シリーズ形式でお伝えしているオウンドメディア業界別事例。今回は、不動産関連のオウンドメディアを紹介します。自社のオウンドメディアに活用できるポイントをぜひ見つけてください。
顕在層の「疑問解消」と潜在層の「興味喚起」の二軸で
家は人生に一度あるかないかの買い物です。(何回も買えるお金持ちになりたい…)購入に要する検討期間は必然長くなります。購入しないにしても「家を借りる」ということでも、やはり選定の機会が少ないでしょう。
よってユーザーとの接点は日々の生活の中で多くあるわけではなく、実際に「家を買う」という検討を始めたときから発生する場合がほとんどです。だからこそ、その時の顕在層のニーズや疑問(検討段階によって異なる)にピンポイントに答えるハウツー記事と、まだまだ検討に至らない大多数の潜在層の興味を引くような家や暮らし全般に関連する記事の二軸が考えられます。
不動産にまつわるオウンドメディア事例5選
では、具体的に事例を見ていきましょう。
① HOME’S 住まいのお役立ち情報
賃貸・分譲物件情報サイト「HOME’S」を運営している株式会社LIFULLのオウンドメディアです。
コンテンツ
「住まい探しをもっとラクに楽しく」 この大テーマの元に賃貸や住宅購入、購入後の暮らしのことにまつわる記事が掲載されています。ブログのようなレイアウトになっており、テーマごと(「一戸建てを買う」「マンションを買う」「借りる」「暮らし方」など)に閲覧できること、人気記事や新着記事ランキングがあること、検索窓を置いていることで目当ての記事が見つかりやすくなっています。
コンバージョン
関連記事の表示がメインです。HOME’S本体サイトへのリンクはありますが、いきなりおすすめ物件を表示しているわけではなくセールス色は強くありません。ブランドキャラクタ−のホームズくんに「住まいのことなら何でも相談してねっ!」と吹き出しの付いたバナーをクリックすると、オンラインチャット窓口の画面が立ち上がるところが特徴的です。
会員登録の導線
HOME’Sの本体サイトでは会員登録をすると、「最近見た物件」「お気に入り物件」を保存しておくことや、よく使う物件の検索条件を残しておくことができます。また、楽天会員IDでの登録を推奨しており、物件の内覧をすると楽天ポイントプレゼントなどの特典も用意しています。
ソーシャルメディア(SNS)の利用状況
HOME’S全体としてFacebook、Twitter、Youtubeのアカウントを持っています。FacebookとTwitterでは「住まいのお役立ち情報」の新着記事の発信や新しい物件情報の告知がメインですが、ホームズくんの喋り口調で投稿されており親近感を持たせています。
参考URLなど
株式会社LIFULLは「住まいのお役立ち情報」以外にも不動産会社向けに分析レポート「NabiSTAR Report」を提供し、不動産業界のマーケティング活性化にも寄与しています。
『HOME’S』のデータでオウンドメディアを育てる~新・不動産業界のマーケティングに迫る
② マンションサプリ
マンションの売却・査定サービス「マンションマーケット」を運営する株式会社マンションマーケットのオウンドメディアです。
コンテンツ
「売却」「購入」「住宅ローン」など、マンションマーケットの顧客が興味を持ちそうなカテゴリの記事が掲載されています。他の不動産系メディアであまり目にしないコンテンツだと、「管理」というカテゴリでマンションの価値を守るための管理・修繕方法が掲載されており、メインターゲットである売却検討層に有益な情報を提供しています。
コンバージョン
各記事の最後に「マンションの売却をご検討の方へ。」といったタイトルでマンションマーケットの本体サイトへのバナーリンクが貼られています。それ以外だと、関連記事やおすすめ記事が次への導線でしょうか。
会員登録の導線
マンションマーケットサイトで会員登録すると、部屋情報を入力すれば価値査定をしてもらえるサービスや、相場情報や取引事例をまとめた「資産価値レポート」を毎月受け取ることができます。
ソーシャルメディア(SNS)の利用状況
マンションサプリ専用のTwitterアカウントを持っており、新着記事の発信を行っています。
参考URLなど(一言コメント)
事例を紹介しながらマンションの売却に関連する記事を発信したり、地域や駅ごとの相場情報を提示できるのは、特定分野にフォーカスしたビジネスを展開している企業ならではの強みを活かしていると言えそうです。
③ 三井不動産レジデンシャル みんなの住まい
新築マンション・分譲マンションを提供している三井不動産レジデンシャル株式会社が運営しているオウンドメディアです。
コンテンツ
ブログ形式で記事が掲載されていますが、どの記事も写真が満載です。三井不動産の物件にお住まいの方を尋ねて暮らしぶりを紹介する「お邪魔します!」や都内を中心に関東圏の駅や町を歩き歴史的建造物やカフェなどを訪ねる「街を知る」などのカテゴリがあり、今すぐ使えるお役立ち情報というよりは、世界観や新しい住まい・場所に興味を抱いてもらうためのコンテンツが多い印象です。
コンバージョン
「この記事を読んだあなたにオススメの物件」というタイトルで、各記事の最後に3つずつほど物件情報が表示されます。
会員登録の導線
三井不動産全体では「三井ハウジングメイト」という会員組織を持っており、登録すると興味のある物件に関連する情報をメールマガジンが届いたり、月々の返済額の算出と借り入れ可能額の算出がローンシミュレーションでできたりします。
ソーシャルメディア(SNS)の利用状況
「みんなの住まい」のFacebook、Twitter、Youtubeアカウントを持っていますが、2016年以降は更新されていないようで、現在は関連サイト「三井のすまい」に付随するLINE公式アカウントの利用が主のようです。
参考URLなど(一言コメント)
住宅購入を検討している女性向けメディア「モチイエ女子」は、女性にとって親しみのある少女漫画的な世界観を守って構築されています。
・三井不動産レジデンシャル×スマホ「緩やかにつながり続ける関係をつくりたい」
④ SINGLE HACK|一人暮らしを刺激するウェブマガジン
祝い金が貰える賃貸情報サイト「キャッシュバック賃貸」を運営している賃貸情報株式会のオウンドメディアです。
コンテンツ
一人暮らしをこれから始める人や、すでに一人暮らしをしていて今後引っ越しを行う可能性がある人に向けたテーマの情報発信が中心。ワンルームにピッタリのスピーカーを案内する記事などが掲載された「ライフスタイル」、一人分の揚げ物が簡単に作れる調理器具特集が組まれた「グルメ」など5つのカテゴリに分かれています。
コンバージョン
各記事の最後には、キャッシュバック賃貸のバナーリンクが置かれています。「引越し祝い金がもらえる」というフレーズはやはり目を引きます。
会員登録の導線
キャッシュバック賃貸には会員組織があり、引越し祝い金を得るためには登録が必須となっています。
ソーシャルメディア(SNS)の利用状況
キャッシュバック賃貸としてFacebookとTwitterのアカウントを持っています。メインはTwitterのようでSINGLE HACKの新着記事情報を発信しています。
参考URLなど
2015年からは、エンタテインメント情報を配信する総合情報サイト「T-SITE」へのコンテンツ提供により、より多くの読者にコンテンツを届けています。 ・コンテンツマーケティングに挑む急成長ベンチャー[キャッシュバック賃貸]遠藤彰二氏へインタビュー
⑤ ひつじ不動産
株式会社ひつじインキュベーション・スクエアが運営する、物件情報とお役立ちコンテンツが一体となったシェアハウス情報の専門メディアです。
◆ コンテンツ
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「ひつじでも分かるシェアハウス入門」
『そもそもシェアハウスって?』から『シェアハウスで生活する注意点』など、はじめてシェアハウスを検討するための情報を掲載しています。
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「シェア住居ソーシャル・キャピタル調査レポート」
入居者へのインタビューや「夕飯は何人で食べることが多いの?」といったアンケートなどリアルな声を届けています。
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物件情報
一体型となっているためもちろんこちらもコンテンツの1つになるのですが、何よりスタッフが撮影した写真をふんだんに使用しながらリノベーションが施された各シェアハウスや街の雰囲気を紹介しているため、物件のスペックだけではなくその物件やオーナーが持つ世界観を感じ取ることができます。
コンバージョン
物件紹介ページの最後には問い合わせの導線が用意されています。コラム記事のサイドバナーにもおすすめ物件情報やメールマガジン登録のリンクが設置されています。
会員登録の導線
Facebook、Google+、LINEのいずれかで登録できる会員になれば、お問い合わせフォームへの毎回の情報入力の手間を省けるようです。別にメールマガジン会員も募集しており、こちらでは最新の空室情報や新物件情報が配信されるようです。
ソーシャルメディア(SNS)の利用状況
FacebookとTwitterのアカウントを持っていますが、いずれも2016年以降はあまり積極的に活用していないようです。
参考URLなど
なお、同じWebレイアウトで関西版のメディアも展開しています。
・1万人が高額物件をシェア。新しい賃貸サービス「ひつじ不動産」が急成長
信頼感と安心感を伝えて家選び(家づくり)の際に想起してもらえるブランドに
冒頭でも述べたとおり、不動産関連でユーザーが意思決定する機会はそう多くありません。失敗したくない選択だからこそ、情報収集はより広く、深いものになっていくでしょう。そうしたユーザー向けには「住宅関連の知識」や「住宅ローンや税制」などの周辺知識も含めた網羅的な情報提供がハウツー記事として欠かせません。それは賃貸の場合でも、自分の生活基盤となる「家」の選択となるわけですから情報収集への姿勢自体は変わらないのではないでしょうか。
コンテンツマーケティングやオウンドメディアで「家」という大きな決断にあたって、不安解消に繋がる情報を提示することで信頼感や安心感を持ってもらい、いざ意思決定をする段階になったときには真っ先に選択肢にあがる企業やサービスであることが重要ではないでしょうか。