「SUUMOタウン」の横関崇志氏が語る「ユーザーの魂を震わせ、ライターに『私も書きたい!』と思わせるメディア作りの秘訣」ミエルカ勉強会レポート
更新日:2021.7.13 公開日:2018.07.25当社取締役Founder・古澤暢央がゲストを招いてお送りする「ミエルカ勉強会」。4月は、SUUMOタウンの横関崇志氏をお迎えし、同メディアを象徴する特徴的なコンテンツが生まれた背景や、横関氏へのインタビューを通じて、古澤が見いだした3つの気づきを当日の様子とともにレポートします。
目次
・横関崇志氏プロフィール
・SEOに特化したサイトの、SEOを意識しないオウンドメディア
・「まるで、私のために書かれたようなコンテンツ」
・バズれるネタが書ければ、“街”にはこだわらない
・狙ったのは、漠然とした「住み替えたい」瞬間へのアプローチ
・“街”をテーマにしたきっかけは、「書きやすさ」と「差別化戦略」
・古澤が見いだした3つの気づき
・1「良い書き手」が集まると、良い読者・良いクライアントが集まる
・構成案を作らない、書き手の世界観を活かした記事作り
・2 アイデアの源泉は、10年後生き残れるかどうか
・お金よりも知恵、人気記事にクローラーを呼び込む方法
・Googleはソーシャルシグナルを認識しているのか?
・3 SUUMOタウンの成功要因は、サイトの位置づけを明確にしたから
・編集後記:ロジカルな構成案に勝る、「実体験」と「思い入れ」の魅力
横関崇志氏プロフィール
株式会社リクルート住まいカンパニー ネットビジネス統括本部 マーケティングユニット 請負・事業開発マーケティンググループ マネージャー
リクルートホールディングスに新卒で入社後、リクルート住まいカンパニーへ出向し、『SUUMO』のWebマーケティングを担当。その後、事業開発室におけるマーケティングチームのリーダーを経て、2017年10月よりマネージャーに。記憶力には絶対の自信があり、過去には高校生クイズの全国大会に2度出場したことも。小論文のコンテンストで入賞したり、ライターとしてWebメディアで記事を書いたりといった、学生時代の経験を生かしてコンテンツマーケティングを推進中。
SEOに特化したサイトの、SEOを意識しないオウンドメディア
SUUMOといえば、誰もが一度や二度は目にするはずの不動産情報サイトだ。そのSUUMOに対するオウンドメディアが、今回のテーマとなる『SUUMOタウン』である。SUUMOタウンの特徴は、“街”に特化したオウンドメディアであること。「この街いいかも」、「こんな街あったんだ」という街との出会いの機会を創出すべく、目標値やKPI設定を設けない“集客の実験の場”として2014年に立ち上げられた。その中でも横関氏は、立ち上げから現在に至るまで、SUUMOタウンのコアメンバーとして活躍されてきた。
古澤「初めてこのサイトを見た時の衝撃は忘れられません。SEOを担当していた横関さんが、どうしてこのようなサイトを立ち上げられるセンスを持っているのだろうと思いました」
古澤「タイトルがすごいですよね、コラム記事のようですが、ライターが持つ街に対する情緒的なものを強く感じます。SUUMOはSEOに特化しているのに、なぜこのようなコンテンツのあるメディアを立ち上げたのでしょうか」
「まるで、私のために書かれたようなコンテンツ」
横関氏「面白いことに、人によって共感を生む記事は全然違います。コンテンツ作成の基本ですが、誰か一人のペルソナにグッと寄ると、それに少しでも関連する人たち皆に刺さります。昔リクルートに“創刊男”と呼ばれた人(くらたまなぶ氏)がいて、彼がリクルート内で行ったセミナーで述べていた内容を参考にしました。『世の中には大体7種類の「ペルソナ」がいる。そのどれかに思いきり注力した編集記事を出せば、結果的に共感をえられる』。これは紙の時代の話で、現在はそれ以上にペルソナが多様化していると思います。また、この手法は紙だけではなくネットでも同じだと思っています」
古澤「なるほど。記事を読んでいて、この人は僕のために書いてくれたんじゃないかと思いましたよ!」
横関氏「それ、狙っています(笑)」
そう、まるで「自分のために特注で書かれた」と錯覚してしまうようなコンテンツが、SUUMOタウンには数多く掲載されている。それはいずれも、広く浅く万人のために書かれたようなものではなく、ひとたび自分にはまるものを読んでしまえば、その感性と世界観に引きずり込まれていくのだ。
バズれるネタが書ければ、“街”にはこだわらない
古澤「自分が思いつく街の名前を調べると、大体検索順位のTOP3かTOP5にSUUMOタウンが入っていることに気が付き、非常に面白かったです。初めから街の名前で上位表示させようとした意図があったのですか?」
参考情報…SUUMOタウン掲載のコンテンツ「西川口はふつうに住みやすい街ってみんなに知ってほしい」は「西川口」で検索順位1位、「世田谷線に乗って、欲張りな人の街、三軒茶屋へ」は「三軒茶屋」で4位であった。(2018年4月27日現在)
横関氏「いえ、そんなことは全然なくて…。SUUMOタウンがスタートした2014年は、コンテンツマーケティングブームが到来したころでした。当時その中でも大事だといわれていた、『いかにソーシャルで拡散できるか』に注目をして、拡散されるネタが書ければ街は問わないというコンセプトで進めていました」
古澤「なるほど。旧来のSEOの考え方で、街の名前を分類していき『〇〇街から攻める』となると、そこにマッチしたバズるコンテンツを発想するのは難しいですね」
横関氏「一人のライターが書きたい街や書ける街は限られているため、どちらかというと書けるかどうかで決めています。もちろん検索ボリュームは調査していますが、そこにはあまりこだわらず、1番書けそうなネタをライターに依頼しています」
古澤「運営開始から4年経った今、結果として、街の名前や駅の名前、通称名で検索上位に上がるようになっていますね」
狙ったのは、漠然とした「住み替えたい」瞬間へのアプローチ
過去、横関氏は「HRナビ」のインタビューの中で、SUUMOタウンの狙いを以下のように述べていた。
古澤「おっしゃる通りだと思います。何かを購買しようと思った瞬間の相手に、どうやってリーチできるか、非常に難しい問題ですよね」
横関氏「SUUMOタウンは、幅広いターゲットに向けたマス広告と、今すぐ住み替えたい人たちに向けたリスティング広告の間を埋める立ち位置にいます。ある意味僕だから、コンテンツマーケティングをこのように進めたところもあります。ある種余裕があったのかもしれません。
僭越ですが、SUUMOのSEOは非常に強く、ほとんどのキーワードで検索順位1位を取れています。その結果、新しいアプローチをしたいという思いに至りました。僕がSEOをやっていなかったとしたら、検索ボリュームやキーワードの網羅性などを意識した、いわゆる王道のSEO対策で記事を作っていたと思います」
古澤「他のサイトに比べて露出度が高いSUUMOにおいて、さらに潜在層にアプローチをしようとした理由は?」
横関氏「ソーシャルにおいて、SUUMOは必ずしもユーザーからの強い認知を持ってはいなかったと思います。今ではSUUMOタウンがあり、ソーシャル向けのキャンペーンもやっていますが、立ち上げ当時はソーシャルに継続的な力を入れられていませんでした。だからWebでも、テレビと同じように露出していこう。今すぐ家を買いたい、借りたいと思っていない人たちにも、継続的にアプローチをしていきたいという思いで始めました」
“街”をテーマにしたきっかけは、「書きやすさ」と「差別化戦略」
古澤「様々なライターやブロガーを集め、彼らに『あなたが書ける街をどこでもいいから選んで書いてください』という発想に結びついたきっかけは?」
横関氏「例えば、住宅のネタを書くのは非常に難しいです。『バズりたい!』と思っても、バズるのが得意なブロガーが、すぐに家の話でバズれるかといえば違いますし、結構リスクもあるんですよね」
古澤「リスクが多い?」
横関氏「建築基準法や法律の問題があり、安易に踏み込んでしまうと読者に対して間違った情報を伝えてしまう可能性があるということです。そちらはそちらで僕らも真剣に取り組んでいます。不動産鑑定士などの不動産の専門家やファイナンシャルプランナーなどのお金に関する専門家に協力を依頼してチェックしていますが、それらはバズる記事にはなりにくいです。一方で “街”というテーマは、思い入れがあれば書くことができます」
古澤「僕にも思い入れのある街がありますね」
古澤「なるほど。そしてテーマが決まったときに、面白い人に書いてもらったら面白いものができるのではないかと考えられたのですね」
横関氏「はい。そしてもう一つ、一人が書ける街の数は限られるため、マネされにくいという点があります」
古澤「確かに」
横関氏「競合が先ほど紹介した四天王寺の記事を書こうとしても、最初に書いた記事より面白い視点、違うポイントを見つけなければならず、加えて僕らは有名なライターたちにすでに100記事以上書いていただいている。後から追いかけることが難しい、マネできないようなメディア作りを目指しています」
古澤が見いだした3つの気づき
1「良い書き手」が集まると、良い読者・良いクライアントが集まる
古澤「非常にシンプルな成功法則を突いていますね。Webメディアの運営に携わっている方は、良い書き手を探すことより、検索エンジン上で上位表示するために何を書くかに着目しがちです。個人のアフィリエイターから組織化している方まで、良い書き手を集めるというより、クラウドワーカーを活用して1文字何円でテストさせ、文章として成り立っているライターを選ぶ方が多いです。横関さんの、良い書き手を選ぶという発想はどんなご経験から生まれたんですか?」
横関氏「僕はそういったアフィリエイターの考え方を否定していません。非常に合理的で、説明しやすいと思っています。ただ同時に、戦術としては合理的でも、戦略としては短期的だと思っています。僕自身のライティング経験を踏まえると、自分が書いた記事はたくさんの方に読んでもらいたいですし、『あの記事を書いた人なんだ』って名前を売りたいと思っています。長いスパンで考えたときに、1文字何円で書いている人たちも、もっといい所で書きたいと思っていくようになるはず。実際にそういう風潮もあるじゃないですか」
古澤「あります」
横関氏「そうなったとき、SUUMOタウンがライターのゴールになるようなメディアになっていれば、競合にもマネされないと思います。面白い記事を読みたい編集者と、自分の作品を世に出したいライターが同時に集まり、いい組織ができる。メディアが組織を作り上げるのかなと」
古澤「書き手が持っている持ち味や経験、素材を引き出していこうという発想ですね」
横関氏「『私も書きたい!』と思ってるライターの方が増えると、コンテンツ作成の依頼もスムーズになります。有名なブロガーにバズコンテンツの作成を依頼したとしても、相手が書きたくないと思ったら結構な値段になるかもしれませんし、評判を大事にする人であれば、断られる可能性だってあります。一方で、ライターにとってイメージのよいメディアであれば、依頼したら喜んで受けてくれるといったケースもあります」
古澤「なるほど。ライターが『私も書きたい!』と思う理由を、横関さんはどのようにご覧になりますか?」
横関氏「街に関しては、誰でも過去を持っていますよね?」
古澤「はい、僕も持っています」
横関氏「だから『私も書きたい!』感が出やすいのだと思います。例えば、面白い記事を掲載しているメディアがあったとしても、そこで扱うテーマが今まで全く触れてこなかったものの場合、僕は書きたいとは思いません。一方で、街やライフイベント系のテーマは、ふと、その街を通過したときに何かしら思い出すことがあるので、『私も書きたい!』ってなりやすいんだと思います」
古澤「なるほど。僕も西船橋に住んでいたことがありますが、当時の思い出を書きたいです!」
今でこそ、数多くのライターが執筆を熱望するSUUMOタウンだが、メディアの方向性が確立されていなかった立ち上げ当初は、どのようにライターを探していたのだろうか。
古澤「メディアの立ち上げ当初、良い書き手を集めるために取り組んだことは?」
横関氏「まずは、はてなさんと一緒に取り組みを始めました。はてなさんが過去お仕事をした有名なブロガーに、SUUMOタウンの方向性を伝えてもらい、最初の5人くらいが書いた記事全てに、はてブの数が100以上付いたところで話題となり、そこからは雪崩のように『私も書きたい!』が増えていきました。僕が直接構成を見ていた最初の数人が、SUUMOタウンの方向性を決定してくれたと思っています」
古澤「なるほど。はてなさんの協力がなかった場合、どのようにライターを探していたと思いますか?」
横関氏「Twitterや、はてなのメッセージ機能を使い、直接有名なブロガーに連絡を取っていたと思います。」
構成案を作らない、書き手の世界観を活かした記事作り
古澤「記事を執筆するにあたり、構成案を作っていなかったとお聞きしております。ライターに大枠の指示だけをして、後はお任せということですか?」
横関氏「はい。最初にライターから書ける街の情報はもらえますが、それにOKを出し、後は完成したものを見るだけです。直す部分は直しますが、書き手の良さを消さないように、基本的にはその人任せでやっています。だからこそ、一人一人の世界観を活かすことができて、古澤さんにも刺さる記事に仕上がっているのだと思います」
2 アイデアの源泉は、10年後生き残れるかどうか
古澤「アフィリエイトサイトで起きている現象として、記事の同質化が挙げられます。例えば“住所変更”といったキーワードをテーマにコンテンツを作る場合は、どのサイトも似たような内容になりやすいです。一方で、街をテーマにしたコンテンツにはマネできないような面白い要素がたくさんありますが、横関さんはどのように発想しているのでしょうか?」
横関氏「未来を考え、今の時点で競合をブロックできる方法を考えています。4、5年は戦えても10年後には行き詰ってしまうテーマを扱ったとして、そこから競合がマネできないことを考えても意味がないですよね」
お金よりも知恵、人気記事にクローラーを呼び込む方法
古澤「もう一点面白いのが、アクセスとクロール頻度の関係です。『クローラーが巡ってくる頻度が高くなることが、SEOに与える影響が大きいのではないか?』と横関さんはおっしゃっていましたが、実際にそのようなお考えですか?」
横関氏「はい。傾向としてもそうなっているため、基本的に全ての記事に関連するエリアへのリンクを入れています。あくまで仮説ですが、ソーシャルでバズった記事からリンクを張ることによって、本体と呼ばれる一覧ページ(例:〇〇市の家賃相場一覧)へ有効なリンクが入っているのではないかと考えています」
Googleはソーシャルシグナルを認識しているのか?
古澤「同じくクローラーの巡回についての仮説です。Googleは、はてなを始めとしたソーシャルバズの起点となるサイトにクローラーを巡回させ、そこで多くの反応があるものに意味を見出し、そこから、はてブが付いている本体サイトの記事へたどり着くのではないでしょうか」
横関氏「はい。彼らはソーシャルを使っているとは絶対に言いませんが、使っているからこそ、最近のフェイクニュース問題があると思っています。ただ、このようなSEOのことを考えるのは僕の仕事です。編集者はあまり興味を持たないので、内部リンクとかも『貼りましょうね』と、啓蒙するようにやっています」
古澤「いわゆる『ソーシャルシグナル』といった呼ばれ方をしますが、Googleにいらっしゃった横関さんのお友達に聞かれたりしないのですか?」
横関氏「全然答えてくれないんですよね(笑)」
古澤「そうですよね(笑)ソーシャルシグナルといえば、バズ系コンテンツが得意な会社を用いた施策が4、5年前から出てきましたね。単発で300万円ほどかかってしまうため、もう少し安価に取り組むことができればと思っています」
横関氏「おっしゃる通りです。さらに、メディアの作りでバズるメディアになるか、どちらかというとバズらないメディアになるかが決まってしまうため、仕立てをちゃんと考えた方がいいです。お金よりも知恵を使った方が合理的かと思います」
3 SUUMOタウンの成功要因は、サイトの位置づけを明確にしたから
古澤「SUUMOタウンは、CVを必須の KPIに置いていたら実現していないアイデアだと思います。アフィリエイターの場合は、自分が経営者だから覚悟をすればいい話ですが、会社員という立場の横関さんは、どんな方法でSUUMOタウンの立ち上げを部長に納得させることができたのでしょうか?」
横関氏「歴史を含めたSEOの全体感を話したうえで、SUUMOタウンという案件の位置づけをある程度明確にしました。実際にSUUMOタウンに多くの人を割いているわけではないですし、大量のお金を投下しているわけでもないです。投資ができる現実的なラインで長く続けられるように、合意を得てやっています」
古澤「もし横関さんが経営者だったら、SUUMOタウンはやっていましたか?」
横関氏「当然やっていると思います」
古澤「誰も手を出していなかった領域に、少なからず投資を行う意思決定には勇気がいると思います。横関さんのお考えをお聞かせください」
横関氏「少しずるいですが、あまりお金を使わない方向で考えていたと思います。例えば、先ほどあったようなバズ系コンテンツ会社に毎月何十記事もの制作依頼を出していたら、大変な額がかかってしまいます。しかし実際には、SUUMOタウンに多くの予算はかけられていません」
古澤「確かに、想像ですが」
横関氏「想像よりもずっと安いですよ。また、僕はリスティング広告をはじめとしたWeb広告も見ており、どれだけの額が使われているかも知っています。僕が経営者だったとしたら、そのような主力集客手段にSUUMOタウンで勝とうとは考えないはずです。最少の労力をかけ、かけた労力よりかは返ってくればいいと思います」
古澤「なるほど。今日は本当に勉強になりました。また1年後か2年後にぜひお話を聞かせてください!」
編集後記:ロジカルな構成案に勝る、「実体験」と「思い入れ」の魅力
SUUMOタウンの成り立ちから、現在に至るまでに迫った今回のミエルカ勉強会。私が最も関心を持ったポイントは、ライターさんをルールで縛らず執筆の方向性を任せたことが、結果としてライターとユーザーを引き寄せるメディア作りに大きく貢献したことだ。
編集者が試行錯誤を重ねて作った構成案に沿った他社媒体の記事が、ライターが持つ“街”に対する思い入れを盛り込んだ、構成案を使わないSUUMOタウンの記事と、検索順位を争っていることも非常に興味深い。
ユーザーの知りたいことを徹底的に分析し、検索結果で上位表示を狙う記事の骨組みとなる構成案だが、実際にユーザーが探し求めていた情報は、その“街”に住んでいた人たちが見ていた、ありのままの姿なのかもしれない。
おわり
著者PROFILE
国内最大手美術品オークション会社で営業職を経験の後、FaberCompanyに加わる。現在はカスタマーサクセスチームで、MIERUCAを活用した企業の課題解決を支援している。スパイ映画とウィスキーが好き。