれるタイで過ごした影響か、人の温かみに触れるとどこか懐かしさを覚えます。

父は商社に勤めていてタイの他にベトナム、フィリピンでも仕事をしていました。現地のスタッフさんと一緒に仕事をしている父の様子を見て、自然と「商社って楽しそうだな」と思うようになりました。

梶田様

月岡:
ファーストキャリアである伊藤忠商事に入社する原体験が、幼少期からあったのですね。梶田さんはどのような少年でしたか?

梶田:
典型的なサッカー少年でした。それと車が大好きで、トミカを300台以上持っていました(笑)。レーシングカーも好きで、よくサーキットに連れて行ってもらっていました。車好きもあって、大学ではマーケティング関連のゼミに所属していたのですが、そこでは「車の顔」の研究をしていました。

月岡:
車の顔の研究?どういう研究ですか??

梶田:
ヘッドライトが目で、グリルが口で……という風に、なんとなく車のフロント部分が顔に見えませんか?これは「anthropomorphism」といって、人は人工物の中に人体的な存在を感じる習性があるんです。

私は「自分のパーソナリティと好きな車の“顔”には類似性がある」というテーマで研究していました。例えば丸みのある顔の車が好きな人は、かわいらしさへの関心が強いのかもしれない。直線的なデザインが好きな人は、知性を好む傾向があるのかも。つり目に見えるスポーツカーは、強さ・かっこよさを求める人に選ばれやすい気がする。

パーソナリティと車の顔の類似性をもとに、自動車メーカーに「こういう顧客にはこんなデザインがいいのではないか」と提案するわけです。

月岡:
興味深い研究ですね。研究で学んだことは、今のお仕事にも活かされているところはありますか?

梶田:
直接的に活かされているわけではありませんが、実証研究における「仮説を組み立て、検証する」という作業は、事業開発にすごく似ています。科学的なアプローチで仮説を検証していくという姿勢は、このときに身についたと思います。

梶田様

月岡:
なるほど。梶田さんは学生時代、国際協力にも関わっていたともお聞きしています。

梶田:
はい。私は大学受験の直前に、肺気胸という病気にかかってしまって。無事受験は乗り越えたのですが、入学するまではずっと入院生活を過ごしていました。

病気をきっかけに、大学でもサッカーを続けるのは難しくなってしまって……。別のことに挑戦しようと思ったとき、頭に浮かんだのが幼少期のタイで出会ったストリートチルドレンでした。

自分と年齢の変わらない子どもたちが、道端で物乞いをしていたときの様子を思い出し、在学中は途上国の人々に何ができるかを考えようと思ったんです。そして、大学1〜2年の間は国際協力に取り組む学生団体に参加しました。このときの経験が、社会課題を解決したいという現在の想いにもつながっています。

目の当たりにした物流の「コミュニケーション不足」

月岡:
社会課題解決への想いと「商社って楽しそう」という幼少期の原体験が重なって、伊藤忠商事への入社につながったのですね。入社後はどのような仕事をしていたのですか?

梶田:
2016年に伊藤忠商事へ入社後、私は主に大手自動車メーカーの工場に納品する部品輸送を担当していました。私はここではじめて、「物流」という分野を知ることになったんです。

月岡:
商社でのお仕事で大変だったできごとはありますか?

梶田:
そうですね、部品の到着が遅れると大きな損害になるんですよ。部品の輸送経路は複雑で、日本からシンガポールを経由して貨物船でドイツに輸送して、そこから鉄道で現地に届けるということがありました。

海上輸送では、貨物の積み替えがうまくいかず、乗るはずだったコンテナが乗り切らないなんてときもあります。それが起こってしまって、部品が工場に到着するのが2〜3週間遅れるということが分かりました。1日数千台の自動車を生産する工場にとって、部品が届かないと生産ラインを止めるなど相当な損害です。

そこで私は、シンガポールに飛んでなるべく早く貨物を載せてもらうよう、現地の海運会社と直接交渉しにいきました。なんとか交渉がうまくいき、遅れを1週間まで減らすことができたんですが、これで終わりでなく。

そのあと現地の工場まで飛んでいって、事態の詳細説明と謝罪にいきました。「ほんとは遅延3週間だったのが、(自分の交渉で)1週間になったのだ」と。商社として介在している意味をちゃんと説明しないと、自分たちの価値を見出してもらえないですからね。

月岡:
商社と聞くとキラキラしたスマートなイメージがありますが、ものすごく地道な仕事ですね。まさに”営業”というか。

弊社 月岡

梶田:
ものすごく泥くさいし人間くさいですよね(笑)。ですが、大きな目標を達成するときには、自分ひとりの力ではどうにもならず、人に頼らないといけないときが仕事では必ず起こります。そこで助けてもらうには、普段から本気で仕事に取り組むこと、誠実に人々と交流して関係値を築くことの両方が必要です。

私はこの仕事で、商売でもっとも大切なのは、誰かに本気でお願いすることと謝ることなのだと学びました。

月岡:
大きな仕事を成し遂げるための、粘り腰のようなものが身についたのですね。物流分野の現場を目にしたことをきっかけに、comvey社のビジネスモデルを構想していったのでしょうか?

梶田:
はい。伊藤忠商事を退職する最後の2年間、私はグループ子会社の伊藤忠ロジスティクス株式会社に出向していました。ここで、物流業界の現場をより身近に学ぶことができました。

そこで目にしたのは、物流業界をとりまく「コミュニケーション不足」でした。例えば、BtoBの領域では、倉庫から倉庫への輸送ではリターナブルボックスや通い箱などを用いて、梱包材をリユースするのが当たり前です。しかし、BtoCの領域になると、段ボールに入った商品が届きます。段ボールは確かに安価ですしリサイクルもされていますが、その回収やリサイクルの過程で地球環境に大きな負荷をかけているのが現状です。

海外の物流トレンドを調べると、欧州ではECで商品を購入するお客様の約30%がリユーザブルバッグ(繰り返し使用できる梱包用バッグ)を選択しています。商品を一度運ぶためだけに新しい段ボールが使われて、家から回収されてリサイクルされるか廃棄される。この状況はとても不経済だと思いました。

そもそもこういった問題が生じているのは、物流を構成する売り手・買い手・運び手の3者間のコミュニケーション不足が原因なのではないかと考えました。例えば、売り手は、買い手からのクレームリスクを抑えるために過剰梱包をしますが、買い手の中にはこれをストレスに感じる人もいる、といったようなことです。このコミュニケーション不足を解決できないか。その想いから、売り手・買い手・運び手の想いが通じ合う「美しい物流」をビジョンとする、comveyを立ち上げたのです。

リユース梱包材「シェアバッグ」の誕生

月岡:
comvey社を立ち上げて、最初に取り組み始めたのがリユース梱包材「シェアバッグ」の完成ということですね。

梶田:
はい。まずはWebサービスを活用して、中国の工場でリユース梱包材「シェアバッグ」のプロトタイプを作りました。それを持って、郵便局の窓口に向かったんです。

そこでcomveyのサービス内容を伝えたんですが、最初の頃は思うように話が進みませんでした。しかし何度もトライするうちに、日本橋郵便局さんを紹介してもらったんです。

日本橋郵便局さんは全国の郵便局のハブであり、日本郵便本社と密に連携しています。日本橋郵便局の担当者さんがとても協力的で、何十回もの打合せとシェアバッグの試作を繰り返して、今の形にまとまりました。

comvey社の梱包材「シェアバッグ®︎」

月岡:
ベンチャー企業でありながら郵便局との連携にこぎつけた、梶田さんの行動力と熱意が素晴らしいです。しかも、シェアバッグは萩原工業さん(※)と協力して製作しているのですよね。

萩原工業株式会社
ポリエチレン・ポリプロピレンを主原料とした合成樹脂繊維「フラットヤーン」のトップメーカー。同繊維を使用したブルーシートで業界シェアNo.1を誇り、紡糸から製織・加工・検査まで一貫して生産できる体制を持つ。

梶田:
その通りです。comveyは製造工程で生まれるCO2や、シェアバッグで用いられる原料にも責任を持ちたいと考えています。萩原工業さんの素晴らしさは、製品の質の高さだけでなく、独自のリサイクル技術を持っている点にもあります。

寿命を迎えたシェアバッグを萩原工業さんにお戻しすると、それをペレット化(粒状化)して新しいバッグの生地の原料として使用してくださるんです。そろそろ寿命を迎えるシェアバッグもでてくるので、このリサイクルについても一緒に研究しているところです。

月岡:
高い技術力を持つ国内企業の力を借りることで、サスティナブルで高品質のシェアバッグが生まれたのですね。

シェアバッグを当たり前に使う文化の醸成に向けて

月岡:
comveyのシェアバッグを世に広めるには、梱包材としてシェアバッグを選択してくれるEC事業者とユーザーの両方を増やす必要があると思います。この点について、梶田さんはどのような戦略を考えていますか?

弊社 月岡

梶田:
基本的なスタンスとして、シェアバッグを使う「文化」をつくっていきたいと考えています。シェアバッグを使う動機が「サスティナブルだから」になってしまうと、排他的なサービスになってしまうことが懸念かなと。

「このバッグかっこいいな」「クーポンが使えてお得だな」など、どんな理由でも構いません。そうやってシェアバッグを使い始めたら、結果的にサスティナブルな社会に貢献しているというくらい、オープンなサービスでありたいです。

シェアバッグの文化を醸成するためには、comveyのビジョンに共感していただけるEC事業者を探すことが重要だと考えています。

私たちのビジョンに共感してくださる事業者の先には、そのブランドに共感するお客様がいるはずです。そうしたお客様にシェアバッグを利用していただくことで、comveyのサービスが広がりやすくなると考えています。

月岡:
サービスに共感してくれる人々を、味方につけて拡大していくという戦略なのですね。

梶田:
ちなみに現在は、アパレル業界を中心にアプローチしています。商品を運びやすいのと、業界自体で産業廃棄物が問題視されているという点で、私たちのサービスに対するニーズが高いと考えたからです。

今後はコスメや雑貨、アクセサリーを取り扱う事業者にも展開していく予定です。そうした商品の配送に耐えられるよう、クッション性の高いシェアバッグの開発も進めています。

これからのEC社会にフィットした物流の実現を目指す

月岡:
comvey社は今後、どのような世界を実現していきたいですか?

梶田:
comveyは、EC社会にフィットした新しい物流の仕組みの実現を目指しています。

宅配便というビジネスモデルには、梱包ごみ以外にも数多くの問題が存在します。約50年前に生まれた宅配便は、当初「大きいものを自宅まで運んでくれる」というサービスでした。それが今や、ECの普及によって歯ブラシ1本、乾電池1個までもが自宅に届きます。

その結果、国内の宅配便の数は年間50億個を超えるまでに成長しました。10年後には、100億個に達するといわれています。梱包の無駄ももちろん、すでに問題になっている物流業界の人材不足もあって、このままのシステムを維持するのは難しい。私たちは、この問題の解決策は「お客様が第三の場所に荷物を取りに行くこと」であると考えているんです。

例えば、駅前のコーヒー屋さんに荷物が届き、ユーザーはそこで梱包材なしで商品を受け取ることができる。商品の確認や試着もでき、返品も可能。こうした拠点を「受取カウンター」として設置する。

ユーザーが受取カウンターに荷物を取りにきてくれれば、配送業者が一軒ずつ商品を配送する必要がありません。梱包問題も物流人材不足も解決する。ユーザーへは、受け取りにきてくれたら「コーヒー1杯無料」などのメリットを提示すれば、買い物や通勤のついでに受取カウンターにきてくれるのではないかと。

梶田様

月岡:
それが実現すれば、大量の荷物という問題が解決できますね。

梶田:
もうひとつ、宅配便には大量の「返品」という問題も抱えています。ECが普及した分、返品数も増えています。お客様とのコミュニケーションコストや、返送費用など多くの負担がEC事業者にはのしかかります。

この問題を解決するソリューションが、最近アメリカで注目されています。例えば、EC事業者の代わりに返品作業を代行するリバースロジスティクスや、回収した商品を再販売できるリコマースのプラットフォームなどが挙げられます。こうした事業もcomveyで実現していきたいですね。

梱包材と配達員不足、そして返品対応。この三つの問題に対して、comveyはそれぞれシェアバッグと受取カウンター、返品代行・再販売などの仕組みで解決したいです。

月岡:
物流やECにまつわる課題を、総合的に解決できるようにするというのが、comvey社の目指す姿ということなのですね。これらがうまくいけば、グローバルへの展開も視野に入る気がします。

梶田:
そうですね。私が日本でこの事業をはじめた理由は、日本が全国に張り巡らされた回収・配達網を展開している数少ない国のひとつだからです。コンビニの数よりも多いとされる郵便ポストがあり、2〜3日で郵便物が回収・配達される。このような仕組みを持つ国は、他にはなかなかありません。

日本ほどではないにしろ、郵便の仕組みが構築されている国があれば、ぜひcomveyのサービスを展開していきたいです。

月岡:
日本発のサスティナブルブランドとして、ぜひ世界に羽ばたく企業になっていただきたいです。応援しています!

梶田様と月岡。テーブルを挟んで座り、会話をしている

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