競合調査は、これから自社サービスや商品をより有利な状況で成長させるために非常に重要な取り組みです。競合調査の有無によって成果が大きく変わる場合もあります。
とくに新規事業やサービスを新しく作る、もしくは今ある事業やサービスを大きく方向転換するという場合に競合調査の実施やその精度は成功確率を上げる大きな要因になります。
競合調査の大きなメリットは、他社の成功要因や自社との差分を可視化し、どうすれば自社が市場でシェアを確保出来るかをある程度予測出来る点にあります。また、競合が手を出していないが自社の強みが有利に働くジャンルが発見できる可能性もあります。
もし競合調査を行わずにやみくもに自社サービスや商品を開発していった場合、当初描いていたサービスは既に他社が提供していて、圧倒的なシェアを獲得しているという事が起こりえます。
ただし、競合となる企業や製品を手当たり次第に調べればいいというものではなく、より意味のある競合調査にするための目的の設定や、調査方法、プロセスがあります。この記事では競合調査の効果的なやり方、メリット・デメリット、実際に競合調査してみた事例、フレームワークをわかりやすく解説します。
参考記事:競合分析やってみた。デジマにおけるやり方、分析項目やフレームワークを実例で解説。
競合調査とは
競合調査とは、自社と同じまたは似ている商品・サービスを提供している他社や商品・サービス(=競合)を、さまざまな視点から分析し、競争優位性を確立する方向性や戦略を明確にすることです。
競合調査の目的
競合調査は、主に以下2つの目的で実施されます。
相対的な自社・自ブランドの強みや弱みを明確にし、最適な事業戦略やマーケティング戦略を策定するため
自社・自ブランドの商品が顧客から選ばれるには、競合との競争に勝つことが重要です。競合調査には客観的な視点が必要です。なせなら自社視点で強みだと思っている経営資源だとしても、客観的に見れば競合他社と比べて相対的に劣っている場合、それは強みとなり得ず、場合によっては弱みとなる可能性があります。
客観的な視点で強みや弱みを分析するには定量的な評価を行うことも重要です。分かりやすい項目としては、売上や営業利益など、競合事業がその領域でどれだけの規模でビジネスを展開しているか分かれば強み・弱みを把握する上で参考になるでしょう。
競合との客観的な比較により、自社にとって何が強み・弱みなのかを第三者目線で把握することにより、「どのような強みを活かせば競争優位に立てるのか」や「優先的に解決すべき課題は何なのか」が明確となるでしょう。
競争優位性の高い商品やサービスをつくるため
競合に勝つには、優位性の高い商品やサービスを作ることも大切です。競争優位を確立する上で重要なのが「競合との差別化」です。
差別化をしなければ、が重要である理由は、多様にある競合ブランドの中で自社の商品が埋もれてしまい、売上を伸ばせなくなってしまいます。埋もれてしまうリスクがあるためです。たとえば、独自の技術(強み)で質の高い商品を作っても、他社製品との間で明確な違いが認識されなければ、お客さんにとって自社商品をわざわざ購入する理由は生じません。
顧客に自社商品を購入してもらうには、デザインやプロモーションなど、何かしらの観点で競合との間で明確な違いを打ち出す必要があります。そのために、まずは競合調査・分析によってライバルを知ることが求められます。
競合調査の項目
主な調査項目として下記が挙げられます。
調査項目 |
具体的な内容 |
経営戦略・ビジネスモデル |
事業内容や経営ビジョン、強み(競争優位性の内容)など |
商品・サービス |
機能、品質、価格、デザイン、接客対応など |
集客・プロモーション |
|
競合調査のやり方・プロセス
競合調査は、以下の流れで行うことが一般的です。
この章では、各手順で行うことを解説します。
手順1:目的の明確化
競合調査を行う際、まず目的を明確に設定します。目的が曖昧なままだと、調査範囲が広がり、時間やコストが無駄になるリスクがあるためです。たとえば「マーケティング戦略の見直し」などと目的を明らかにすることで、必要最低限の調査項目に絞れます。
また、調査結果の活用方法も同時に明確にしておくと、より一層売上や利益の増加といった成果につながりやすくなります。
具体的には以下のような活用方法があります
・新規事業・サービスづくりに競合調査の結果をフィードバックさせてより良いものにする(例:競合では実施していない業界専門性の高いカスタマーサポートを提供する)
・リスティング広告やディスプレイ広告で配信するLPのメイン訴求メッセージを競合調査の結果を見て競合優位性の高い内容に改善する(例:競合よりもコストが安いことが分かれば、コストを強調した内容にする)
・SEOのキーワード選定において競合調査の結果を見て、自社の優位性が発揮しやすいキーワードを選ぶ(例:自社でニッチな領域の人材紹介を行っているのであれば、人材紹介全体のニーズを狙うキーワードではなく、ニッチな領域に絞ったキーワードを選定して上位を狙う)
手順2:調査対象となる競合の選定
次に、調査対象となる競合を選定します。
自社と同じ商品・サービスを提供する「直接競合」だけでなく、商品は違うもののターゲット顧客や提供する価値に共通点がある「間接競合」も選定の候補とすることで、より目的や目標達成に合致する対象を選定しやすくなります。
例えば、自動販売機で販売する缶コーヒーを製造する企業であれば、同様に缶コーヒーを製造する他社だけでなく、緑茶やココアなど、自動販売機で売られている他の商品を製造している企業も競合として認識する必要があります。自動販売機で商品が並べられた時に、緑茶やココアなどに比べて自社の缶コーヒーに魅力を感じてもらえなければ、消費者に購入してもらえないからです。
また、成功している企業・ブランド(業界大手や成長性が高い企業など)だけでなく、マーケティングの手法や戦略が類似する、業績不振の企業・ブランドを分析すると、やってはいけない・NG事項が見つかるかもしれない点でおすすめです。
手順3:仮説設定および調査項目の決定
調査の目的と対象を決めたら、競争優位性を確立するための仮説を設定します。たとえば「〇〇というバリュープロポジションを訴求していくことが優位性につながるだろう」などと仮説を考えて、これを検証するために競合調査を実施します。
仮説を設定したら、それに基づいて重点を置く調査項目を検討します。たとえばプロモーション施策の改善が優位性につながると考えた場合、競合他社のSNSやWebサイトの各種指標(フォロワー数やアクセス数など)や運用方法、UX/UIなどが重点的な調査項目として考えられます。
手順4:競合調査・分析の実施
仮説を立てたら、それに基づいて競合調査・分析を実施します。
主な方法として、インターネット調査や社員へのヒアリング、市場・顧客の調査、競合サービスの利用などがあります。これらの調査を通じて、自社と競合を比較し、仮説が正しいかどうかを検証します。
調査結果をもとに、差別化戦略が有効かどうかを確認し、戦略の方向性を再評価します。もし仮説が成り立たなければ、新しい仮説を立てた上で再度調査を行います。仮説が正しい場合には、競争優位性の確立に向けて、調査結果に基づいたマーケティング戦略や施策を検討・実施します。
競合調査を行うメリットとデメリット
競合調査を行うメリットとデメリットを簡単に紹介します。
メリット
競合調査のメリットを一言で表すと「競争優位性の確立」です。細分化すると、以下3つのメリットがあります。
- 自社の相対的な強みや弱みを把握できる
- 差別化された商品やサービスを生み出せる
- 想定していなかった競合や新規参入者などを把握できる
デメリット
一方で、競合調査では以下2つのデメリットに注意が必要です。
- 調査にコストや労力がかかる
- 明確なゴールがない(事前に調査の目標を明確化しないと、労力やコストが増え続ける)
これらのデメリットへの対応としては、競合調査のためのリソースや時間を事前にきちんと確保したり、目標やどこまで調査を行うかという範囲等を事前に明確にしておくことがおすすめです。
競合調査の実施例~ラーメン店競合調査をやってみた~
では実際に競合調査を記載した手順で行い、実践してみた例を紹介します。
今回は筆者が愛してやまないラーメンを題材に「新規ラーメン事業を成功させる」という目的を設定し、新規ラーメン事業を立ち上げる事業責任者の視点に立ち、競合調査を実施したいと思います。
参考記事:競合分析やってみた。デジマにおけるやり方、分析項目やフレームワークを実例で解説。
目的:新規ラーメン事業を成功させるため
この調査は新規ラーメン事業を成功させるために行います。
顧客満足度が高く、競合優位性を担保し、ビジネスの成長を継続できる事業を目指します。
ラーメン業界は競争が激しく、新店のレベルも年々上がっています。
競合調査を行わずに店舗を開店すれば、すぐに店舗経営が厳しくなることが予想されます。
それらを事前に防ぐため、できるかぎり事業の成功確率を上げるべき競合のラーメン店調査を行いたいと考えます。
調査対象となる競合の選定:①町田商店を経営する株式会社ギフトホールディングス②一風堂を経営する株式会社 力の源ホールディングス
次に、調査対象となる競合企業を選定します。今回は近年急成長中の横浜家系ラーメンチェーン「町田商店」を経営する株式会社ギフトホールディングスと、老舗の博多ラーメンチェーン「一風堂」を経営する力の源ホールディングスを比較します。比較的新しい業態である町田商店と、老舗である一風堂を比較することで、ラーメン事業を成功させるヒントを得る狙いです。
仮説設定および調査項目の決定:町田商店が圧倒的な競合優位性を築いているのではないか、その要因を知ることが新規ラーメン事業の成功につながるのではないか
町田商店が近年大幅に出店を伸ばしており、ビジネス的にうまくいっているのではないと予測している。決算資料などの数値を調査することで、そのビジネス的優位性が明らかになるのではないか。その優位性を参考に新規ラーメン事業を考えるヒントにしたいと考えました。
競合調査の実施結果
今回の調査では確実性の高い定量データである決算資料を元に、2つの競合を調査比較していきました。
企業名 |
株式会社ギフトホールディングス |
株式会社力の源ホールディングス |
代表的なラーメン業態 |
横浜家系ラーメン町田商店 |
博多一風堂 |
代表的なラーメン店の創業年月 |
2008年1月 町田商店創業 |
1985年10月 博多一風堂創業 |
決算期 |
2023年10月期 |
2024年3月期 |
売上高 |
22,982百万円 |
31,776百万円 |
営業利益 |
2,352百万円 |
3,296百万円 |
売上高成長率 | ||
営業利益率 | ||
店舗数(国内) |
町田商店 149店舗(2024/08/21時点) |
一風堂 50店舗(2024/08/21時点) |
店舗数(国外) |
町田商店 10店舗(2024/08/21時点) |
274店舗(2023年12月時点) |
代表的なラーメンのジャンル |
横浜家系ラーメン |
博多とんこつラーメン |
代表的なラーメンのカスタマイズ性 |
味の濃さ・脂の量・麺の茹で加減を選べる |
麺の茹で加減を選べる |
出店エリア |
ロードサイド中心の出店 |
市街地へのドミナント戦略出店 |
競合調査から分かったこと
今回の調査では事前の仮説では株式会社ギフトホールディングス(ギフトHD)が圧倒的な競合優位性を発揮し、売上、営業利益ともに株式会社力の源ホールディングス(力の源HD)を上回っているのではないかと予想していました。しかし、実際に決算を元に定量的な競合比較を行うと、売上、営業利益共に力の源HDの方が上回っていることがわかりました。
売上成長率はギフトHDが上回っているものの、営業利益率については僅差で力の源HDが上回っていました。この調査結果は意外なものでした。
普段生活して目に入りやすい国内の出店の様子だけを見ているとギフトHDが破竹の勢いで出店しており、町田商店の出店攻勢は一風堂を上回っていると感じていたからです。
しかし、競合調査を行って分かったことは力の源HDの海外での強さです。
ギフトHDの町田商店海外10店舗に対して、力の源HDは海外274店舗となっています。
現在は円安傾向が続いていますから、外貨を稼ぐ一風堂の強さが出やすい市況感とも言えます。
現在、日本のラーメンは海外から注目されています。一風堂だけではなく、一蘭や、ラーメン凪など国内の名だたる名店が海外に出店を続けています。
力の源HDの決算の結果はこの海外展開の売上や利益も加わった数字であることが特徴的です。
この競合調査から、今回得られた示唆は以下です。
・ラーメンにおいては海外売上が売上や営業利益を押し上げる可能性がある
・国内で出店を多く行ったとしても、営業利益で海外に展開している企業に負ける可能性がある
・最初から海外展開を目指すラーメン事業を作るつもりで事業を立ち上げる
・そのためには、現在受け入れられている豚骨ラーメン以外にも海外で受け入れられるラーメンジャンルを特定・開発する必要がある
このように競合調査を行うことは、日常的に自分が主観的に得ている情報を元にバイアスがかかっている状態を取り除いて、純粋に数字を見ることでもあります。
元々立てていた仮説とは違った答えにたどり着くことも多くあります。それ自体が競合調査を行う価値の一つでもあります。
今回の場合で言えば、目につきやすい国内の出店ばかりに目がいきがちで、海の向こうで行われている一風堂の海外事業開発には気付くことができていませんでした。競合調査を行うことで初めて、一風堂の海外事業の強さを知ることができました。
もしこのままラーメン新規事業を開発し続けるならば、この競合調査で得られた結果を下に、海外展開を視野に入れた新規事業を立ち上げていくことになるでしょう。それは競合調査を行う前とは違う展開であり、このような仮説検証を実際に商品やサービスを展開する前に行えることが、競合調査の大きなメリットの一つでもあるのです。
競合調査のフレームワーク3選
フレームワークの活用により、効率的に競合調査を行えたり、調査の質を高めたりすることにつながります。本章では、競合調査に役立つ3種類のフレームワークを紹介します。
3C分析
「Customer(市場・顧客)」、「Competitor(競合他社)」、「Company(自社)」という3つの要素をもとに、ミクロ視点での外部環境と自社内部の環境を分析するフレームワークです。企業側の視点で分析する際に有効なフレームワークであると言えるでしょう。各要素の具体的な分析内容は以下のとおりです。
分析対象 |
主な分析内容 |
Customer(市場・顧客) |
|
Competitor(競合他社) |
|
Company(自社) |
|
市場・顧客や自社内部の環境と併せて分析することで、多角的な視点から、より深く競合の実態を把握しやすくなります。また、競合の分析結果を踏まえて、自社が取るべき差別化の方向性を明確にしやすくなります。
4P分析
「Product(商品)」、「Price(価格)」、「Place(流通)」、「Promotion(販売促進)」という4つの要素をもとに、競合他社のマーケティング戦略を分析するフレームワークです。3C分析に比べて、消費者の観点から分析できるフレームワークであると言えるでしょう。具体的には、以下の内容をくわしく把握できます。
分析対象 |
把握できる主な内容 |
Product(商品) |
どのような品質やデザインなのか |
Price(価格) |
どのくらいの価格で売っているのか |
Place(流通) |
どのような場所・方法で販売しているか |
Promotion(販売促進) |
どのような方法で商品を顧客に知ってもらっているのか |
競合他社のマーケティング戦略を多角的な視点で把握することで、自社に足りていない部分(弱み)や、競合に優位性を築けている部分(強み)が明確となります。なお、顧客視点で戦略を分析する4C分析も有用です。
SWOT分析
内部環境の「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」、外部環境の「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」を分析するフレームワークです。
競合他社をSWOT分析することで、競合の強みや弱みを可視化できます。また、自社を対象にSWOT分析すると、競合や外部環境を踏まえた自社の強みや弱み、直面しているチャンス(機会)やリスク(脅威)が明確になります。
なお、SWOT分析の各要素を組み合わせれば(=クロスSWOT分析を行えば)、想定される環境ごとの戦略を複数検討することも可能です。
まとめ
私もこれまで幾度となく新規事業やサービスの立ち上げにマーケターとして携わる中で、後から取り返しのつかないことが多いのが最初の競合調査の有無でした。
事業が立ち上がってかなり経過してしまった後から、類似企業が多くすでに参入している業態であることに気付いたことや、実は気付かない競合が類似サービスを出しておりいつの間にか市場を席巻してしまっていたこと、自社の強みが最初から無かったことなど、今思えば最初に競合調査を行えば気付けたことでした。
実はこういった競合調査では海外では当たり前に行われていることで、リサーチ専門の会社も多く存在します。新しくその市場に参入するのであれば、その業界の専門家などに競合調査を行うのは日常的なことです。
逆に言えば、国内においては、競合調査を徹底的に行い、新規事業やサービス開発を行うことは、それ自体が優位性になり得るということになります。
事業やマーケティングの成功確率を上げたいのであれば、競合調査は徹底的に行うことをおすすめします。
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