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中小企業のデジタル化を支援、その先に描く1兆円企業の夢。ユーティル岩田真

公開日:2023.12.19

中小企業のデジタル化を支援、その先に描く1兆円企業の夢。ユーティル岩田真

様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは当社執行役員の月岡克博が務めます。

今回のゲストは、株式会社ユーティルの代表取締役・岩田真さんです。
ベンチャーキャピタル(VC)で経験を積み、2015年にユーティルを立ち上げた岩田さん。現在はホームページ制作会社とお客様をマッチングする「Web幹事」をはじめ、DX特化の支援サービス「動画幹事」「システム幹事」「営業幹事」「補助金幹事」などを運営しています。

岩田さんは自分の市場価値を高めるため、スピード重視でキャリアを重ねてきました。そんな彼がなぜ中小企業支援の道を選んだのか。これまでの歩みを聞きつつ、その先に思い描いている壮大な夢についても語っていただきました。

(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:月岡克博)

「人と同じことをやりたくない」という想いが選択したVCの道

月岡:
まずは人となりを伺いたいと思います。岩田さんにとって、ビジネスや経営というのは身近だったのでしょうか?

岩田:
いや、意外と普通のサラリーマン家庭で育ちました。ただ、母方の実家が金魚屋さんを営んでいて、小さい頃はよく手伝いをしていたので、起業への心理的ハードルは低かったかもしれません。

高校時代には、インターネット・バブルにわく日本で躍進するライブドアの堀江貴文さんに目を奪われていました。その姿を見て、「自分も彼らのように大きなことをしたい」という想いが強くなっていったのを覚えています。

ただ、大学に進学後はそういう気持ちがパタリとなくなってしまいました。その代わり、世の中の流れを知りたいと思うようになり、就職活動では金融業界を狙い始めました。そして、たまたま内定をもらったのが日本最大のベンチャーキャピタル(VC)、ジャフコグループ株式会社だったんです。それが2012年のことです。

株式会社ユーティル 岩田様

月岡:
金融というと王道は銀行や証券会社のような気がしますが、あえてVCを選んだのはなぜですか?

岩田:
今後のキャリアを見据えた時、希少性があると感じたからです。証券会社や銀行は、毎年数百人の人材を採用するじゃないですか。しかし、当時ジャフコが採用したのは僕を含めてたったの4人でした。

2012年卒の代で、ジャフコを経験できるのはたった4人しかいない。この希少性が面白そうだと思い、入社を決めたんです。今思うと、僕は小さい頃から「目立つことは嫌いだけれど、人と同じことをするのがイヤ」という性格でした。この考え方が、職業選択や起業でもかなり影響している気がします。

月岡:
私は小さいときは周りとの違いに不安を覚えてしまう性格だったので、まるで真逆です(笑)。ジャフコでの仕事で、印象に残っていることはありますか?

岩田:
最初に投資を任せてもらった会社のことは、今でもよく覚えています。僕がこの会社を担当したのは、新卒2年目のGW明けでした。何をすればいいか分からなかった僕は、とにかく「社長がやらなくていい雑務」を支援しようと思ったんです

テレアポのお手伝いをしたり、株主総会の議事録を書いたり、株主向けの資料、つまり自分たち向けの資料を作成したり(笑)支援先の社長のことはすごく尊敬していますし、今でも定期的にお会いしています。

それと、ジャフコ時代は投資経験や人脈がある先輩たちとの差別化のために、投資先の会社探しをひと工夫していました。2010年代というのはソーシャルゲームの全盛期で、多くの企業が生まれていたんですね。先輩たちは、僕が入社した時点ですでにこうした業界と関係性を築いていたんです。

同じ業界で戦おうとしても、新人の僕は絶対に勝てない。そこで僕は「レガシー産業のITリプレース」と自分で名付けた領域に投資先を見出していきました。レガシー産業でITでの構造改革を目指す起業家を探すようにしたんです。

月岡:
ソーシャルゲーム業界がわき立つ中、あえて真逆ともいえる路線を選んだのですね。

岩田:
実際に、クリーニングや葬儀、医療、不動産といった業界の会社に重点的にお会いしていました。こうした路線選びでも「人と同じことをやりたくない」という性格がだいぶ影響していると思います。

株式会社ユーティル 岩田様

とにかく早く経営者になろうという一心で起業

月岡:
ジャフコで3年間働いた後、岩田さんは2015年にユーティル社を設立するのですよね。なぜこのタイミングで、起業しようと思ったのでしょうか?

岩田:
実は、この時の起業は完全に無策でした。「とりあえず起業しよう」という一心で、会社を立ち上げました。

月岡:
なぜ、そこまでして「とりあえず起業しよう」と思ったのですか?

岩田:
いろいろと考えはありましたが、一番大きな動機は「自分という人材の希少性をどう高めるか」でした。この時25歳だった僕は、自分のマーケットバリューを高めるにはどうすればいいか考えていました。そして、キャリアとして代替性の低い道を選ぼうと思ったのです。

代替性の低いキャリアの究極と言えば、やはり経営者です。ジャフコの仕事を通じて、僕は多くの経営者と接してきました。素晴らしい経営者もいれば、そうではない経営者もいることを僕は知りました。

その過程で「僕は偉大な経営者になれるかは分からないけれど、“死なない経営者”にはなれるんじゃないか」と思ったんです。あれこれ悩むより、なるべく早いタイミングでハードシングスや失敗を経験した方が、自分の市場価値は上がるはずだとも考えました。

今となっては、もう少し事業の方向性を考えてスタートすべきだったとは思います(笑)。ですが「なるべく早く経営者になろう」と行動したのは、我ながらよい決断だったと思っています。

月岡:
反省はすれど後悔はしてない、そんな感じでしょうか。起業後は、どのような仕事をこなしていたのですか?

岩田:
「この先の時代、ITで生きていけるようにしたい」と思い、Webサイト制作や記事制作などの受託業務を受け始めていきました。ジャフコ時代に知り合った経営者の方々を訪れては、「起業するので仕事をください」とお願いして回っていました。

高級割烹ではなくマクドナルドを目指したい

月岡:
そして、2018年にWeb制作会社とお客様をマッチングする「Web幹事」というサービスを立ち上げると。なぜ岩田さんは「Web幹事」に功名を見いだしたのでしょうか?

岩田:
大きなきっかけになったのは、受託制作をしている中でWebサイトに一定の「再現性」を見出したことです。Webサイトというのは、グローバルメニューの位置がここで、メインビジュアルがあって・・・と、ある種のセオリーが存在します。言葉を選ばずに言うのなら、Webサイト制作のセオリーを知ってさえいれば、誰もがWebサイトを作ることができるわけです。

それならば、僕たちはWebサイトを必要とする人々に、この再現性を届けようと考えました。適切なセオリーを知っている会社をお客様に紹介できれば、問題は解決できる。自分たちが制作する必要はない。そう考えました。

月岡:
自分たちでいいWebサイト制作をするのではなく、適切なサイト制作のセオリーを知る会社とお客様をつなげる役目を担おうと思ったのですね。

Faber Company 月岡

岩田:
僕はよく面接などで、「僕が作りたいのは高級割烹ではなく、マクドナルドなんです」という話をします

高級割烹は、人々の人生を変える一皿をお客様に提供しています。そこには深い感動がありますが、一度にその料理を味わえるお客様はカウンター10席程度です。一方、マクドナルドは高級割烹ほどの深い感動は味わえませんが、世界の食のインフラ的存在です。世界により大きな影響を与えているのは、間違いなくマクドナルドだと思います。

これはあくまで、好みの問題です。ユーティルは、マクドナルドのような世の中にインパクトを与える仕事がしたい。その結果選んだのが「Web幹事」だったんです。

実はこの決断を下した時、創業メンバーが離れることになってしまいました。「家族やプライベートを大切にしたい」「既存事業をもっと成長させたい」と、各メンバーの方向性がバラバラになってしまったんです。

月岡:
方向性の違いが創業メンバーの離職につながったのですね。

岩田:
ユーティルは創業当初、1件3万円のホームページ制作からスタートしました。それがこの時には、年間1000万円級の発注をしてくださるクライアントができるまでに成長していたのです。それだけの実績を捨て、再度ゼロからスタートするということに抵抗感が生まれるのは仕方なかったと思います。

ただ「世の中に残る事業を作りたい」という自分の想いを捨てられませんでした。結果として、別々の道を歩もうという結論に至ったんです。ハードシングスといえばハードシングスですが、喧嘩別れをしたわけではありませんよ。

月岡:
そもそも、既存事業をバッサリと捨ててピボットしなくてもよかったのではないですか?受託を続けながらWeb幹事を立ち上げ、ソフトランディングする道もあったと思います。

岩田:
「Web幹事」の立ち上げ以前に、全く異なるビジネスアイディアを試した時がありました。この時は、受託制作と同時並行で事業を立ち上げたんです。しかし受託業務が忙しくなるにつれ、もう一方の事業の優先度は下がり、事業としてまったく育ちませんでした。

両者の事業を同時並行で成長できる経営者もいると思います。僕の場合は、二者択一で事業を選択しないといけない人間だということを思い知りました。

株式会社ユーティル 岩田様

月岡:
だからこそ、実績のあった受託制作を捨てて自社のサービスに踏み切ったのですね。

お客様と真摯に向き合うことこそが「Web幹事」の強み

月岡:
2018年に「Web幹事」を立ち上げて約5年経過しますが、岩田さんから見て「Web幹事」にはどのような強みがあると思いますか?

岩田:
最大の強みは、「お客様の話をちゃんと聞くこと」だと思います。Web幹事ではWeb制作をしたいお客様の要件を電話やオンラインミーティングでヒアリングしています。Webサイト制作やSEO対策などの現場では、こういう会話が多いのではないでしょうか?

お客様 :〇〇してほしいです。
制作会社:その要件なら、予算としては月額50万円必要です。
お客様 :予算は10万円しかありません。
制作会社:(そんな予算でできるわけない・・・)

お客様側の希望を聞き、それを実現するための予算相場の認識を持ってもらい、それを得意とする制作会社を探してもらえる。制作会社側からすると、予算に見合わない要件の交渉や説得に時間を使わなくていいし、自分たちの得意な案件が紹介される。これが双方にとって大切なことであり、僕たちが間にはいることの意味でもあります。

月岡:
お客様もよし、制作会社もよし、ユーティル社もよしという三方良しを実現できるわけですね。

岩田:
「Web幹事」を立ち上げてから現在に至るまで、さまざまな競合サービスが立ち上げられてきました。ですが、僕たちほど真面目に、お客様と制作会社の意見のすり合わせを徹底しているサービスはないと思っています

ユーティルでは、ホームページ制作に関するご相談が毎月500ほど寄せられています。実際にマッチングが成立するのはこのうちの半数ですが、僕たちはお問合せ全件に対してヒアリングを実施し、制作会社をおつなぎしてきました。同じことができる企業は、そう多くないという自負があります。

株式会社ユーティル 岩田様、Faber Company 月岡

月岡:
制作会社側へのアプローチとして、意識していることはありますか?

岩田:
「Web幹事」では約300社の制作会社と連携しています。登録時の審査では「ちゃんとホームページ制作の実績があるのか」と「担当者の人柄」の2点にかなり注意を払っています。どちらのポイントが欠けても、お客様とのトラブルにつながってしまいますから。

ちなみに、僕たちは成約後からホームページが納品されて以降の運用フェーズも、フォローできる体制も整えています。運用フェーズにおいては、制作を担当した会社とは別の会社を紹介することも珍しくありません。

「Web幹事」はツー・サイド・プラットフォーム※で、デジタルを活用できていないお客様(買い手)に、最適なソリューションを持つベンダー(売り手)を紹介するサービスです。

※ツー・サイド・プラットフォーム
売り手と買い手など、属性の異なる2つのグループを結びつけて仲介者として提供するサービスや仕組み。ショッピングモールなどが該当する。

僕たちは、なるべく依頼先の制作会社が特定の会社に偏らないように紹介していますが、「そろそろこの会社さんに案件紹介しないとな」というような配慮はしていません。むしろ、いい評判の制作会社は積極的に紹介していきたい。それが世の中のためになるという思想でサービスを展開しています

目指すは上場、そして1兆円企業

月岡:
とある記事で、岩田さんはユーティル社の上場を目指しているというのを知りました。ユーティル社にとって、上場を目指す理由とは何ですか?

岩田:
僕にとって、上場は資金調達手段の1つという認識です。今後、約400万社あるとされる日本の中小企業に本気でアプローチしようとすると、CPAが1,000円/社だとしても40億円かかります。1万円/社なら400億円必要です。

そうなると、ユーティルは今後1,000億円規模のファイナンス能力を持つ会社にならなければいけません。それを成し遂げるには、今の資本主義の仕組み上「上場する」というのが唯一の手段だと思います。

月岡:
やりたいことをなすための、必要な手段が上場なのですね。

岩田:
はい。今の会社規模からすると荒唐無稽に思えるかもしれませんが、本気で目指しています。もっと言うのなら、究極のゴールは「1兆円企業」になることなんです。この目標は完全に自分のエゴです。でも、壮大な夢を実現させるために、知恵を振り絞るのはすごく楽しいことだと思います。

1兆円規模の会社を作り出すとなると、何らかの社会課題に取り組む必要があります。では、自分にとって本気で取り組みたいと思える社会課題とは何か。それこそが「Web幹事」に代表される中小企業のデジタル化の支援だと思っています

上場も1兆円企業も、まだ明確な青写真を描けているわけではありません。少しでもその解像度を高めるために、日々何をすべきか考えています。

月岡:
岩田さんのエゴということなんですが、会社のメンバーには会社の目指すものをどのように伝えているのですか?1人では実現が難しいことかなと。

岩田:
そうですね。ぜひこの夢の実現に付き合ってほしいです。1兆円企業を達成することで、世の中が少しでもよくなるという未来を、上手に示していくことが社長の仕事だと思っています。

加えて、投資家の皆さんから、この夢にベットしていただけるようなCEOにならなければいけないとも考えています。この事業を担うCEOとして、僕以上の適任者は存在しない。そう思っていただけるよう、日々精進するのみです。

株式会社ユーティル 岩田様、Faber Company 月岡

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