マーケティングとは、顧客の課題を読み解き、価値を提供するという企業の事業活動そのものです。マーケティングという言葉をなんとなく理解しているけれど、具体的な定義や実践方法についてはイメージがわかないという方も多いのではないでしょうか?この記事では定義やフレームワークだけでなく、企業の実践事例も紹介します。具体的な事例を分析することで、明日からの取り組みのイメージが湧くと思います。
目次
そもそもマーケティングの定義とは
マーケティングとは、顧客の課題を読み解き、価値を提供するという企業の事業活動そのものです。
マーケティングの定義は実はさまざまあります。近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー氏や、ジョブ理論を提唱したクレイトン・クリステンセン氏の定義などが有名です。
マーケティングの先駆者たちの定義に共通しているのは、一部門で担うものではなく企業全体として取り組むものであること。顧客の課題に対しどのような価値を生み出すのかという、事業活動の根幹をなすものであるという点です。
①フィリップ・コトラー氏の定義
フィリップ・コトラー氏は1931年生まれのアメリカの経営学者です。同氏によるマーケティングの定義は下記です。
「ターゲット市場を選び出し、優れた顧客価値をつくり出し、分配し、コミュニケーションをすることによって、顧客を獲得し、維持し、増やすための技術と知識である」
引用:コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版
コトラー氏は後述する STPや4Pなどのフレームワークを提唱した研究者です。近年では新たに「マーケティング 5.0」を提唱しています。「マーケティング 5.0」とはAIやAR、VR、IoTといったテクノロジーを活用し「カスタマージャーニーの全工程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めること」とされています。
②ピーター・ドラッカー氏の定義
マネジメントの発明者とも呼ばれるピーター・ドラッカー氏はオーストリア出身の経営学者です。彼はその著書の中でマーケティングにも触れています。
「企業の目的は顧客の創造である。~中略~企業の行為が人の欲求を有効需要に変えたとき、はじめて顧客が生まれ、市場が生まれる」
「マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。~中略~したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。」
引用:ドラッカー名言集(2)現代の経営[上]
マネジメントの祖と呼ばれる同氏らしい言葉です。マーケティングは一部門のみで担うものではないとしています。
③クレイトン・M・クリステンセン氏の定義
クレイトン・M・クリステンセン氏は「最も影響力のある経営思想家トップ50」で2度1位に輝いたことのある経営学者です。同氏は著書「ジョブ理論」において下記のように述べています。
「顧客が商品Aを選択し購入するということは、片付けるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用することである」
「本書の目的は~中略~顧客が進歩を求めて苦労している点は何かを理解し、彼らの抱えるジョブ(求める進歩)を片付ける解決策と、それに付随する体験を構築することにある」
引用:ジョブ理論
同氏はイノベーションを創出するためには消費行動の「なぜ」を解明しなければならないとしています。そのための一つの手法がジョブ理論です。
④日本マーケティング協会の定義
昭和32年に産学協同のもと創設された、公益社団法人日本マーケティング協会では、1990年にマーケティングを下記のように定義しています。
引用:マーケティングの定義│日本マーケティング協会
同協会では価値観の多様化や競争が激しい現代において「新たな価値創造を提案するマーケティング」が重要だとしていました。
そして、2024年1月には、昨今の時代背景の変化を受けて、34年ぶりにマーケティングの定義が刷新されました。
引用:マーケティングの定義│日本マーケティング協会
⑤森岡毅氏の定義
経営難にあったUSJをV字回復させたことでも有名な株式会社刀の森岡毅氏は、日経ビジネスのインタビューでマーケティングについて下記のように語っています。
引用:森岡毅が語る「売上が伸びないのはなぜか?」(前編)│日経ビジネス
マーケティングの定義について、言葉は違っても共通する点が見えてくるのではないでしょうか。それは、繰り返しになりますが顧客の課題に迫ること、そして企業全体で取り組むべきこと、という点です。
マーケティングファネルとは
マーケティングの定義の次は、「ファネル」について解説します。ファネルとは商品やサービスの認知から購入までのプロセスなどを図式化したものです。「ファネル」とは日本語で漏斗(ろうと)のことです。ファネルが逆三角形で漏斗のような形をとることからそう呼ばれています。ファネルには大きく3つあります。
①パーチェスファネル
商品やサービスの購買行動を下図のように「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」などの段階に分けて図式化します。下に行くほど母数が少なくなるため、逆三角形の形を取ります。
②インフルエンスファネル
インフルエンスファネルとは商品の購買後から「継続」「紹介」「情報発信」までを図式化したものです。下に行くほど母数が増えるため三角形になります。
③ダブルファネル
ダブルファネルはパーチェスファネルとインフルエンスファネルを合わせたものです。最近は商品の購買までではなく、その後の継続やファン化までの一連のプロセスをきちんと可視化したうえで、マーケティング戦略を練ることも一般化しつつあります。
④消費行動の複雑化とバタフライサーキットモデル
上述したファネルは「AIDMA」や「AISAS」といった消費行動モデルがベースになっています。しかしネットが普及しスマホひとつで24時間ネットからモノが購入できるようになるなど消費者を取り巻く環境は大きく変わりました。結果として、現代の消費行動は、より複雑化しています。
Googleが提唱しているパルス消費やバタフライサーキットモデルはその一例です。パルス消費とはじっくりと情報収集し購買するのではなく、瞬間的に購買行動が起こることです。
具体的な例としてGoogleは「ひどい花粉症のひとが、『花粉症の時期には沖縄に行く』というブログを見て沖縄旅行の計画を立てる」といったものを上げています。ちなみに筆者はNetflixで韓国ドラマを見ていて、UberEatsで韓国料理を頼むことがよくあります。
「バタフライサーキットモデル」もGoogleが提唱する検索消費モデルです。商品の選択肢を広げる「さぐる」検索と、絞り込み購買意思を「かためる」という2つの検索行動を蝶の羽のように行き来することから名づけられました。筆者は物件検索や中古車検索でよくします。
買う可能性は低いけどいつか購入できればなあと思いながら家や車を調べたこと、ありませんか? 消費行動は思った以上に複雑です。その前提に立ち、マーケティング戦略を練る必要があります。
参考・出典:データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント│Think with Google 参考・出典:「さぐる」「かためる」を蝶のように行き来するバタフライ・サーキットとはなにか:バタフライ・サーキットと 8 つの動機│Think with Google
マーケティングの実行ステップ
これまで見てきたように、マーケティングとは顧客の課題に対し、企業全体として価値を提供するための方法論です。この章では、その具体的な手順を紹介します。ここでは大枠の流れを理解いただければOKです。
①目的と目標を明確にする
まずは「何のためにマーケティングを行うのか」を明確にしましょう。認知拡大のためなのか、売上増加のためなのか、という違いだけでも、実施する施策の種類や順番はかなり異なってきます。目的が定まったら、「SNSのフォロワー数を〇〇万人にする」「Web経由で〇〇◯万円の売上を獲得する」といった具体的な目標に落とし込みましょう。施策を立てやすくなり、今後の計画の見通しもつきやすくなります。
②市場調査と競合分析
市場でどんなニーズがあるのかを調査したり、そのニーズに対して競合がどんな戦略をとっているのかを分析します。この調査・分析を行うことで、競合に対して差別化できるポイントがわかったり、顧客に対して何をアピールポイントとして訴求するのかが明確になるため、戦略を立てやすくなります。後述する各種フレームワークを利用すると、体系的に分析できるのでおすすめです。
③マーケティング戦略の設計・策定
市場調査と競合分析ができたら、その結果を元にマーケティング戦略を設計・策定します。マーケティングリサーチではターゲットとなる顧客、その市場規模、競合(サービスやシェア)などを調査します。顧客の課題に対し、競争優位を保ちながらどのような価値を提供するのかを明確にしていきましょう。
④テストマーケティング
新製品やサービスなどを市場に投入する前に、テストマーケティングを行うことも多いです。プレ・セールスなどと呼ばれることもあります。テストマーケティングの対象者は既存の取引先や、モニターとして一般消費者に依頼することもあります。テストマーケティングでポジティブな反応を得られた見込み顧客委に対し、β版のフィードバックを依頼するケースも少なくありません。
⑤製品・サービスの投入とプロモーション(販売促進)
マーケティング戦略をベースにプロモーション(販売促進)プランを策定し、市場に製品やサービスを投入します。プロモーションプランの策定では、どの広告を使うかという「プラットフォーム選定」の前に「コミュニケーション戦略」をきちんと叩いておいた方がいいです。具体的には、どのような悩みを抱えている顧客に対して、どのようなメッセージで態度変容を促すのか、というシナリオです。
- ペルソナ分析
- カスタマージャーニーマップ
- パーセプションフロー
⑥効果検証とPDCA
プロモーションの成果、製品やサービスの反応などを分析します。BIツールなどのダッシュボードなどで分析するだけでなく現場に赴くことが重要です。BtoCなら実際に売り場に足を運び観察します。筆者もソフトウェア会社時代は、発売日に店頭へ行くようにしていました。BtoBなら商談に同席するなどです。また顧客の声を吸い上げる仕組みや機会(アンケート、ユーザー会など)を作ることも大切です。
顧客の声をマーケティングに取り入れる仕組みがある企業は強く、後述するキーエンスはまさにその好例といえます。当社もユーザー会は積極的に開催しています。過去のレポートはこちらをご覧ください。
⑦アップデートとイノベーション
顧客ニーズや新しい競合など市場の変化に応じて、機能追加などのアップデートや新製品・サービスの投入などを行います。場合によっては組織構造そのものを変えるケースもあり得ます。
とはいうものの、必ずしも「破壊的イノベーション」である必要はありません。ニッチな機能が顧客のハートをわしづかみにすることもあるでしょう。そしてそれは深い顧客への理解から生まれます。
重要なことはマーケティング活動のなかで市場の変化(なかでも顧客のニーズ)をいち早く察知し、自らを変えていくことだといえます。
マーケティングのフレームワークや手法
マーケティング戦略策定やプロモーション戦略によく使われるフレームワークや手法、概念について解説していきます。
①4P(マーケティングミックス)
4Pはマーケティングミックスとも呼ばれるフレームワークのひとつです。先にご紹介したフリップ・コトラー氏が考案しました。4Pは下記の4つの視点からマーケティング戦略を練るための手法です。
- Product:商品や付随するサービスの提供価値
- Price:商品やサービスの価格
- Place:商品やサービスの販売方法・提供場所
- Promotion:商品やサービスの販売促進手法
②7P
コトラー氏は上記の4Pに新たに3つの要素を加えた7Pも提唱しています。4Pがどちらかというと「製品」に寄っていたのに対し7Pは「サービス」にも活用できるようにアップデートされました。
- Product:商品や付随するサービスの提供価値
- Price:商品やサービスの価格
- Place:商品やサービスの販売方法・提供場所
- Promotion:商品やサービスの販売促進手法
- Personnel:従業員やスタッフ(接客品質など)
- Process:製造や提供のためのプロセス(体験としてのプロセスも含む)
- Physical Evidence:商品やサービスの良さを裏付けるもの(パッケージやレビューなど)
③3C
3Cとは「市場(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」のことです。3C分析はこれら3つを調べることで成功パターンを見出すための手法です。対企業として行うこともあれば対商品として行うこともあります。競合分析のやり方についてまとめてみた記事もあるのでそちらも合わせてご覧ください。
- 市場:市場規模、顧客の想定母数、購買者
- 競合:売上高、シェア、顧客数、機能
- 自社:売上高、シェア、技術、人員
④STP
STPは「市場の細分化(Segmentation)」「ターゲットの抽出(Targeting)」「差別化(Positioning」の頭文字を取ったマーケティング戦略のためのフレームワークです。大きな流れは下記の通りです。
- 1. セグメンテーション:市場を細分化する
- 2. ターゲティング:狙うべき市場を決める
- 3. ポジショニング:狙うべき市場の中で自社の立ち位置を決める
例)やき鳥屋のセグメンテーション
STP分析を行うことで「誰に」「どのような訴求をするのか」を明確にできます。
⑤SWOT
SWOTは「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の頭文字を取った分析です。自社が抱える強みと弱み、市場と競合の状況による機会と脅威を整理することで、マーケティング戦略を練るためのフレームワークです。
SWOTフレームワークを活用した競合のマーケティング分析については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:競合分析やってみた。デジマにおけるやり方、分析項目やフレームワークを実例で解説。
⑥ペルソナ分析
ペルソナ分析は顧客を一人の人物としてより詳細に描くことで、商品やサービスのマーケティング戦略やプロモーション戦略策定に生かすフレームワークです。組織や外部パートナーとの共通理解が得られる点もメリットのひとつです。ペルソナ分析を行う際の注意点としては、想像だけで作らないこと。また人物像を描くだけでなく「悩み」や「課題」まで踏み込むようにしましょう。
⑦カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップは消費行動をひとつのマップに落とし込んだものです。消費行動上の顧客心理を理解し、マーケティング施策に反映するためのフレームワークです。後述するコンテンツマーケティングでもよく活用されます。こちらもペルソナ分析同様、想像だけで作るのではなく、インタビューやアンケート調査など、マーケティングリサーチで得られたエビデンスを活用するようにしましょう。
⑧パーセプションフロー
パーセプションフローは、元P&Gで株式会社クー・マーケティング・カンパニーの代表を務める、音部大輔氏が考案したフレームワークです。パーセプションとは「知覚」を意味します。見込み顧客のパーセプションチェンジ(知覚の変化)に焦点をあて、マーケティングを設計するためのものです。
当社でもFICCさまの力を借りて、勉強会を開催していただいたことがあります。
参考:パーセプションフロー®・モデル 設計サービス
カスタマージャーニーマップが「現在の顧客体験を可視化する」のに対し、パーセプションフローは「将来の理想の顧客体験」を描くものとされています。
⑨インバウンドマーケティング
インバウンドマーケティングの「インバウンド」とは「外から中に入ってくる」という意味の言葉です。インバウンドマーケティングはコンテンツなどを通じて、見込み顧客を惹きつけ、購入や問い合わせを生み出すためのマーケティング手法とその概念です。外国人旅行客を指すインバウンドとは異なりますので注意してください。インバウンドの反対はアウトバウンドです。接点のない顧客への営業電話などが代表例です。
インターネットの普及によって情報収集が活発になり6割近くの顧客が、営業担当と顔を合わせる前に意思決定を終わらせているといいます。そのような市場環境のなかで、一方的に商品を売り込むのではなく、情報発信によってエンゲージメントを高めていくことが重要になります。
上記は少し古いデータで、直近の筆者の体感としては問合せの8割以上が「商談前にアタリをつけている」ような印象を受けます。実際、筆者が事業会社で委託先などに相見積もりを取る際、依頼時にすでに評価を終えていました。商談はあくまで事前の評価を確認する場という位置づけです。
参考・出典:The Digital evolution in B2B Marketing
⑩コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、顧客の必要とする情報を継続的に発信することで、エンゲージメントを高めるためのマーケティング手法です。上述したインバウンドマーケティングを実践するうえで、非常に有効な手段です。SEOも施策として組み合わせると有効になります。対象ペルソナや商品サービスによっては、SNSを活用した施策も考慮すべきでしょう。
筆者が考えるコンテンツとは、Webサイト上のコンテンツだけにとどまりません。ウェビナーでの発信内容や、展示会、営業資料(チラシ・カタログ)、営業パーソンやカスタマーサクセスチームの対応、ユーザー会などなど。事業活動において顧客との接点になるあらゆるものがコンテンツであると考えています。そこに一貫性を持たせるためには、これまで述べてきたように、マーケティング戦略とその浸透が欠かせません。
☑︎関連記事:正しいSEO対策とは?SEOの基本施策をわかりやすく解説
☑︎関連記事:SNSマーケティングのやり方や戦略の立て方を事例を交えてわかりやすく解説
⑪PMF
PMFは「Product Market Fit」の頭文字を取ったものです。商品やサービスが市場に受け入れられ、適合している状態を指します。近年、SaaS(Software as a Service)における企画開発やマーケティング戦略などで耳にすることも増えてきました。
PMFが重要なのは「顧客は満足しないとすぐにスイッチしてしまう」というシンプルかつ強力な理由からです。競争の激しい現代では新規参入も多く、なおかつ消費者の価値観は絶えず変化し続けています。商品やサービスが市場を捉えていないと、プロモーションに積極投資を行ってもビジネスの拡大は難しくなるでしょう。
PMFを測る代表的な尺度としては下記のふたつが挙げられます。
- リテンション率:商品やサービスの継続率
- NPS(Net Promoter Score):商品やサービスの他者への推奨度を測る指標
マーケティングリサーチの手法
マーケティング戦略策定のプロセスにおいて、顧客理解は欠かせません。顧客の課題を深堀する際に役立つのがマーケティングリサーチの手法です。
①アンケート調査
アンケート調査は母集団の傾向を見る定量調査として有効です。紙ではなくインターネット上でアンケートを行うインターネットリサーチだと手軽に実施できます。アンケート調査で重要なのは母集団の選定と、調査票の設計(聞き方)です。聞く相手と聞き方によって結果が変わるからです。自社にノウハウがない場合は、調査企画からコンサルティングしてくれる企業もあります。
②インタビュー
インタビューは定性調査のひとつです。一人に対して深く掘り下げて聞く「デプスインタビュー」と、複数名に座談会形式で聞く「グループインタビュー」があります。インタビューを行うことで、消費行動に至るきっかけや、詳細な情報収集、つまりカスタマージャーニーを把握できます。ただし、インタビューは一定のファシリテーション能力が必要です。
③行動観察・エスノグラフィー
行動観察とは特定のユーザーの行動を文字通り観察する手法です。エスノグラフィーとも呼ばれます。インタビューやアンケート調査では本人が気づいていない問題意識や習慣などは吸い上げられません。行動を観察することで、行動の背景に隠された「無意識」を可視化できます。実際に訪問し観察することもあれば、最近では商品を使用する際の画像や動画を送ってもらい分析することもあります。
④ユーザーテスト
ユーザーテストは製品やWebサイトなどの使い勝手を、実際に使ってもらいながらテストする方法です。たとえばECサイトであれば、目的の商品を探して購入するまで、といったシナリオをあらかじめ用意し、ユーザーに操作してもらいます。その様子を観察したり録画しあとから分析したりするのです。ユーザーがどの操作でつまずいたのか、などをチェックすることでUIの改善や商品仕様の検討に役立てられます。
プロモーション手法
代表的なプロモーション手法についても解説します。マーケティングの基本はターゲットが接するメディアへ網を張ることです。
①マスメディア
マスメディアは主にテレビ、新聞、雑誌、ラジオの4つを指し「4大媒体」や「4マス媒体」などとも呼ばれます。インターネットが情報収集の主流になった現在も、テレビの影響は強いですし、BtoBなどは業界紙への出稿が問い合わせ増につながるケースも少なくありません。
②Web広告
Web広告はインターネット上で視聴可能な広告のことです。インターネット広告の市場規模は年々増加しており、すでに4マス媒体を上回っています。少額からでもはじめられ、費用対効果を算出しやすい点が特徴です。ただし運用を適切に行うには一定のスキルが必要な場合もあります。
③イベント・展示会
コロナ禍で一時的に減少しましたが、イベントや展示会は多くのユーザーに接触できる機会です。一般的には展示会場や商業施設などで行われますが、最近ではインターネット上で展示会を行うケースもあります。
④屋外広告・交通広告
屋外広告はビル看板や横断幕、デジタルサイネージなどが挙げられます。交通広告は駅広告や車両内の広告、また最近はタクシー広告なども盛んです。とくにデジタルサイネージを使った広告は表現力が高く、ユーザーの足を止める効果が高いとされています。
⑤DM
ダイレクトメール(DM)はカタログ通販などでよく使われる手法です。自社の会員や過去に接点のある見込み顧客に配信するだけでなく、すでに会員を抱えている企業のリストにダイレクトメールを送ることも可能です。紙や手紙形式のダイレクトメールは手に取ってもらいやすいというメリットもあります。
⑥オウンドメディア
オウンドメディアとは企業が保有するメディアの総称です。公式Webサイト、SNSアカウント、YouTubeアカウントなどすべてのメディアが対象となります。オウンドメディアを中心に、顧客が求める情報を発信し、エンゲージメントを高める手法が、上述した「コンテンツマーケティング」です。
マーケティングの成功事例
マーケティングについて理解を深める際に、具体的な成功事例を知ることはとても役に立ちます。下記に挙げた企業は一例ですが、ぜひご参考にしてください。
①ユニクロ
ユニクロのマーケティング戦略はSTP分析における「セグメンテーション」の好例としてよく取り上げられます。セグメンテーションとして性別や年齢層などが一般的です。しかしユニクロのセグメントは違います。下図のように「カジュアル or フォーマル」、「トレンド or ベーシック」というセグメンテーションを行いました。
その中でユニクロは「カジュアル and ベーシック」というセグメントを選択。それは彼らが掲げる「LifeWear」というコンセプトに昇華されました。
参考・出典:LifeWearとは│ユニクロ
②スターバックス
スターバックスのマーケティングも非常にユニークです。皆さんはスターバックスのCMをご覧になったことはありますか? ないのではないでしょうか? スターバックスにおけるマーケティングの源泉はズバリ「店内(店員の接客も含む)」です。4Pでいうところの「Place」が「Promotion」そのものなのです。
同社は家でも職場でもない「サード・プレイス」という新しい概念をもたらしました。顧客にくつろいでもらい、美味しいコーヒーを飲んでいただくことがスターバックスのマーケティングです。
こうした考え方は同社の原則「Starbucks Principles For Upholding the Third Place」にも記載されています。
参考・出典:Starbucks Principles For Upholding the Third Place
③P&G
P&Gは洗剤などの消費財を手掛けるグローバル企業です。パーセプションフローを開発した音部大輔氏は、同社の「アリエール」のリ・ブランディングにおいてはじめて、このフレームワークを使ったと著書で語っています。
洗濯洗剤のコモディティ化が進む中でシェアを伸ばすには新しい「知覚の変化=パーセプション・チェンジ」による市場の創造が必要不可欠でした。そこで音部氏は当時アリエールの機能のひとつであった「除菌」に着目し、そのベネフィットを訴求するための「理想的なパーセプション・チェンジ」を描いていきます。
この先は、よければぜひ書籍を手に取ってご覧ください。筆者もとても参考になりました。
参考・出典:The Art of Marketing(著者:音部大輔氏)
④キーエンス
キーエンスは製造業向けのセンサーなどを開発・販売するメーカーです。従業員の平均年収は1700万円以上。高年収のひとつの要因は営業利益率50%という驚異の財務体質です。キーエンスの高収益を支えているのが、同社のビジネスモデルです。
同社では独自のビジネスモデルを「グローバルダイレクトセールス」と呼んでいます。代理店を介することが多い業界で、同社は直販を貫いています。専門知識を持った同社の営業担当が顧客の要望を聞き、その内容をマーケティングへフィードバックし製品の企画開発等に活かしている点も特徴的です。
グローバルダイレクトセールスを実現する要素として下記の3点を挙げています。
- ファブレスによる柔軟な生産体制
- 世界初・業界初を世界標準へ
- 全世界当日出荷の実現
これらの要素は実はすべて「顧客の課題を考えつくす」という同社のゆるぎない信念に基づいています。
参考・出典:キーエンス独自のビジネスモデルとは
マーケティングに役立つツール
マーケティング戦略を練ったり、施策を推進したりするには時間も手間もかかります。その際に役立つ便利なツールをいくつかご紹介します。
①市場分析ツール
SPEEDA
参考・出典:SPEEDA
SPEEDA(スピーダ)は市場分析を効率化するツールです。専属アナリストによる業界レポート、トレンド情報、有料メディアや専門誌のニュースを簡単に閲覧できます。企業の財務情報なども検索できるので、3C分析などを効率化できます。
②ネットリサーチ
マクロミル
参考・出典:マクロミル
マクロミルはインターネットリサーチをはじめとした各種リサーチサービスを提供する企業です。取り扱うリサーチの幅も広く、インタビュー調査などにも対応しています。
Fastask
参考・出典:Fastask
Fastaskはセルフ型のインターネットリサーチサービスです。低コストかつ高スピードでアンケート調査が可能です。
③MA/CRM
Adobe Marketo Engage
参考・出典:Adobe Marketo Engage
Marketo(マルケト)はMA(マーケティング・オートメーション)ツールです。ユーザーの属性や行動履歴に合わせた、ワン・トゥ・ワンマーケティングを実現します。スコアリングやシナリオ設定をきめ細かく行える点が特徴です。
SATORI
参考・出典:SATORI
SATORIもMAツールのひとつです。同ツールの特徴として「アンノウンマーケティング」が挙げられます。メールアドレスのない、つまり「アンノウン・ユーザー」に対してもコミュニケーションを最適化でき、CVRを高められます。
④Web分析ツール
Googleアナリティクス
参考・出典:Googleアナリティクス
GoogleアナリティクスはGoogleが提供する無料のWeb分析ツールです。Webサイトのアクセス数や直帰率、CV数などを細かく分析できます。すでに最新版である 「GA4」がリリースされています。
⑤ユーザーニーズ分析ツール
ミエルカSEO
ミエルカはユーザーの「検索意図」を可視化するツールです。SEO対策やコンテンツマーケティングはもちろん、ユーザーニーズを調査する際にも活用できます。マーケティングで重要な顧客理解の手段のひとつとして役立ちます。
ミエルカヒートマップ
ミエルカヒートマップはWebサイトに訪問したユーザーのクリックや、スクロール率などを可視化します。「ユーザーが求めているものは何か」を知ることでマーケティングに役立ちます。ヒートマップツールとしては後発ですが、無料からお試しできますので、ぜひ登録してみてください。
マーケティングを学ぶのにおススメの本
マーケティングを体系的に学び、豊富なケーススタディを知るのに書籍も有効です。筆者の手元にある書籍からいくつか紹介します。
①新訂 マーケティング(放送大学教材)
マーケティングの基本を一通り学べる書籍です。考え方だけでなくフレームワークの使い方なども具体的に記載されています。教材らしく単元ごとにちょっとした「課題」がありますので取り組んでみるのもいいでしょう。
出版社:一般社団法人 放送大学教育振興会
著者:井上 淳子 放送大学客員教授・成蹊大学教授 / 石田 大典 放送大学客員准教授・日本大学准教授
マーケティング(放送大学教材)
②イノベーションのジレンマ
ジョブ理論でも有名なクリステンセン氏の著書です。イノベーションのジレンマ、破壊的イノベーション、持続的イノベーションなどについて、具体例を交え詳細に記載されています。ホンダの北米オートバイ市場への進出など、事例が多いのも魅力です。
出版社:翔泳社
著者:クレイトン・クリステンセン
イノベーションのジレンマ
③ジョブ理論
クリステンセン氏のジョブ理論は製品やサービスの企画やコンセプトを考える際に役立ちます。著書のなかで同氏は「顧客のジョブの本質をつかむにはストーリーボードを作ることだ。ストーリーボードをまとめたいなら、顧客に話しかけてみよう」と述べています。筆者もそれに勝るものはないと思います。
出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン
著者:クレイトン・クリステンセン
ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム
④コトラーのマーケティング5.0
上述したとおりコトラー氏のマーケティング5.0は、テクノロジーを活用した新しい顧客体験の創出です。著書の後半では、最新の事例などもいくつか掲載されているので、参考になります。マーケティング1.0から5.0をざっくり解説されている点も頭の整理をするうえで役立ちます。
出版社:朝日新聞出版社
著者:フィリップ・コトラー /ヘルマワン・カルタジャヤ / イワン・セティアワン
コトラーのマーケティング5.0
⑤The Art of Marketing
The Art of Marketingはパーセプションフローを考案した音部氏の著書です。同フレームワークの詳細や作り方、KPIの設定の仕方はもちろん、同氏が取り組まれたマーケティングの顛末が事細かに書かれている点も魅力です。後半に「よくある質問」があるのも丁寧です。特典としてパーセプションフローのパワポテンプレートがダウンロードできます。
出版社:宣伝会議
著者:音部大輔
The Art of Marketing
マーケティング実践のために、顧客への理解を深めよう
著名人によるマーケティングの定義からもわかるとおり、マーケティングとは顧客のニーズや課題をがっちりとつかみ、価値を提供することです。現代は顧客を知るための方法やツールがいくつも存在します。ミエルカもそのひとつです。顧客への理解を深め、日々の施策や活動に反映していきましょう。