【オウンドメディア成功事例】社員1人、アルバイト5人でも成長できる! 検索意図を読み取った アソビューのオウンドメディア運営術
更新日:2023.2.27 公開日:2017.02.14「SEOの知識や執筆経験がなくても、Webメディアを健全に成長させることはできます」。そう語るのは、アソビュー株式会社(以下、アソビュー)の執行役員・宮本武尊氏です。
同社はパラグライダーや陶芸教室など「遊び」の予約プラットフォーム「asoview! (アソビュー)」を運営していますが、2015年から「無料を含めたお出かけ情報も発信して、ゲスト(ユーザー)の余暇をもっと充実させたい」(山野智久社長)と始めたのがオウンドメディアでした。メディアの一つ「asoview!TRIP」でコンテンツ制作に携わる社員は1名のみ。あとは5人のアルバイトを中心に取材・執筆し、1年半で200万PV/月に達しました。施設ガイドのコンテンツが検索キーワード「上野動物園」で1位を獲得するなど “読まれるコンテンツ”を継続的に制作することに成功。電子チケット販売による収益化も順調です。ウェブアナリスト・小川卓氏が、アソビューの山野社長、宮本氏との対談で、「成長メディアを作る秘訣」を探りました。
「フロー型」と「ストック型」に分けて2メディアを運営
小川卓氏(以下小川) オウンドメディアを始めた経緯というか、御社の思いを教えてください。 山野智久氏(以下山野) 「余暇の時間の課題解決」を通じて人々の心を豊かにし、社会を幸せにしていこう、というのがアソビューのミッションです。我々がその提案をするときに、「予約・購入できる有料コンテンツが揃っている」だけが、果たしてゲスト(ユーザー/サイト訪問者)の課題解決の手段なのだろうかと。今まで集客していたアクティビティに関する検索クエリだけでは、リーチできるゲストにも限界がありました。 そこで立ち上げたのがオウンドメディアです。例えば「海外で人気の新しいお店が表参道にオープンしました」とか、極端な話ですが「スーパー〇〇で卵のタイムセールをやっています」といった情報も、広義の意味ではお出かけ意欲をかき立てて、ゲストの課題解決につながるかもしれない。こうした無料も含めた情報を発信して“リーチできる領域”と“ゲストの課題解決の総量”を増やしたいというのが、もともとの着想でした。 宮本武尊氏(以下宮本) 現在は「asoview!NEWS」と「asoview!TRIP」の2つのメディアを運営しています。「読むとお出かけしたくなる」をコンセプトに、その土地・季節ならではのイベントやグルメ、施設紹介などの情報を発信しています。 小川 2016年4月からメディアを2つに分けたそうですね。狙いを教えてください。 山野 「asoview!NEWS」は、花火大会やフェスの案内など、フロー(単発)型のニュースを発信しています。一方、「asoview!TRIP」は、各レジャー施設や観光スポットの魅力を掘り下げたストック(長期)型のコンテンツが専門です。
小川 なるほど。瞬間型の記事とストック型の記事、どちらも大切ということですね。ちなみに、サイト規模は今どれぐらいですか? 宮本 月間約200万PVです。レジャー業界は8月が繁忙期ですが、2016年夏のセッション数は前年比の約2倍、メディア開始時と比べて約10倍に増えました。
「目的は検索上位じゃない」。疲弊したメンバーを救った解決策
小川 どんな体制でコンテンツを制作していますか? 宮本 最初の半年は、社員2人+外注ライター5人でフロー型ニュースを1日5~15本リリースし、100万PVまで伸びました。そこで2015年9月頃から、社員2人+アルバイト4人+外注ライター15人に増員。「東京x観光」「新宿xグルメ」などのビッグワードに挑戦し始めたんです。「東京○○、20選!」なども含め、1日最大30本ほど投稿しました。 小川 ビッグワードのまとめコンテンツは、流入増が狙えそうですね。 宮本 ところがこれは大失敗でした。人員が少ない中で「検索上位を狙う」という手段が目的化してしまったんです。結果、内容が薄い・品質の低いコンテンツが大量に生まれてしまい、校正の負荷は増大。コンテンツ公開後も、検索順位に反映されるまで時間がかかるので、結果がすぐ出ません。みんなイライラして、チーム全体の士気が低下してしまったのです。これを打開しようと始めたのが「現地取材」でした。 小川 なるほど。SEOは大切だけど、そのためにコンテンツを作っているわけではないですからね。そこを「取材」で打開をするという判断ができたんですね。
「asoview!TRIP」が現地取材にこだわるワケ
小川 確かに「asoview!TRIP」は取材記事がとても多い印象ですね。検索キーワード「上野動物園」で1位になったコンテンツ(※1)なんかは、自分がまるで現地に行って見て回っているみたいに読める。臨場感があります。新規投稿の何割が取材記事ですか? 山野 現在は約7割です。取材を始めた理由は、「我々は情報メディアであって、キュレーションメディアではない。競合は大手レジャー雑誌だ。我々がそこと差別化するには、圧倒的な情報量はもちろん、質の高いコンテンツで、ユーザーの知りたいことにしっかり答えるべきだ」という本質に立ち返ったからです。 実は、我々が予約サイトで取引をさせていただいているパートナーさんの施設では、せっかく面白いイベントをやっているのに「手が足りなくて事前にWeb告知していなかった」ということも多いんですよ。ゲストからするとそれって、喉から手が出るほど欲しい情報だったりすることもあるわけで。この「実は」という情報を、施設の魅力を熟知した我々が取材して発信することで、情報拡散のハブになれるのではと考えました。
小川 チームのモチベーションは変わりましたか? 宮本 はい。一番大きく変わったのが、編集メンバー全員が「この情報はユーザーにとって価値のある情報なのか?」「読んでお出かけしたくなるか?」をベースに会話できるようになったことです。ユーザー満足が起点だと、企画も取材もこんなに楽しいのかと(笑)。「現地で詳しい人に話を聞けば、基本、ユーザーが知りたいことはカバーできるはず」と始めた取材ですが、結果、トラフィック拡大にもつながったのです。 ただ、課題もありました。取材をしても全然検索順位が上がらないコンテンツもあったのです。当時は評価の術がなく、メンバーと「これ、結局なんで(順位が)上がらないんだろうね?」と、原因を深掘りできないままでした。
丸1日かけていたキーワード分析を自動化し、工数が激減
小川 せっかく「取材記事」というオリジナリティあるコンテンツを書いているので、大勢の方に読んでいただきたいですよね。書く前に、キーワードの調査はされていたんですよね。 宮本 もちろん戦略は立てていました。取材前に僕が検索上位サイトを一つ一つ見て、ユーザーの検索意図や、その場所へ行く動機を読み取って、「こういうことを取材しようね」と話はしていたんです。 けれど、完全に自分の手と頭を使ってやる調査なので、丸1日とか、ものすごく時間がかかりました。その調査方法をアルバイトにフィードバックしようにも、みんな覚えきれず、引き継げない。「これは横展開でスケールできないな…」と相当悩んでいました。 小川 なるほど。ある程度スキルある人なら、キーワード調査も手作業でやってできなくはない。でも、その作業ボリュームと、投入したいコンテンツ本数を比較すると、なかなかそこまでの手間はかけられないですよね。 宮本 おっしゃる通りです。だからTwitterで、MIERUCA(ミエルカ)というツールの使い方を知った時、「ああ、これだ」と。あまりにも僕たちの悩みにドンピシャだったため、無料トライアルすらせずにすぐ導入しました(笑)。 小川 具体的には、どう使っていますか? 宮本 企画段階で使うのが「サジェストキーワードネットワーク(以下、SKN)」です。Googleのサジェストキーワードからユーザーの検索意図を分析して、数秒でグルーピングして見せてくれる機能です。 例えば先ほどの「上野動物園」のSKNを調べると、「営業時間や入場料、アクセスは?」「パンダ、カピパラ、爬虫類などについて知りたい」といった、検索ユーザーの意図を確認できます。
出現回数 | ワード | 出現回数 | ワード |
---|---|---|---|
46 | パンダ | 4 | スカイツリー |
23 | 開園 | 3 | ハシビロコウ |
31 | 東京 | 3 | いくら |
5 | 園 | 3 | プラン |
23 | ゾウ | 4 | 子供 |
21 | 無料 | 2 | 駐車場 |
27 | 日本 | 2 | 入場料 |
13 | 無料開園日 | 3 | 車 |
10 | リーリー | 2 | 高崎 |
32 | 西園 | 2 | 電車 |
8 | 飼育 | 1 | 東京観光 |
39 | 東園 | 1 | 往復 |
22 | ジャイアントパンダ | 2 | 出口 |
11 | 駐車場 | 2 | 弱 |
10 | パンダ舎 | 2 | 無料 |
17 | おすすめ | 2 | 昼食 |
宮本 これらを踏まえて、社員が「こんなテーマを取材して、こんな流れで書いて」とアルバイトに指示する構成案を作ります。取材の結果、「2時間で楽しむ」といった独自の切り口や、取材しなければわからなかった情報などを織り交ぜて、実際に園内を歩いているようにガイドするコンテンツに仕上げました。 小川 なるほど。検索意図から逆算して、取材ポイントを共有できるようになったんですね。この持参するという方式はすごく良いですね!取材時の質問の聞きもれもなくなりそうですし。この方法に変えて、どのぐらい工程や時間が縮まりましたか? 宮本 めちゃめちゃ縮まりました。ミエルカ導入前は取材から記事の投入まで3、4日かかっていました。でも今は、僕が人力で事前調査する必要はありません。1本作るのに都合1日もあれば終わるようになったんです。 社員1人+アルバイト5人で首都圏の取材をし、遠方は外注ライターに依頼する体制で、1日最大6本投稿しています。 小川 SKNである程度、検索意図がグルーピングされていると、「このテーマ群で●本作った方がいいね」とかも、わかるようになりますよね。 宮本 そうなんです。先ほどの「上野動物園」のSKNでいうと、「パンダ」がめちゃめちゃ強かった(笑)。なので、テキスト内で「パンダ」について語りすぎると、多分キーワードに偏ってしまうと考えて、1本、別コンテンツも制作しました。
検索意図からずれずにコンテンツを生み出す“虎の巻”
宮本 ミエルカで分析を自動化して気づいたのですが、取材側の思い込みと、ユーザーの検索意図とのずれってけっこうあったんだなと。例えば「八景島シーパラダイス」って、施設を知っている僕たちからすると「遊園地+水族館」ですけど、SKNで見ると、もう完全に「水族館だけ」のイメージなんですよ。 小川 確かに、名前からしても遊園地があるとか、事前にあんまり分からないですよね。私も遊園地があることを今知りました! 宮本 はい。「僕たちは遊園地の魅力を取材するつもりだったけど、水族館の部分をきちんと訴求しないと、読んでもらえるコンテンツにならないね」と、取材前に分かるようになったんです。検索意図を客観的に、数秒で調べられるようになったのは大きな変化でした。 小川 効果検証で「書いたものがずれていたな」という場合は、リライトするんですか? 宮本 そうですね。「上野動物園」のコンテンツは50位から1位に行くまで3回ほど改修しました。サイト構造を変えたのも大きかったのですが、改修ごとに効果が出て、検索順位が上がっていきましたね。ここ2、3ヵ月は、新規投稿より、過去コンテンツのリライトの比率が高いぐらいです。 実は以前は、リライトなんてしてなかったんですよ。どこをどう直していいかはっきりわからなかったので。でも今は、ミエルカでユーザーニーズの網羅性などの品質チェックから、Google Search Consoleとデータをひも付けた順位計測・分析までできるので、リライト施策も回るようになりました。
小川 私がオウンドメディアを分析する時は、よく「初月率(コンテンツのPV数のうち何%が公開から1ヵ月間のPV数なのか)」という評価ポイントを見ますが、効果検証はどのタイミングでしていますか?
宮本 投稿や施策から1ヵ月半後です。ミエルカを見ると、「ここはゲストが興味を持っているはずだけれど、深掘りが足りないのでは?」とか、「コンテンツの文章と写真自体はいいはずだ。だから構成で読みにくさを解消しよう」とか仮説が立てられます。 しかもそれを、チームの誰もが同じようにできるのが大きいですね。同じコンセプトで改修したコンテンツが、軒並み検索10位以内に入ったときはすごい手ごたえ感じました。 小川 ほかのコンテンツにも応用できる気づきを手に入れられたってことですよね。コンテンツやSEOの知見がそれほどない人にも横展開できる“虎の巻”のような感じの。 宮本 まさにそうです。「メンバーと共通認識が持てた」ってところが一番うれしかったですね。全員「事務」で採用したので、SEOの知識も執筆経験もありません。それでもミエルカがあれば、しっかりと結果が出せる。いまメディアに投入しているコンテンツは約10,000本。SNSとかでバズを集めるような施策はしていないのに、約30%が狙ったキーワードで検索10位以内に入るようにもなりました。
作業効率化で「ユーザーに向き合った仕事」を
小川 お出かけというと、「事前にPCで調べるけど、外出先ではスマホを使う」というユーザーが多いと思います。アソビューさんのサイトも、スマホが多いですか? 宮本 圧倒的に多いです。なので、ある程度読まれるコンテンツになったら、ミエルカのヒートマップツールを使ってユーザビリティを高める施策をしています。「どこまで読まれているのか」「この位置にあるボタンは押されているのか」を調べて、コンテンツ構成やボタン配置を再設計することは、スマホでは特に重要です。 最近はコンテンツ構成を改善すると、検索順位が上がるケースも増えています。 小川 これからのコンテンツマーケティングは、そこまで見なければいけないってことですよね。 宮本 そうしないと結局、ユーザーの満足度を最大化できないと思うんですよ。目的がSEOだけなら、ちょっと面倒ですが、ほかのツールを複数組み合わせても対策できる。でもミエルカはSXO(Search EXperience Optimization=検索ユーザー体験の最適化)のための計測・分析・改善がこれ1つでできるのが魅力です。ユーザーが余暇の課題を解決するために網羅すべきトピックやテーマを“見える化”してくれる。だから、調査や分析などの作業に時間をかけず、「ユーザーに向き合った仕事」ができるんですよね。おかげでブラウザの数も激減しました(笑)。
電子チケット販売の25%がメディア経由に。今後の目標は?
小川 今後のサイトの目標を教えてください。
山野 今はまだ売上より、オーガニックからどれだけメディアにゲストを集められるかに重きを置いています。「お出かけしたい」「観光に行きたい」というゲストって、まだまだ我々のサイトユーザーの10倍以上いるのではないかと思っているので。 ただ、2016年の6月から試験的に、温浴施設やレジャー施設の電子チケットの販売も始めました。すると、夏の繁忙期は、新規販売件数のうち25%がメディアのコンテンツ経由という結果になりました。
小川 すばらしい。きちんと読まれるコンテンツに育ててから、施設側にチケット販売の場として開放することもできますね。 山野 情報発信をしたいパートナー様にとっても、自分たちの魅力を客観的に伝えてくれるメディアがあって、最新情報をアップデートしてくれる、さらに販売にも結び付けられる、という点に安心感を持っていただいています。これからもパートナー様のご協力をいただきながら、ゲストの「余暇の課題解決」ができるメディア運営をしていければと考えています。 宮本 集客を最大化した後は、ゲストのライフスタイルに溶け込むことにチャレンジしたいです。普段はメディアで発信するイベントや温浴施設などの身近なお出かけ情報をリピートしてもらい、アクセス解析+CRMを組み合わせてコミュニケーションし、月1回はアクティビティを予約してもらう、といったユーザーを増やしていきたいです。 小川 となると、今おっしゃったように再訪率や回遊率は重要になってきますね。コンテンツがアップされたらプッシュ通信を送ったり、コンテンツのページネーションの3ページ目を次のコンテンツにしてしまって、自然に次に誘導するとか。「asoview!NEWS」と「asoview!TRIP」の今後に注目ですね。今日は大変貴重なお話ありがとうございました。
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著者PROFILE
ミエルカ研究所は、人工知能と言語処理の力で、「言葉」の持つ可能性を追及、研究していくための研究所です。
SEO&コンテンツマーケティング・オウンドメディア支援ツール「ミエルカ」を提供するFaber Companyが母体となってます。