様々な領域の「知」を求めて、有識者の皆さんと対談する連載「 #知の探索 」。インタビュアーは、当社の本田卓也が務めます。
今回のゲストは、弊社取締役であり、「海外SEO情報ブログ」を運営する鈴木謙一です。「海外SEO情報ブログ」はSEOに特化したブログの中において、日本でもっとも有名なブログのひとつです。
鈴木は海外カンファレンスの参加など、国外での活動にも積極的に参加しています。Googleの公式検索セントラル ヘルプ コミュニティのプロダクトエキスパートとして認定を受けており、Google社員との深いつながりも築いています。
そして先日、鈴木はアジア・パシフィック地域で初となる「ダイヤモンド プロダクトエキスパート」に選ばれました。
アジア太平洋で初。当社取締役 鈴木謙一が、Google検索セントラル ヘルプ コミュニティで「ダイヤモンド プロダクト エキスパート」に昇格しました。
世界で活躍するSEOのエキスパートは、どのような経緯で生まれたのか。どうして海外のカンファレンスに参加するようになったのか。現在のSEOに何を思うのか。10年以上の付き合いがある本田が、インタビューを通じて鈴木を徹底解剖しました。
(執筆・撮影:サトートモロー 進行・編集:本田卓也)
人に教えることに強い関心があった
本田:
謙一さんとは長い付き合いではあるけれど、子ども時代の話は一切聞いたことがないね。どのような少年時代を過ごしたの?
鈴木:
僕は新潟県の田んぼしかない田舎生まれで、小さい頃は野山を駆け回っていたかな。生まれてから高校生まで、ずっと地元で過ごしてた。
本田:
これまでインタビューしてきたSEOの巨人たちは、学校時代に成績優秀な人が多かったんですよ。謙一さんは?
鈴木:
僕はね、優等生だった(笑)。小中学校はどの科目も成績がよかったし、高校は新潟県でトップクラスの進学校に入学した。苦手な数学では赤点を取ったこともあるけれど、特に英語は得意だったかな。
本田:
スポーツは何かやっていた?
鈴木:
スポーツは、小学校のころはスキーも水泳も陸上も、何でも上手だった。中学校は陸上部に入部して、担当種目は400m走だった。
ゲームも、『マリオブラザーズ』『ドンキーコング』『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』『ウィザードリィ』といろいろなタイトルで遊んだな。
本田:
ゲーム好きっていうのも、過去にインタビューした人たちとの共通点だね。謙一さんは新潟大学を卒業しているよね。上京しようとは思わなかった?
鈴木:
僕はもともと、先生になる将来も考えていたんです。大学受験では新潟大学の教育学部英語課と横浜国立大学の国際教養学部に合格していました。先生になりたいと思ったのは、英語関連の仕事がしたかったから。
先生になるのなら、地元の大学の方が採用やその後に何かと有利だと高校の進路指導に聞いたから。そう思って新潟大学への進学を決めた。地元だからお金もかからないし、実家にも帰りやすいしね。
本田:
先生という進路にも、人に教えることが好きな謙一さんの性質が感じられます。大学卒業後は、民間企業に就職したんだよね。
鈴木:
そう。先生にはならず、英語やコンピュータを学べる一般人向けスクールを運営する会社に就職した。僕はそこで、代理店営業みたいなことをやっていたんだよね。
本田:
謙一さんが営業!?
鈴木:
想像できないでしょう?
新潟の田舎から出てきた若造に、いきなりテレアポなんてさせてもうまくいくはずがないよね。1年ほど頑張ったけれど、たいした成果は出せなかった。でも、社長は僕のことをかわいがってくれたんだよね。細かい作業が得意だった僕に、経理や総務や人事などのバックオフィス業務を代わりにひとしきり経験させてくれた。
この会社で、はじめてちゃんとパソコンを触ったの。自分でLANケーブルを配線して、パソコンと接続しているプリンターから資料が印刷されたときは、すごく驚いたな。そこからはパソコンへの興味がどんどんわいてきて、Excelの関数にハマっていった。
ただ、この会社はいわゆるブラックだったんだよね。休みもろくに取れないのがつらくて、思いきって仕事を辞めたの。それから半年間は仕事をしないで、このタイミングで「もっとネットワークについて勉強したい」と思い、スクールに通ってMCSE(Microsoft Certified Systems Engineer)というMicrosoftの認定資格を取得した。
このとき、僕はネットワークエンジニアになりたかったんだ。でも、資格の勉強を重ねるうちに、勉強そのものが面白くなっちゃって。エンジニアではなく、エンジニアに教える仕事に就きたいと考えるようになったの。
そこから、IT研修企業でMCT(Microsoft Certified Trainer)としてトレーナー職を務めたり、外資系企業の情報システム管理者として働いたりしたんだ。同時並行でコーチングの勉強もしていて、コーチングスクールで仲良くなった人に誘われて、IT系企業で社員向けの研修を行う社内講師として働いたこともあったね。
「海外SEO情報ブログ」の誕生
本田:
SEOとはどう出会ったの?
鈴木:
2003年ころかな。30歳を迎えたあたりで、個人で働きたいと思うようになったんだ。ちょうど、IT業界では情報商材やアフィリエイトが盛り上がってきた。面白そうだなと思った僕は、アフィリエイトサイトを作っていろいろなジャンルの情報を発信していったの。そこではじめて、SEOという言葉を知ったんだよね。
本田:
アフィリエイトがきっかけだったんだ!
鈴木:
SEOを勉強するために、ネット塾(今でいうネットサロン?)に通ったりアメリカ発のeBookを読んだりしたんだ。向こうのノウハウを知るたびに、目からウロコが落ちるような気分だった。「SEO面白い!」となって、どんどんのめり込んでいったんだよね。このときも、自分でSEOを実践するんじゃなく、SEOの勉強そのものにハマってしまったんだけどね(笑)。
僕はとあるアフィリエイト塾で、アフィリエイトやネットビジネスを学んだ。そこでとある方に、「SEOに詳しいから、メルマガを発行すればいいんじゃないの?」と言われたの。
それで始めたのが、「海外SEO情報メルマガ」なんだよね。ちなみに、このアフィリエイト塾をきっかけにして代表取締役の古澤暢央とも出会ったんだ。
本田:
初耳だ……!メルマガを始めたとき、どんな反響を得られた?
鈴木:
メルマガとしては、第1号から人気があったと思う。最大で5,000人以上まで登録者が増えたときもあったかな。
本田:
それはすごい。このタイミングでは、まだ「海外SEO情報ブログ」は連載していなかった?
鈴木:
まだ連載していなかったね。メルマガを1年弱続けたとき、WordPressが世の中で注目されはじめた。一度練習がてら試してみようと思って、メルマガに書いたことを投稿していったんだよね。
それが2007年のことで、「海外SEO情報ブログ」の始まりかな。次第に、メルマガの情報をただ投稿するだけじゃなく、独自に記事を書き始めるようになったんだ。そんなある日、SEOの著名人が僕のブログを紹介してくれたの。あれはすごく感動したなあ、こんなにすごい人も読んでくれていたのかって。そこから完全に、ブログに活動をシフトさせていったと思う。
本田:
その頃、僕が古澤と食事をしていたときに、謙一さんの話をしたのを覚えているよ。「『海外SEO情報ブログ』って、すごく面白いよね。読んでいる?」って。
鈴木:
古澤も、僕の活動を支えてくれた人の1人だよ。僕がちょっとした困りごとを抱えているとき、古澤が自宅に招いて相談にのってくれたんだ。そこでいろいろ話すうちに、「うちで働かないか?」と誘ってくれたの。そこから数年は、業務提携という形で一緒に仕事をしたんだよね。
するとある日、突然古澤から「うちの役員になってくれ」って言われてさ。そんな申し出、怪しいと思うじゃない?(笑)。でも、彼のことをよく知る友人の話を聞いて、純粋な気持ちで僕を誘ってくれていると知った。
しかも、業務提携時代と同じ完全リモートワークのまま、これまでと同じ働き方でいいという好条件も用意してくれたんだよね。古澤がいなければ、僕は今何をしていたかわからないな。
本田:
それだけ、古澤は謙一さんにとって大きな存在だったんだね。ちなみに今は、どのようなスケジュールで仕事をしているの?
鈴木:
朝4時半に起きて、雑事を済ませて4時45分頃からインターネットを徘徊して、SEOの情報をチェックするよ。6時過ぎから7時にかけて記事を書いて、朝食をとって家事をして、8時半頃にその日のタスクを始める。
午前中の仕事を終えたら、昼食をとって昼寝して、午後の仕事を始める。18時半にはその日の仕事を終えるかな。その後はお風呂に入って、リラックスタイムを過ごして22時半には寝るよ。
本田:
毎日、リズムを守って仕事をしているという感じだね。海外の情報はどうやって調べているの?
鈴木:
今はなきRSSリーダーとX(旧Twitter)かな。この2つがないと困っちゃうね。でももう、若い子たちは知らないよね、RSSリーダーなんて……(笑)。
本田:
そうだね……(笑)。
海外カンファレンス登壇の障壁は英語“だけ”だった
本田:
謙一さんは、海外のカンファレンスにたびたび登壇しているじゃないですか。今となっては違和感を覚えないけれど、どのようなきっかけがあったの?
鈴木:
テキサス州ダラスのカンファレンスに参加したとき、仲のいいSEO関係者の友人と食事をしたんだよね。そこで「ケンイチはなぜ登壇しないの?」と聞かれたの。そのときは友人に、「人前で話すほど英語を話せないから」と答えたんだよね。
でもあとになって、「英語がうまく話せれば登壇できるよな」と思ったんだ。正直、カンファレンスに登壇している人々より、僕たちのほうがSEOに詳しいと思っていたしね。友人の一言をきっかけに、英語をちゃんと勉強してカンファレンスに登壇しようと決めたの。
そしてすぐ、古澤や経営陣に直談判した。「英語力を磨いて海外カンファレンスに登壇したいから。英会話スクールに通おうと思っている。費用を出してほしい」って。そこから約1年間、
英会話スクールに通ったんだ。もちろん、費用は会社の負担でね(笑)。
本田:
願いが届いたのか!(笑)。そして、2019年に開催された欧州で最大規模のSEOカンファレンス 「BrightonSEO」で、登壇デビューを果たしたんだね。
欧州で最大規模のSEOカンファレンス 「BrightonSEO」に、取締役の鈴木謙一が登壇いたします。 – ミエルカマーケティングジャーナル
鈴木:
うん。そこから去年にかけて、通算5回登壇したかな。
本田:
僕たちがカンファレンスに足を運んでいたとき、日本人が壇上に立つなんて想像もできなかったよ。カンファレンスに登壇して、謙一さんのなかで変わったことはある?
鈴木:
話を聞く立場から、教える立場になったのは、やっぱり嬉しいよね。憧れの存在だったスピーカーたちと、対等な関係になれたことで、大きくステップアップできたなと思うよ。
本田:
その上、ダイヤモンドプロダクトエキスパートにもなったと。次は何を目標にする?
鈴木:
早く引退したい(笑)。
本田:
みんな同じことを言うな!なんでそんなに引退したがるのさ(笑)。
鈴木:
引退は冗談にしても、この会社から海外SEO事情の情報を発信できる人を、育てていきたいなとは思っているよ。市川莉緒のように、海外カンファレンスに登壇する、あるいは登壇したいという若手が出てきた。今後も、海外に興味があるメンバーはカンファレンスに連れて行ってあげたいし、登壇の機会も作っていきたいな。そうすれば、僕がいなくなっても安心だからね。
「検索」という行為に感じる課題と期待
本田:
謙一さんは海外の有名なSEOプロフェッショナルとも交流しているよね。海外のSEOと日本のSEOを比べて、どのような違いがある?
鈴木:
昔は情報格差があった影響で、欧米のSEOの方が進んでいたよね。でも今、そういう差は感じない。むしろ辻正浩さんや渡辺隆広さん、木村賢さんたちは、海外の専門家のはるか上をいっていると思う。
本田:
そうなんだ!謙一さんから見て、SEOの現在の問題点や課題はどこにあると思う?
鈴木:
僕はGoogleがとても好きだから、課題というよりも今後の「期待」を込めて話したい。今抱えているSEOの課題は、とにかく「検索が面倒」ということに尽きると思う。
本田:
「Discover(ディスカバー)」のように、ブラウザ上にコンテンツをレコメンドしてくれる機能ですべてがカバーされたらすごく楽だよね。
鈴木:
僕たちは、あくまで情報が欲しいにすぎない。検索というのは、ゴールではなくて手段だよね。キーボード入力も面倒だし、「Googleアシスタント」の音声入力も精度に改善の余地がある。AIにしても、正確な情報を返してくれるかはまだ怪しいよね。
このあたりの問題を、Googleが解決してくれることを僕は強く期待するかな。
本田:
確かに。今後Googleがどのような答えを出してくるかは楽しみだね。ちなみに謙一さんは、仕事で生成AIをどのように活用している?
鈴木:
僕は主に、文章構成と草稿の作成でClaude2を使用している。英文でメールを書くときも、「丁寧な表現に直して」「ラフにして」のように、トーンを変えてもらうときに使用しているかな。Claude2は、とても素敵な文章を書いてくれるんだ。
海外の記事を読むときも、生成AIで要約とキーポイントの抜き出し、翻訳を行っている。そこで出力された文章を編集して、記事を書いているよ。
それと、海外カンファレンスに登壇するときのスピーキングプロポーザルもAIに考えてもらっている。AIには「スピーチなので分かりやすく表現して」「難しい単語は使わないで」「こういうことを伝えたい」「ジョークを織り交ぜて」といろいろ指示を出すんだよね。
本田:
ChatGPTではなく、Claude2を使用している理由はある?
鈴木:
実は、特にこれという理由はない。Claudeの方がサポートするトークン数が多かったのと、僕好みの英文を作成してくれるというのがあるかな。僕はAIと何往復もやり取りすることもあって、トークン数が多いに越したことはなかったんだ。
その流れ(惰性?)で、Claude2を使っているに過ぎない。ChatGPTで全然問題ないと思う。
※注:インタビュー後にリリースされた Gemini Ultra を現在は愛用しているとのこと
本田:
生成AIを使うようになって、生産性は変化した?
鈴木:
すごく変わった!作業時間が短縮されたのはもちろん、作り出せるコンテンツの質も断然よくなったよ。
本田:
SEOでは活用している?
鈴木:
う〜ん……。AIにSEO記事をゼロから書かせるという点については、僕はあまり乗り気ではないかな。よほどプロンプトが優れていないと、いいコンテンツにはならないし、ユーザーが欲しい情報にはたどり着けない気がする。
海外の専門家も、データ分析や広告コピーにAIを使っていることが多い。記事を書かせている人たちもいるけれど、ChatGPTに丸投げするのではなく独自ツールを用いているかな。自分たちが構成を作って、トレーニングを積んだツールに書かせているという流れが一般的だと思う。
僕としては、今のところSEO記事は自分で書こうと思っている。
本田:
なるほどなあ。今後、AIはどのようにSEOに影響を与えると思う?
鈴木:
正直、どうなるかは全然想像できないよね。10年後にはGoogleがなくなっている可能性すらあるかもしれないし。
僕ができることと言えば、僕たちができることは「いいコンテンツを作る」「ユーザーが使いやすいサイトを作る」の2つしかないということかな。Googleがコンテンツ・サイトをどのように判断するかという、アルゴリズムの問題には関与できないわけだから。
僕はコンサルタントではありません。「Advocate」なんです。
本田:
謙一さんから見て、SEOに向いている人はどのような人だと思いますか?
鈴木:
SEOが好きで好奇心を持っている人と、その好奇心を継続できる人かなと思います。あとはやっぱり、英語が出来たほうがいいよね。今は便利な翻訳ツールがあるけれど、カンファレンスでのコミュニケーションでは、英語がほぼ必須ですから。英語力というのは、僕にとっては大きなアドバンテージだったと思う。
本田:
なるほど。海外のSEO専門家には、どのような共通点がある?
鈴木:
みんな辻さんたちのようなSEOオタクだね!なかにはWebサイト制作会社を設立して、「SEOは完全に趣味」と口にする超一流の専門家もいるよ(笑)。
本田:
それはすごいな(笑)。今はもう、SEOだけを学ぶ時代ではないと思います。それでも、SEOに取り組みたいという人は、何をすべきだと謙一さんは考えますか?
鈴木:
SEOで稼ぎたいのなら、データ分析ができる・できないで大きな差が生まれると思います。まあ、SEOでお金を稼いでいない僕が言うのも変な話だけどね(笑)。
本田:
世間には、謙一さんをSEOコンサルタントだと思っている人がたくさんいるよね。
鈴木:
それは違うので、ここでハッキリ否定しておかないとね。
僕はSEOコンサルタントではありません。ただのウンチクたれです!
本田:
謙一さんの肩書ってなんだっけ?
鈴木:
Search Advocate(サーチ・アドボケイト)。「Advocate」というのは、宣言する・伝える・提唱するという意味だね。僕の仕事は、SEOの最新情報をわかりやすく人々に伝えることだと思ってください。
本田:
まさに、「海外SEO情報メルマガ」や「海外SEO情報ブログ」でやってきたことですね。謙一さんにぴったりな肩書だ。