マーケティングの現場で「カスタマージャーニー」と聞いて、言葉の意味から顧客のフローみたいなものを思い浮かべたのではないでしょうか?カスタマージャーニーとは、直訳すると「顧客の旅」という意味で、顧客が製品・サービスと出会い、そこから購入・契約に至るまでの道筋のことです。これを描いて可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」と言います。ここでは、カスタマージャーニーとは何か、何のために実施するのか、どんな効果があるのかなど基本を解説します。コンテンツ後半では、筆者なりの考え方や作る手順を初めての方にもわかりやすく説明しています。
カスタマージャーニーって何?
カスタマージャーニーは顧客の道筋をイメージし、描いて可視化することや、その概念を意味します。その可視化した図を「カスタマージャーニーマップ」と言います。
誰が始めたの?
製品・サービスとの出会いから購入・契約、その後の継続利用に至るまでの消費者の体験(感情・行動)すべてをカスタマーエクスペリエンス(CX)と言い、その設計の中で「カスタマージャーニーマッピング」は登場します。1998年ごろからすでに使われていたフレームなのです。
Wikipedia:Customer Experience
その後、マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラー(Philip Kotler)氏の著書「マーケティング4.0」でも詳しく紹介されました。日本でもこのフレームワークが流行したのはマーケティング4.0発売以降ではないでしょうか。
カスタマージャーニーを理解するのに最適な書籍だと思います。ぜひご一読ください。
なぜ必要なの?目的と活用法
見込み顧客・顧客との接点を洗い出し、フェーズごとにどんなアプローチを行なうべきか、考えるためにカスタマージャーニーを活用します。現在行っているマーケティングコミュニケーション施策の目的を整理して見直すときにも活躍します。フェーズごとの施策とその効果、つまりユーザーにどんな態度変容を促したいのかを整理するためのフレームなのです。
初回接触から顧客化、ファン化するまでさまざまな施策でユーザーとコミュニケーションを行いますが、その施策すべてを一人の担当者で行なうことは稀です。多くの企業では「マス広告」「Web広告」「SEO」「SNS」「オフライン施策」「メルマガ」など、各担当に分かれて施策を打つ上、「広告宣伝」「Webマーケティング」「営業」「広報」など別の部署に関わることもあります。全体図としてカスタマージャーニーを共有することで、チームが違えど意識合わせして活動することができます。
そして、カスタマージャーニーを描いた「カスタマージャーニーマップ」は、作ること自体が目的ではありません。カスタマージャーニーマップを描いてメンバーで共有することによって、施策の抜け漏れや目的のズレを発見し、調整することができるためのツールとして活用します。「描いて終わり」ではなく、定期的に更新しながら活用するアイテムなのです。
「もう古い」って言われるのはなぜ?
一部では「カスタマージャーニーは現代のマーケティングに合わない」と言われることがあります。マーケティング4.0の中でもコトラー氏は頻繁に「らせん状」という表現を使っています。つまり、消費者はカスタマージャーニーのように一直線に進むわけではなく、行って戻るを繰り返すというのです。
スマートフォンが普及し、インターネット検索が快適に進化していく中、消費者が得られる情報量は以前とは比べられないほど増えました。情報過多の現在、「一直線ではない」ということが「もう古い」と言われる原因の一つではないかと感じます。
2020年にThink with Googleに掲載された「バタフライサーキット」の概念が、その「らせん」の意味について最も理解しやすいと感じたので、紹介します。検索行動上でも「さぐる」「かためる」を行き来しながら購入・契約への意思決定を行う様子が解説されています。
「さぐる」「かためる」を蝶のように行き来するバタフライ・サーキットとはなにか:バタフライ・サーキットと8つの動機
確かに消費者行動は「行き来」を行っていますが、ジャーニーマップで設計して管理したいのは「フェーズごとの施策」です。行き来しながらも、目的地に駒を進めているのだというイメージを持ちながら、活用すると良いと思います。
カスタマージャーニーマップの基本の作り方
ここからはカスタマージャーニーマップ設計の基本の作り方について簡単に解説していきます。
構成とひな型
ジャーニーマップの構成・ひな型はこのような形になります。
横軸は「フェーズ(プロセス)」
横軸には製品・サービスとの出会いから購入・契約、そして優良顧客化するまでの「フェーズ」が設定されます。AIDA※1やAIDMA※2、AISAS※3などのフレームがありますが、そのまま使っても、自分たちのフェーズを定義しても構いません。筆者は毎回そのサービスに合ったフェーズを設定しています。
※1 AIDA(アイダ):消費者行動の分類。Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Action(購買行動)の4つの頭文字。
※2 AIDMA(アイドマ):上記AIDAにM(Memory)が加わったもの。Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(購買行動)の5つの頭文字。
※3 AISAS(アイサス):上記AIDMAにDesire(欲求)がSearch(検索)に変わり、Memory(記憶)が消えて後ろにShare(共有)が追加された新しいモデル。Attention(注意)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(購買行動)、Share(共有の5つの頭文字。
縦軸は「自由」
自由に決めていただいて構いません。顧客を理解するのに必要なものを設定しましょう。「行動」「感情・心理」「タッチポイント」「接触コンテンツ」「施策」などがよくレイアウトされるアイテムです。
カスタマージャーニーを設計する前に、必ず「顧客像(ペルソナ)」を作ります。ペルソナが3人いたら、カスタマージャーニーも3つ設計することが必要です。
☑︎関連記事:コンセプトとペルソナの設計
カスタマージャーニーマップを作る手順
カスタマージャーニーマップを作る際はペルソナ設定から始めます。ここでは簡単な手順だけ説明します。
- 1.ペルソナ設定
- 2.フェーズ定義
- 3.ペルソナの行動・心理の書き込み
- 4.対応施策(接触コンテンツやメディアなど)の書き込み
- 5.不足施策の把握とTODOリストの作成
- 6.改善・追記(3~5は適宜見直す・繰り返す)
おおむねこの手順で進めます。カスタマージャーニーマップは作って終わりではなく、追加した施策を書き込んだり、顧客の心理が変わったら編集したりして常に「最新版」を維持していくものになります。(3)~(5)は繰り返し検討していきましょう。
今回は手順だけ解説しました。次回の記事で、作り方を詳しく解説いたします。
筆者は、カスタマージャーニーをコンテンツマーケティング施策を進める上でよく利用しています。コンテンツマーケティングとカスタマージャーニーは相性が良いのです。コンテンツマーケティングは購入・契約の決断に至るまで検討事項が多く、時間を要するサービスでの施策によく導入されてます。検討期間が長いサービスほど、細かい施策の目的を見失いやすいので、カスタマージャーニーを描くことが重要になってくるのです。
一歩引いて見てみると、社内全体のマーケティング施策がバラバラに機能している感覚はありませんか?
そのような時はぜひ、メンバーのみんなでカスタマージャーニーマップを作って共有してみましょう。同じ顧客を想定しているメンバーなのに意外とイメージしているユーザー像が違うなど、大きな気づきが得られるはずです。