この記事では、オーストラリアのシドニーで11/27~11/30に開催されたSearch Marketing Summit Sydneyの3日目の模様を(登壇が終わりリラックスして参加していた)鈴木謙一がレポートします。
※市川莉緒が書いた1、2日目のレポートはこちらから
市川莉緒、4回目の海外カンファレンス登壇
3日目の目玉は、なんといっても市川莉緒の登壇です。今年4月のMeasureFestでスピーカーデビューして以来、6月のCoversion Conferece、9月のbrightonSEOと続いて、1年で4回目の海外カンファレンスでの登壇です。ホントすごい!
SEOとUXがテーマということで、GoogleのGary Illyes氏とMicrosoft BingのFabrice Canal氏も聞きに来ていました。
今回、市川が話したのは彼女の専門領域であるCRO(コンバージョン改善)、もっと幅広くとらえればUX改善です。ヒートマップを活用したUX改善が、コンバージョン率だけではなくSEOにもプラスに機能する事例を紹介します。
話が前後しますが、プレゼンの本論に入る前のアイスブレイクでは、市川は、着ていたお気に入り(?)のミエルカTシャツを参加者に見せて、「暖かいオーストラリアで可愛い夏服を着るつもりだったのに、会社の指示でこんな色のTシャツを着る羽目になった。20代女子が着る色じゃないよね」と自虐ネタで笑いをとり、お互いの緊張をほぐしていました。こうした、参加者の“聴く姿勢”を作るちょっとしたテクニックもすっかり板についてます。
まず、ヒートマップに馴染みがない参加者のためにもヒートマップの基本機能を市川は紹介します。
弊社のミエルカヒートマップは3つの機能を持ちます。
- リード ヒートマップ
- スクロール ヒートマップ
- クリック ヒートマップ
このうちリードヒートマップは、競合となるほとんどのヒートマップツール(たとえば、MicrosoftのClarity)には搭載されておらず、独特な機能です。しかしながら、非常に効果的な使いみちがあります。のちほど、詳しく触れます。
SEOを意識したコンテンツでは、3つの観点からUXを考慮する必要があると市川は言います。
1. 適切なコンテンツを適切なタイミングで届ける
2. ファーストビューは可能なかぎりシンプルに
3. キーワードの詰め込みは無意味
1つ目の「適切なコンテンツを適切なタイミングで届ける」では、弊社のオウンドメディア(このブログ)のUX改善事例を取り上げます。
先ほど紹介したリード ヒートマップを分析すると、ページ下部のコンテンツの方がじっくり読まれていることが判明しました。
そこで、ユーザーが興味を持っているコンテンツを上部に配置するように記事の構成を変えました。関心がある情報をすぐにユーザーが読めるようにするためです。結果として、ページを1回スクロールするだけで、ユーザーは欲しかった情報が手に入るようになりました。
記事構成の変更にあわせて、無料トライアルのCTAの配置と数も改良したところCVRも向上しました。さらに、直接の因果関係は定かではないのですが、UX改善後はターゲットキーワードでのランキングも上昇し1位を獲得しています。
続いて、ファーストビューを極力シンプルにすることが重要だと示す事例紹介に移ります。こちらも弊社サイトの事例です。
スクロールヒートマップを分析したところ、早い段階で離脱率が高いことが明らかになりました。サイト内の全ページにわたって共通していたため、テンプレートに使われている要素が原因ではないかと仮説を立てました。具体的には、サイドバーの製品紹介バナーです。次のような阻害要因を疑いました。
- 広告っぽくて目障りなので記事を読む気が失せる
- サイドバーの幅が広すぎて、メインコンテンツの領域を圧迫している
思い切ってサイドバーのバナーを完全に撤去したところ、離脱率が激減しました。逆にいうと、ページ下部までの滞在率が爆上がりです。
滞在率が伸びたことにより、CVRは2倍になりました。
最後は、キーワードの詰め込みがUXを悪化させていた事例です。
SEOに効果があると信じて、ターゲットキーワードを繰り返し、長い記事のランディングページがありました。離脱率が高く、記事の大部分が読まれていないことがヒートマップから明らかになりました。
重要な情報だけを残し不要なテキストを削除したところ、CTRは1.7倍に、CVRは2.9倍に増加しました。
SEOの最終目標はコンバージョンです。商品購入や資料請求、記事を最後まで読んでもらうなどコンバージョンの種類はさまざまです。コンバージョンがなんであれ、検索結果で1位を獲得してもコンバージョンしなければ意味がありません。SEOはCROと繋がっているのです。そしてCROを高めるにはUX改善が必須です。
このような観点から、実際のケーススタディをもとに、ヒートマップを活用したUX改善を市川は披露したのです。
プレゼンテーションが終わった後のQ&Aでも、多くの質問が飛び交いました(おそらく、全セッションのなかで一番多く質問が出た)。ゲイリーも、1つだけではなく、これでもかというくらいたくさん質問していました。
市川本人曰く、
Googleの人からSEOとUXの関係性の質問を受けるのは変な感じでした笑笑
とのことです。
Googleの人からSEOとUXの関係性の質問を受けるのは変な感じでした笑笑 https://t.co/n5MapNPzEr
— Rio Ichikawa (@RiRiIchikawa) November 29, 2023
SEOに取り組む人たちにUX視点の重要性を強く認識させた素晴らしいプレゼンテーションでした。
登壇を終えた市川莉緒からのコメント:
今年4回目となる海外登壇でしたが、相変わらず登壇直前はずっと緊張してました!笑実は4回とも通して全てUXやCROとSEOの関係性について話しています。
というのも、他の人の発表もこれまでたくさん聞いてきましたが、UXやCROにフォーカスした発表は結構少ないんですよね…。SEOはただ順位を上げるためのハックをするのではなくて、ユーザーを満足させてその先に自社のファンになってもらったり、サービスを購入してもらうことが本来の目的のはずだよね、ということをどうしても訴えたかったんです。一ユーザーとしても、疑問をわかりやすく解決してくれたり、欲しいものがすぐ見つかるサイトが好きですし、逆にそうなっていない機械的なものは不満を抱きます。4度目の今回は、聴講者から賛同のお声をたくさん頂けました。驚きだったのと同時に、海外のSEOでは知名度もない私の発表がこうやって世界中のSEOプレーヤーの印象に残せたのは大きな達成感を感じました。
また、GoogleのGaryは基本的に他の登壇者の発表内容は聴講しないのですが、こうやって私の発表を聞きにきてくれたり、質問もたくさんもらって全員の前でディスカッションまでして、内容を褒めてくれたのはかなり意味のあることだと思います。
今回の発表を通して、自信を持って海外でも「UXのエキスパート」として名を広めていきたいと思います。
そのほかのSEOセッションのハイライト
ここからは、3日目のその他のセッションのハイライトを共有します。
Microsoft Bing – AI時代のSEO
Microsoft Bing検索のプリンシパル プロダクト マネージャであるFabrice Canal氏は、Bing検索とBingチャット(現Copilot)の最新情報を紹介しました。
キーポイントは次のとおりです。
- Bingは、検索ボックスを拡張し、より長くて対話的なクエリを入力しやすくした。これにより、文脈や長い文章の理解が向上している。
- Bingは、無効リンクやスパムページのない、最も包括的で質が高く、豊富な検索結果を提供することを目指している
- Bingは、BARTのようなAIモデルを活用して、クエリの深い分析、最適なコンテンツとのマッチング、コンテキストに沿った回答の提供する
- Bingチャットは継続的な会話が可能で、過去のクエリも引き継ぎ、ユーザーの理解を深めることができる
- Bingは毎日120億超のユニークなURLをインデックスしており、検索クリックの12%を占めている
- IndexNowなどのツールの採用するサイトやCMSも増えている
- Bingは、古いデータのみで学習した一部のAIモデルよりも、タイムリーな検索結果を提供できる。最新情報は重要
- SEOの基本であるコンテンツの質、パフォーマンス、リンク、コンバージョン最適化は、AI技術の進歩があっても依然として重要
- IndexNowやBing Webmasterなどのツールは、SEOのコントロールとインサイトを提供する。ビジネス上の利益のために、活用してほしい
- ユーザーとそのニーズに焦点を当てる。AIは、質の悪いコンテンツや満足度の低いコンテンツを検知することができる
- Bingは、AI機能の拡張により、検索結果の質とユーザー満足度が向上していることを確認している
- Bingチャットは、より適切なクリックと高いコンバージョン率をもたらし、検索ユーザーの獲得と維持に役立つ
ありふれたものから傑作へ – 本当に優れたコンテンツを書くために必要なこと
Sam Penny氏は、ブランドの信頼とエンゲージメントを高めるために、ユーザーにとって「実用的で」「具体的で」「誠実な」真に価値のあるコンテンツを作成する方法について話しました。
キーポイントは次のとおりです。
- ユーザーの課題を解決し、彼らが喜んで対価を払う価値のあるコンテンツを作成する
- 自分の専門分野で執筆し、徹底的にリサーチを行い、必要に応じて専門家のサポートを得る
- 検索上位に表示されやすく権威を確立できる、特定のニッチなトピックから始める
- プロセスの実例や詳細なケーススタディを交え、インサイトを共有する
- 偽りなく、無理せず、自分の限界を認め、コミュニティとの交流を継続する
- いきなり全体を広げすぎたり、根拠のない主張をするのは避ける
- 一貫性と長期的な価値の積み重ねがブランドの価値を高める鍵
- 情報源を引用し、価値のある外へのリンクを張るなど、専門性を確立する
- 自分に対する周囲の認識を意識する。議論は必ずしも悪いわけではない
- ニッチ特有の言語を使っていいが、過度な専門用語や流行語は避ける
- プロモーションコンテンツは、直接的な販促だけでなく、ユーザーの情報源でもある
- 営業、顧客、外部専門家と協力して、役立つリソースを作成する
- 独自の一次データ、トレンド、コミュニティの対話を基にコンテンツを展開する
今から先取りする2024年のSEOトレンド
Amanda King氏は、2024年のSEOを予想しました。
キーポイントは次のとおりです。
- Googleはコスト削減のため、ページのインデックス登録の条件を厳しくする
- 技術的なSEO課題、特にパラメーター管理を改善してインデックス化効率を上げる
- エンティティと関係性が検索結果の充実と知識グラフの強化
- スキーマとエンティティ管理を使ってブランドとプロパティを明確に定義する
- コンテンツ制作者の専門性と経験、コンテンツ品質を高める
- 独創性と個性が欠如するAI生成コンテンツに頼らない
- Googleのアルゴリズム更新は今後も続くため、クライアント教育が重要
- 単純なランキングではなく、価値あるコンテンツの作成と幅広い配信に注力する
- インデックス化は特定のGoogleアップデートよりも技術的な問題が重要
- ページとコンテンツ、キーワードではなく、意味分析によるインデックス化
- 複数のプロパティとソーシャルプロフィールを活用してブランド全体を強化
- オンラインレピュテーション管理手法はエンティティ管理に役立つ
- Googleが自然に理解することを期待せず、必要に応じてエンティティ管理の支援を受ける
- キーワードからトピックとエンティティへのシフトが重要
E-E-A-Tに必要なものすべて
Rekha Marshは、Google の検索品質評価の枠組みであるE-E-A-Tについて深掘りします。
キーポイントは次のとおりです。
- Googleは2014年、ウェブページやサイトの専門性、権威性、信頼性を評価するE-A-Tという枠組みを導入した
- 2022年、E-A-TにはExperience(経験)が重要要素として追加された。専門性、権威性、信頼性があっても経験がなければ、評価に影響が及ぶ
- 頼構築は極めて重要。正確で誠実、安全、信頼できる情報を提供する
- YMYL(Your Money, Your Life、お金や人生に関わる重要な情報)コンテンツは、E-E-A-Tの基準が特に厳しくなる。自社のコンテンツのYMYL度合を「低/中/高/極めて高」で評価する
- 目的、著者の専門性、情報の正確さなどがE-E-A-Tの高い基準を満たしているか確認する
- レビュー、表彰/受賞、動画、組織、サポート窓口などを通して信頼を示す
- ドメインオーソリティーが高くても、各ページのE-E-A-Tには引き続き注力する
- コンテンツの検索意図(情報提供/商業/取引/ナビゲーション)に合わせて適切なE-E-A-Tシグナルを発信する
- 全てのページを見直し、経験と専門性、権威性、信頼性を確立できていことを確実にする
番外編:ゲイリー作ミエルカイラスト
ここはおまけです。
市川がセッションで自己紹介のスライドを映した瞬間に、ゲイリーが何やらペンを動かし始めました。
手元を覗くと、スライドに出ていた、ミエルカとミエルカヒートマップのマスコットキャラを真似ていました。けっこう上手です(あとで市川にプレゼントしていたはず)。
最後は、3人でセルフィーです(ゲイリーは、写真を撮るときはいつもわざと不機嫌な顔)。