コロナ禍以降、リモートワークが広く普及したことや事業者署名型電子契約サービスの躍進によって、企業の脱ハンコが一気に加速しました。いわゆるリーガルテックというジャンルです。2021年にはデジタル庁が発足。2022年には改正電子帳簿保存法が施行されるなど、ドラスティックに動いている業界です。
前回のHRテック業界調査に引き続き、今回はリーガルテック業界のオウンドメディアを徹底調査しました。HRテック業界と比較することで見えてきたことも。ぜひご参考ください。
調査概要
- 調査対象:電子契約や契約書作成、契約管理サービスを提供する、上場企業または資金調達実績のある企業30社。
- 調査項目:ドメイン形態、運用期間、記事本数、更新頻度、お役立ち資料の数など25項目
- 調査期間:2023年5月~6月
- 調査方法:各オウンドメディアを目視にてチェック
>> この調査をPDFでダウンロードする(フォーム入力不要)
オウンドメディアの所有率は73%
オウンドメディアの所有率は73%でした。HRテック企業は94%となっており、リーガルテック企業の方が、まだ割合としては少ないことがわかりました。
URL構造はサブディレクトリ型が8割強
URL構造はサブディレクトリ型が86%、サブドメインが9%、別ドメインが5%でした。HRテック企業と比較すると、サブディレクトリ型がやや多いことがわかります。
4割強が運営期間3年未満
オウンドメディアの運営期間は1年未満が10%、1年以上3年未満が35%となり、合計すると45%が3年未満であることがわかりました。
いっぽう、HRテック企業では5年以上が4割となりました。リーガルテック企業のオウンドメディアはHRテック企業よりも後発のものが多いことがわかります。
事実、調べる中でリーガルテック企業のオウンドメディアが2017年以降に集中していることがわかりました。リーガルテックの普及に一役買ったサービスといえば「クラウドサイン」です。2015年にリリースされた同サービスは、それまで中心だった「当事者署名型電子契約」ではなく「事業者署名型電子契約」でした。そして同社サービスの導入企業1万社を突破したのが2017年。同社が「サインのリ・デザイン」というタイトルでオウンドメディアを展開し始めたのも2017年でした。
これを機に、追随するリーガルテック企業がオウンドメディアを次々に展開していきました。いっぽうでHRテック企業は2017年より前にオウンドメディアを展開している企業が3割を超えます。この運用期間の差は、この後の調査結果にも反映されていきます。
※最も古い記事と調査時点における最新記事の、日にち差分で運営期間を推定しています。
半数以上が記事本数100本未満
オウンドメディアの記事本数は半数以上が100本未満でした。500本以上は18%。HRテック企業のオウンドメディアでは100本未満は33%、500本以上が27%となっています。これは、運用期間の長さも影響していると推測されます。
約8割が月間の更新頻度が8本未満、28本以上も1割強
1か月あたりの記事の更新本数は、4本未満が55%、4本~8本未満が25%となり、合計すると80%が8本未満となりました。
いっぽうで28本以上は15%で、HRテック企業の9%を上回っています。HRテック企業とジャンルは違いますが、後発である分を補おうとハイペースでコンテンツを投下しているオウンドメディアも一定数いるようです。
※直近3か月の公開本数を目視で集計しています。
多くのメディアが複数のコンテンツタイプを活用
調査コンテンツとインタビューを活用している企業は27%、動画コンテンツは41%、マンガコンテンツは5%でした。HRテック企業と比較すると、調査コンテンツやインタビューコンテンツはやや少なめ、動画とマンガはやや多めという結果でした。
リーガルテック系は法改正の解説など、難しい内容も多いので動画やマンガでわかりやすく解説する場合も少なくありません。ユーザー体験としてもプラスになります。
調査レポートやホワイトペーパー設置の割合が高く、メルマガ登録は少な目
ホワイトペーパーを掲載しているオウンドメディアは100%、調査レポートは32%でした。いっぽうでメルマガ登録の導線を掲載しているオウンドメディアは5%にとどまりました。
HRテック系のオウンドメディアと比較すると、ホワイトペーパーと調査レポートの掲載割合が高くなっています。このことから、リード獲得チャネルとして強く意識されていることがわかります。
3社に1社が30本以上のお役立ち資料を掲載
お役立ち資料の掲載本数として最も多かったのは10本未満で38%でした。いっぽうで30本~100本未満は24%、100本以上は10%と合計で34%が30本以上のお役立ち資料を掲載していました。HRテック企業の27%よりもやや多くなっています。
約6割がTwitterやYouTubeを活用
Twitterを活用している割合は64%、YouTubeは59%、Instagramは23%でした。HRテック企業と比較するといずれも割合を上回りました。もしかしたら、リーガルテック企業は、後発であることをうまく利用し、先行するオウンドメディアの成功パターンを積極的に取り入れているのかもしれません。
約4割が「監修者情報」を掲載
執筆者情報を掲載している割合は36%、監修者情報を掲載している割合は41%、オリジナル画像を使用している割合は95%でした。HRテック企業と比較すると監修者情報を掲載する割合が高くなりました。これは法律に関する解説など、専門的なテーマが多いことに起因しているといえそうです。
※「site:」検索で調査、および直近3か月の記事を目視で確認しています。
製品資料とお役立ち資料DL時の項目数に差異あり
製品やサービス資料をDLする際の入力項目数は、10以上が55%と半数を超えました。いっぽうで、お役立ち資料の項目数は10以上が38%となっています。
一般的に製品やサービス資料をDLするユーザーはお役立ち資料をDLするユーザーに比べ、商談化率や成約率が高くなる傾向です。そのため、しっかりと情報を入力してもらいたいという意図が見受けられます。
同様の傾向がHRテック企業でも見られたことから、オウンドメディアにおいてユーザーのDL動機に合わせて入力項目を可変にするのは、鉄板の施策といえそうです。
導入しているMAは「Account Engagement(旧Pardot)」
導入しているMAで最も多かったのはAccount Engagement(旧Pardot)で、32%のオウンドメディアで導入されていました。次いでHubSpotが27%、Adobe Marketo Engageが23%となりました。
※タグ等の状況を見て可能な範囲で判別いたしました。
まとめ:先行するメディアに学び成長するリーガルテックメディア
今回の調査では、リーガルテック系メディアが前回のHRテック系メディアと同じ傾向か、より上回る数値もあることが判明しました。主な項目は以下です。
- サブディレクトリである(リーガルテック 86%、HRテック 73%)
- 記事本数が500以上ある(リーガルテック 18%、HRテック 27%)
- 月28本以上更新している(リーガルテック 15%、HRテック 9%)
- コンテンツのバリエーションが豊富である
- ホワイトペーパーなどのダウンロード資料がある(リーガルテック 100%、HRテック 73%)
- お役立ち資料の数が30本以上ある(リーガルテック 33%、HRテック 27%)
- YouTubeチャンネルを運用している(リーガルテック 59%、HRテック 53%)
- 執筆者情報がある(リーガルテック 36%、HRテック 57%)
- 監修者情報がある(リーガルテック 41%、HRテック 23%)
- お役立ち資料とサービス資料DLの入力項目を分けている(双方分けている)
このことから、比較的後発であるリーガルテック系オウンドメディアは先行するHRテック系などを研究し、より最短距離で成果を出そうと取り組んでいることが推測されます。
では、実際にどれだけ成果(上位表示)に結び付いているのでしょうか。後編ではまたキーワードごとの順位をスコアリングし、上位表示が多いメディアと少ないメディアの差分を分析します。お楽しみに!