【日宣様事例】紙メディアの編集×SEO=最強説!?【前編】8か月で検索流入約3倍になったWebマガジン『Pacoma』がやったこと
更新日:2022.4.14 公開日:2018.02.20前編では、SEOで成果を出すための「武器と戦術の立て方」について迫ります。
ホームセンターで配布しているフリーペーパーを前身として、2016年3月にライフスタイルWebマガジン『Pacoma(パコマ)』が誕生しました。折しもライフスタイル系メディア群雄割拠の時代。編集長の西面冬樹氏は当初から「SEOで戦うには、絶対に紙メディアの編集者が必要だ」と確信していたそうです。その着眼点から採用されたのが、出版社で7年間、女性向けのインテリア・生活情報の雑誌を編集してきた武蔵英介氏でした。武蔵氏着任から8か月後、Webマガジン『Pacoma』は検索流入295%、月間PV数317%と大きな成長を遂げます。お2人に成長の秘訣を聞くと、Webでも活かせる紙メディアのノウハウを教えてくれました。
フリーペーパーから生まれたWebマガジン『Pacoma』
―まずはWebマガジン『Pacoma』の成り立ちを教えてください。
西面冬樹編集長(以下、西面):もう20年以上続いているフリーペーパーが前身です。M&Aでわれわれ日宣が出版することになり、紙とは別にWebメディアも立ち上げることになりました。DIYや掃除、ガーデニング、収納など、生活に近い話題を幅広く扱っているメディアなので、Webとの親和性も高いと考えたのです。
歩みはゆっくりでも、地に足の着いた編集で価値を提供したい
―どんなWebメディアを目指したのですか?
西面:最初考えたのは、やはり紙メディアとの相乗効果です。いずれは紙と同程度の広告価値を創出できるようになりたい。そのためにはまず読者を増やす必要があります。芸能人やインフルエンサーを起用したコンテンツのほかに、検索ユーザーに向けた課題解決型のSEOコンテンツも必須だと考えました。
西面:絶対にこだわりたかったのが「コンテンツの質」です。企画当時、競合となるライフスタイル系の人気メディアは、キュレーションサイトも含めて大量に記事を投入する手法が一般的でした。中には誤った情報や、出所が不確かな情報も多い印象だったのです。広告のみならず、印刷や編集にも60年以上の社史の中で“深く”取り組んできた日宣がその中に飛び込むなら、たとえ歩みはゆっくりでも、地に足の着いた編集でしっかりと価値を提供できるメディアに成長させたい。だからこそ「紙メディアの編集者が必要だ」と感じていました。
「SEO知識はゼロでも構わない。紙メディアの編集者がほしい」
―SEO経験者ではなく「紙メディアの編集者」。それはなぜですか?
西面:私自身、集英社で編集に携わった経験から感覚知があったのです。求める質を叶えるなら「女性読者のニーズを深く理解しつつ、一歩引いた客観的な目線で生活情報の記事を作ってきた男性の雑誌編集者がいい。興味さえあれば、SEOの知識はゼロでも構わない」と。紙メディアで鍛えられた編集者は、「言葉と言葉の間に文脈を見い出す」感覚に優れているので、最短の時間で優れた分析ができるはず。その視点は、SEOでも最強の武器になると考えました。そこで、マスコミ向け転職エージェントに募集を出したのです。
―そこに中途採用で応募されたのが武蔵さんだったのですね。
武蔵英介氏(以下、武蔵):はい。「なんて自分にぴったりの募集なんだ」と面接に行ったら、西面も「まさかこんなにぴったりの編集者が来るとは」と驚いていて(笑)。僕は出版社の主婦と生活社で7年間、インテリアやライフスタイルの雑誌を編集した後にWeb業界に入り、1年半ほど他社で女性向けWebメディアを担当していました。当時からWebマガジン『Pacoma』はコンテンツの質が高く、写真ビジュアルにもこだわっていたので「作り甲斐がありそうだ」と感じましたね。さらに西面から「MIERUCA(ミエルカ)というツールを使ってSEOに取り組んでほしい」と聞いて、ますます魅力を感じました。
―武蔵さんの入社前はSEOにも取り組んでいましたか?
西面:はい。自力で1年間メディア運営をしてオーガニックで月間10万PVほどまで伸ばしてきた中で、SEOの「成果」と「限界」を感じたことを武蔵に話しました。例えばこちらの「ネジ頭がつぶれた(なめた)ビスを意地でも回す5つの方法」は、初期に成功した記事広告です。まず私がユーザーになりきって、ターゲットキーワード「ネジ山 つぶれた」で検索上位に表示されているサイトを一つ一つ読み解きました。次に重要なテーマ・トピックを要素分解して、独自の取材と視点で肉付けし、さらに写真や動画を探して…と原始的に人力でやっていたら、書き終わるまで5日もかかってしまったんです。
―自力でキーワードやコンテンツを分析するのは時間がかかりますよね。
西面:本当に。このコンテンツは検索順位1位(2018年1月現在)になりましたが、「これを一人でやり続けるのは無理だ…」と思い知りましたね。そこで「自分がやった分析・調査を仕組み化できるツールはないか」と探して、展示会でたまたま見つけたのが「MIERUCA(ミエルカ)」です。まさにドンピシャの機能すぎて、デモを見た瞬間「あ、これ使おう」と。ただ、武蔵を面接した頃は、導入したもののまだ使いこなせていませんでした。面接で私が「ミエルカって知ってる?」と聞いて、武蔵が「知っています。今の会社で使っていますよ」と答えた瞬間、「コイツは絶対に雇おう」と思いましたね(笑)。
武蔵:他部署でミエルカを導入していて、おもちゃ程度に使わせてもらったことがあるレベルだったんですけどね(笑)。でも前々からSEOに取り組みたいと思っていたので、西面の提案は願ってもない話でした。Faber Companyのコンサルをつけてもらい、一から学べることにもなったので。
最初の3か月はSEOのプロと二人三脚で
―そのコンサルを担当したのが皆川や中本です。
皆川さん、武蔵さんの最初にお会いした印象は?
皆川えり(以下、皆川):初回のミーティングで、キーワードの分析を一緒にやりました。一度で理解できるお客様はほとんどいらっしゃいませんが、武蔵さんも困った顔で「…ちょっともう一度お願いします」とおっしゃって。特にサジェストキーワードを検索ユーザーの意図ごとにまとめる「グルーピング」には苦労しておられましたね。
武蔵:ミエルカの分析結果は数値で出てくるので、構成もロジカルに組み立てていくものだと思い込んで、雲をつかむような作業をしていたんです。皆川さんたちに毎日チャットで質問して「ここは感覚でいいんですよ」「ユーザーが何をどんな順番で知りたいのか、おもてなしの気持ちで考えてみてください」と言われ、「感覚でいいのか!」と目からウロコが落ちました。しばらくすると、「そうか、構成案って雑誌を編集する時のラフコンテ(誌面の配置や内容をライターやデザイナーに示す指示書)と同じなんだ!」と気づいたんです。
皆川:そこから本当に早かったですね。 2~3か月もするとこちらが教えていただきたいぐらい秀逸なタイトルで、精度の高い構成案が返ってきて「さすが編集経験者は違う!」と感銘を受けました。
1コンテンツにつき1ペルソナを徹底する
―武蔵さんは、どんなところで紙メディアとSEOの編集方法の違いを感じましたか?
武蔵:2つほどあります。1つは「Webでは1コンテンツにつき1ペルソナを徹底する」という点です。
「クレソンの育て方」のコンテンツを例に取ると、修正前は「特徴→育て方→レシピ」という流れのものでした。タイトルも「『クレソン』栄養素ナンバー1野菜!栽培方法とおすすめレシピ」という栄養素・栽培方法・レシピの3点にフォーカスするようなものでしたね。皆川さんから、このコンテンツのペルソナは「クレソンの育て方を知りたい」という人だから、育て方の部分を前面に出した方がいいですよ、とアドバイスを受けたのを覚えています。
武蔵:育て方だけでなく、栄養やレシピなどのコラムも網羅されていることをアピールした方が読者の興味を引きつけられるのに…と思っていました。でも結果を見て納得。「クレソン 育て方」のコンテンツをSEO用にペルソナの意図に合わせたタイトルとディスクリプションに変更し、章の順番を「育て方→特徴→レシピ」に修正しただけで検索順位が26位から2位に上がったのです。
西面:紙の編集者が慣習でやってきた誌面作りが本当にユーザーの求めるものだったのか、原点に立ち返って問われるのがWebだと感じています。ゆっくり雑誌をめくる人と違って、移動中に慌ただしくスマホで検索する人は「知りたい情報と違う」と感じた瞬間、もう離脱していますから。
ユーザーは全員初対面。基礎的なことでも丁寧に解説を
武蔵:もう1つ、「ユーザーは全員初対面だと思うこと」も重要なポイントです。僕は10年ぐらい生活情報のメディアに携わっているので、「重曹を使った掃除方法なんてみんな知っている」「手垢がついたネタを出すのは編集者として抵抗がある」ぐらいに考えていました。でもミエルカで分析すると、「重曹」のニーズって、まだこんなにあったのかと。自分がいかにユーザーの気持ちから離れているのか痛感しました。以来、そこにユーザーニーズがある限り、基本的な情報でも丁寧に解説することを心がけています。
ツールに頼り切らない編集で検索流入295%、月間PV数317%を達成
―Webマガジン『Pacoma』の成長について、中本さんはコンサルの一人としてどう感じますか?
中本俊一(以下、中本):武蔵様は2か月ほどでライターさんの取材執筆のディレクションを始め、3か月目にもう構成案の作り方を教えておられましたね(※ライター採用については後編で詳しくご紹介)。SEO未経験から始めてこんなに早く人を教えるまでになられた担当者様は、当社のお手伝いした企業様でも異例だと思います。着任され8カ月で検索流入が3倍になったときは、私たちも「おお~!」という感じでした。
武蔵:SEOコンテンツは、提携メディアからの流入を増やすための工夫もしましたね。SEOを狙ったタイトルだとどうしてもキーワード重視のあっさりとした印象になりやすいんです。それだとニュースアプリ内でユーザーの目をひきつけられないため、コンテンツをアップするときはキャッチーなタイトルメイクをし、配信が終わったらSEO用タイトルに修正しました。施策が功を奏し、8か月目に月間PV数も317%にできました。
武蔵:短期で成果が出せた理由は、たぶん多くのSEO担当者が感じる「頑張れば頑張るほど、検索上位のサイトと似たコンテンツができてしまう」というジレンマを早めに解消できたからじゃないでしょうか。最初はミエルカの分析結果だけに頼って成果を出そうとしましたが、これは失敗でした。
中本:SEOで真剣に成果に出そうとするなら、+αで「オリジナリティの追求」が大事になりますよね。
武蔵:そうなんです。そこでふと、出版社時代の先輩に教えられた「記事の企画を考える段階では書店に行くな」という言葉を思い出しました。書店には同じテーマで書かれた成功事例があふれている。最初に見てしまうと、その完成された印象に引っ張られて、似通った企画ができやすい。これと同じ状態が、当時の僕だったんです。
―どうやって解決したんですか?
武蔵:出版社にいた頃と同じく、まず自分の頭と足を使うやり方に変えました。スーパーや薬局などでネタになりそうなものを見つけたり、自分が生活していて不便に感じたことをメモしておいたりして、それを企画に活かすようにしましたね。いきなりミエルカを使って構成案を組み立てるのもやめました。ミエルカにキーワードを入れる前に、自分がユーザーの気持ちになって知りたいことを箇条書きでノートに記したり、頭の中でイメージしたりしてから、企画を立てるようにしたんです。
友人知人、家族への簡単なヒアリングもいいですね。妻からも「キッチンの排水溝の臭いをどうにかしたい」とか「洋服のたたみ方を知りたい」とか、企画の種をいくつかもらいました。そうやって泥臭く動いて、自分なりに構成を組み上げた後で、初めてミエルカで検索意図を分析します。すると、ユーザーの知りたい情報に答えた上に、新鮮な関連情報まで含まれたオリジナルコンテンツが完成するのです。
皆川:未経験の方ほど、ツールの力に頼りきってしまいがちですが、本来はあくまで補助具。ユーザーの気持ちに寄り添うことが成果につながるんですよね。
武蔵:ええ、ツールとの程よい距離感が大事ですね。ターゲットキーワード「アイビー 育て方」で、いま検索順位3位(2018年1月現在)のこのコンテンツでも、自分で構成を練った後に検索意図を分析しました。たくさんのテーマ・トピックが出てきますが、「見逃したユーザーニーズはないか」を確認したのです。このとき、検索ボリュームではなく「ペルソナに合った文脈に違和感なく入れられるか」を重視しました。
武蔵:ユーザーが注目しているテーマ・トピックを分類して目次を作ったら、次に構成案へと肉付けします。なるべくライターさんやカメラマンへの指示も詳しく入れますね。そうすると打ち合わせ時間が大幅に短縮でき、時には渡すだけですぐ理解してもらえます。キーワードを無理に入れるような指示は出しません。その分野に詳しいライターさんを採用すれば、指示しなくても「水やりについての項目だから、季節ごとの頻度の違いや霧吹きにも触れないと」と自然に入れてくれますから。
中本:当社役員の山田明裕もまさに同じ方法で、一次情報から企画を始めます。社内でWebマーケターを育てる時も「自分なりの仮説を持ったうえで検索結果を見なさい。アナログな気づきや検索結果とのギャップこそ、いいコンテンツの材料だから」と教えています。
西面:ミエルカのデータって平たく言えば、「一般人の総意」なんですよね。出版社でよくやるアンケートや意識調査が数秒でできるイメージです。膨大な手間を省けるというメリットを活かした使い方をすべきだと思います。
武蔵:一方で、ミエルカから「これは手練れの編集者じゃないと企画できないな」と唸るネタが生まれることも多いんですよ。「出産祝い」の検索意図を調べると「二人目」と出てくる。それをさらに分析にかけると、ユーザーは「一人目で出産祝いを送った相手に二人目ができたら、どんなものをあげたらいい?相場は?」と知りたがっていたんです。その立場に立った経験がなければ、なかなか気づかない着眼点でした。
「職人の手元から生まれた道具は外さない」
西面:ミエルカを初めて使った時「これはエンジニアが楽しんで作っているツールだな」と直感しました。見るたびに機能がアップデートされていて、「またインターフェイスが変わったぞ」と迷子になることもありますが(笑)、日々進化しているからこそ信用できると感じます。
中本:ミエルカの機能はどれも、Webマーケティングを10年以上追求してきた当社の職人たちの手元から生まれたものです。「自分たちのこの分析・調査を、こういう風に自動化できればWeb担当者の生産性が上がるはずだ」という発想で開発しています。だから現場で活きる機能が実装されているんです。
西面:どんな分野でも、現場の職人に鍛えられ、明確な目的を叶えるために作られた道具ってポイントを外さないですからね。
武蔵:ミエルカがあれば、Webを知らない人にも共通言語のように伝えられるので助かりますね。僕の編集チームは今8名のライターさんが働いてくれていますが、やはり紙メディア出身者が多いんです。最初はWeb用語もほぼ知りません。「SEO」や「html」「h1、h2」も「武蔵さん何ですかそれ…」って。でもミエルカで仕上げた構成案を見せて「これ、ラフコンテと一緒なんです。これを見ていつも通り取材して書いてくれれば大丈夫ですから」と言うと、「何だ、同じなんですね!」と笑顔になって、速攻で理解してくれます。
中本:優れたライターさんをどう採用し、マネージメントするかはメディア成功の要ですよね。
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前編では、紙メディアで培ったノウハウを活かしながらSEOでも成果を上げたWebマガジン『Pacoma』の成長軌跡をご紹介しました。後編では、その原動力を生み出す「ライター採用テクとマネージメント」について、出版社時代から培われた武蔵さんのノウハウを詳しく伺います。お楽しみに!